ベッドガードでの乳児死亡事故、警告表示不十分でメーカーに3500万円の賠償命令
2024/03/27   コンプライアンス, 訴訟対応, 製造物責任法, メーカー

ベッドガードの対象年齢の警告が不十分で賠償命令


ベッドガードの設計の欠陥や警告表示の懈怠により、生後9カ月の乳児が死亡したとして、両親がメーカーに約9300万円の損害賠償を求めていた訴訟で、東京地方裁判所は3月22日、メーカーに対し遺族への賠償を命じました。
判決では、製品の欠陥はなかったとしつつも、製品の対象年齢が生後18ヶ月以上であるとの表示が適切にされず、警告が不十分だったことが乳児死亡につながったと結論づけられました。

 

生後9カ月の乳児がベッドガードとマットレスの間に挟まれ死亡


この事故が発生したのは2017年8月。当時、生後9カ月だった長男は母親に寝かしつけられ自宅の寝室にて、今回問題となったベッドガード(以下「本件ベッドガード」)が付いたマットレスで眠っていました。
本件ベッドガードは柵状の器具で、ベッドのマットレスの横側に装着し、幼児が寝返りをしても柵がストッパーとなり、転落するのを防止する仕組みになっていました。

母親は長男がぐっすり眠ったため、一度寝室を離れましたが、約2時間半後に様子を見に戻ると、長男がベッドガードとマットレスの間に挟まれているのを発見したということです。発見時、長男は息をしておらず、病院に運ばれましたが、死亡が確認されたということです。

両親はこの事故を受けて、本件ベッドガードの製造元である株式会社カトージに対し、製造物責任法に基づき計約9300万円の損害賠償を求める訴訟を提起しました。

両親側は、
・ベッドガードにはマットレスとの間に隙間が生じやすい欠陥があったのに対策を取らなかった
・ベッドガードの対象年齢は生後18カ月から5歳だった。説明書と箱には対象年齢について表示していたものの、本体には記載していなかったため、危険性の警告に関し、懈怠が見られる

などと主張。

一方でカトージ側は、
・製品に欠陥はない
・対象年齢については説明書や外箱に警告を表示していた
・両親が説明書通りに設置していたか疑問

として請求棄却を求めていました。

東京地方裁判所は3月22日の判決で、説明書と異なる方法で本件ベッドガードを設置した両親の落ち度を指摘し、製品の設計上の欠陥を否定した一方、対象年齢の警告について、“警告として不十分であった”との判断を示しました。

本件ベッドガードの対象年齢については、説明書や外箱に「18カ月未満には適しておらず、絶対に使用しないでください」との記載で警告されていましたが、本体には表示されておりませんでした。

裁判所は、
(1)本体に対象年齢が表示されていないことから、使用者が警告を認識しやすい場所に表示があったとは認められない
(2)取扱説明書の警告文にも、発生するおそれがある事故の具体的な内容が指摘されていない

などと指摘。さらに、適切な警告表示があれば両親は使用しなかったとして死亡との因果関係を認定し、カトージに対し、約3600万円の損害賠償を命じました。

 

製造物責任法における「指示・警告上の欠陥」とは?


一般に販売される商品や、企業が使用する業務用機械などのトラブルで損害が発生した場合、製造物責任法に基づいて、メーカー・輸入元・設置業者などの責任が問われることがあります。

製造物責任法は、製品等が原因で損害が生じた場合に、被害者側が製品の「欠陥」を証明することで、メーカー側の過失を証明することなく損害賠償を請求できるというものです。

製造物責任法において「欠陥」は大きく3つに分類されます。
(1)設計上の欠陥
(2)製造上の欠陥
(3)指示・警告上の欠陥

(1)と(2)は製品自体に問題がある場合を指しますが、(3)指示・警告上の欠陥については、取扱説明書等の記述に不備がある場合にも認められる可能性があります。

今回の事故のように、製品自体の設計や製造に問題がなくても、使用方法によっては事故が起こる危険性があるケースを予見できる場合、メーカーなどは消費者らに対して、

①事故につながる危険な用法
②その用法から発生する可能性のある事故の内容

などを具体的に指示・警告する必要があります。

 

「指示・警告上の欠陥」が認められた判例


1.奈良地裁 平成15年10月8日判決
給食用食器である強化耐熱ガラス製の食器(コレール)を小学三年生が床に落下させ、飛び散った破片で右目を受傷した事案。
奈良地裁は、コレールが割れにくい食器である反面、いざ割れたときの危険性が極めて高い製品である点を指摘し、消費者に対して割れた場合の危険性についての注意喚起と、その危険性を認識したうえでの使用方法につき、十分な警告をする必要があったとして、商品カタログや取扱説明書における指示・警告上の欠陥を認めました。

2.東京地裁 平成15年3月20日判決
ジャクソンリース・気管切開チューブという医療器具を接続しようしたところ、回路が閉塞して事故が発生した事案。気管切開チューブにつき、ジャクソンリース16種類のうち11種類の併用とは問題ないものの、残り5種類との併用により、回路閉塞の危険がありました。
東京地裁は、まず、ジャクソンリースにつき、「危険がある併用使用の存在について指示・警告すべきであったがこれが欠けていた」として、指示・警告上の欠陥を認めました。
また、気管切開チューブについても、危険がある組み合わせへの警告を欠き、加えて、問題となったジャクソンリースとの接続も安全であるかのような誤解を与える指示があったとして、指示・警告上の欠陥を認めました。

3.東京地裁 平成16年3月23日判決
原告が被告に対し、ピアノ用防虫防錆剤の製造を委託し、被告より納入された製品を楽器店等に販売したところ、後に、製品がピアノ内部で液状化することが判明したため、製品の発売を停止し、販売分の回収作業を行った事案。
問題となった錠剤には、ナフタリン臭を防ぐ目的でソルビットという水に極めて溶けやすく吸湿性のある補助剤が配合されており、これを一般家庭でアップライトピアノ内部に吊り下げて使用した場合、空気中の湿気を吸い、溶けて液状化するという性質を有するものでした。
東京地裁は、ソルビット配合の事実、ソルビットが水に溶けやすい特性を有していることを原告に知らせていなかった点が、指示・警告上の欠陥にあたると認定しました。

 

コメント


取扱説明書での対策、いわゆる「PL対策」を怠ったことが原因で発生したと認定された今回の事故。インターネット上では、本体にまで対象年齢の警告記載を求めるのは、メーカーにあまりに酷な判決ではとの声も一部見られます。

しかし、「指示・警告上の欠陥」が訴訟上、シビアに認定される可能性がある以上、メーカーとしては、安全な設計・製造を行うのはもちろんのこと、本体・外包装・取扱説明書・カタログ等に万全を期した警告記載を行わなければなりません。
自社製品の警告記載について、改めて確認してみる必要がありそうです。

 

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