総務省が日テレに指摘、"マスメディア集中排除原則"とは
2023/10/11   商事法務, 行政対応, 会社訴訟, 行政法

はじめに

 日本テレビホールディングスは3日、総務省から系列局の取締役を兼務する役員の数が超過しているとの指摘を受けたと発表しました。再発防止に務めるとのことです。今回はマスメディア集中排除原則について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、日本テレビの取締役2名が系列テレビ局の取締役も兼務しておりましたが、2021年の株主総会で同社の取締役の数を減らしたことによって地方局側が日テレを「支配」している状態に陥ったとされます。総務省の指摘により調査したところ、日テレ系列のテレビ岩手、宮城テレビ、読売テレビ、広島テレビ、テレビ大分の5つの局で違反が見つかり、テレビ大分以外の局では2年3カ月にわたって違反状態となっていたとのことです。5つの局では既に問題を是正し、総務省に報告したとされます。

 

マスメディア集中排除原則とは

 マスメディア集中排除原則は、放送することができる機会をできるだけ多くの者に対し確保することにより、放送による表現の自由ができるだけ多くの者によって享有されるようにすることを目的とした原則です(放送法91条)。基幹放送事業者に対し、出資等に関する規制を設け、少数の者による放送事業の支配を防止しております。平成23年の放送法改正によって明文化されており、各テレビ局に維持義務化されました。同原則の特例や支配関係の基準等については同法の委任を受けた総務省令で規定されており、同時に電波法からは同原則の規定が削除され、放送法に一本化されております。以下具体的に見ていきます。

 

マスメディア集中排除原則の内容

 放送法93条1項では、基幹放送の業務認定の要件として、(イ)基幹放送事業者でないこと、(ロ)、基幹放送事業者に対して支配関係を有しないこと、(ハ)基幹放送事業者またはそれに対して支配関係を有する者から支配関係を受けていないこととしております。ここで「支配関係」とは、(1)議決権割合で10%超の株式保有、(2)5分の1を超える役員兼任、(3)代表権を有する業務執行役員等または常勤の業務執行役員等の兼任とされております(5条1項、6条)。これらの要件を満たさないこととなった場合には、総務大臣は認定の取消しや免許取消しをすることができます(104条、電波法76条4項)。ただしこの原則には特例が設けられており、テレビ1局とラジオ放送4局、またはテレビ1局とコミュニティ放送1局の範囲内であれば兼営や支配が認められております。

 

その他のマスメディアに関する規定

 その他のマスメディアに関する規定としては、日刊新聞社に関する株式の譲渡制限に関する法律による規制が挙げられます。会社法では原則として株式の譲渡は自由ですが(127条)、株式に譲渡制限を設けることが認められており(2条17号)、株式の譲渡についての承認手続きが規定されております(136条等)。会社が譲渡を承認しない場合で、株主からの買取請求があった場合は、会社が買い取るか指定買い取り人を指定することとなります。一方で日刊新聞社については定款で、株式の譲受人をその会社の事業に関係のある者に限ることができるとされております(1条)。また株主が会社の事業に関係のない者となった場合、その株式を会社の事業の関係者に譲渡しなければならないとする旨も定めることができるとされております。これは外部資本の圧力等から新聞における言論の自由を確保するためと言われております。

 

コメント

 本件で日本テレビは同社の役員2名を系列局5社の役員も兼務させておりました。2021年の株主総会で同社の役員を減らしたことにより、兼務している役員が5分の1を超えることとなってしまし、テレビ岩手や読売テレビなど5社が日本テレビを支配する関係が生じてしまったとされます。以上のようにテレビ局については放送事業の少数支配を防止するため、会社法等とは異なる規制が設けられております。一方で日刊新聞社については逆に外部資本の圧力防止を目的として株式譲渡を関係者に限定することが認められております。このように各業界では基本となる会社法等とは違った特別の規制が置かれている場合があります。自社の業界には特殊な規制が存在しないかを慎重に確認しておくことがコンプライアンス上重要と言えるでしょう。

 

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