THECOO、不正発注と着服を繰り返した元従業員に約2.8億円の損害賠償請求
2023/09/13   労務法務, 危機管理, 訴訟対応

はじめに


インフルエンサーマーケティング事業で知られるTHECOO株式会社(東証グロース上場中)。5月8日に「元従業員らが約6900万円の架空発注などを行っていた」旨を発表していましたが、9月8日、同社は元従業員ら2名に対し、約2億7500万円の損害賠償を求めて、東京地方裁判所に提訴したことを発表しました。

 

従業員による不正な発注の実態


THECOOの特別調査委員会の調査結果によると、元従業員らは2019年11月から2023年4月にかけて、以下のような不正発注を行っていたといいます。

(1)インフルエンサー事業部に所属していた元従業員の一人(X氏)が、自身の親族が経営する会社(C社)等に対し、合計60件のクリエイターサポート業務を架空に発注し、会社から約3700万円を支払わせた。
 
(2)このX氏は同じくインフルエンサー事業部に所属していたY氏に、これらの不正な発注の事実を伝え、Y氏が設立し経営を支配している会社(D社)に対し、同様の架空発注を3件行い、会社から約60万円を支払わせた。
 
(3)その後、Y氏は、自身が設立し経営を支配している上記D社等に対し、合計52件の不正な発注(全てが架空ではなく、一部は業務実態が認められたというが、D社との利益相反取引自体、就業規則で禁止されていた)を行い、会社から約2900万円を支払わせた。
 
(4)また、Y氏はX氏の親族が経営する上記C社に対しても5件の架空発注を行い、会社から約110万円を支払わせた。


THECOO側は、2023年12月期第1四半期の決算発表に向けた準備を進めていた中、これらの架空発注や水増発注の事実を把握。5月2日に特別調査委員会を設置し、事実関係の全容解明、原因究明、類似事案の有無の確認及び再発防止策の検討を行うなど対応に追われていました。不正発覚を受け、元従業員らは今年6月に懲戒解雇となっています。

また、THECOOによると、今回の不正行為の影響で、同社のデジタルマーケティング事業における大型受注が減ったほか、案件単価が低下したことで、業績が悪化したといいます。THECOOの22年度第2四半期の売上高は、2億4000万円(前年同期比39.9%減)、営業損失は6500万円(同比7600万円減)と発表されています。

こうした背景を受け、THECOO側は元従業員らに対し、一連の不法行為で会社が被った損害 合計約2億7489万円の賠償を求め、9月1日に東京地方裁判所に提訴しました。
損害の内訳は不正発注約6889万円と、独立調査委員会及び特別調査委員会による不正調査に要した費用約2億600万円などということです。

 

課題と再発防止策


独立調査委員会が提出した報告書では、THECOOにおける不正発注防止体制の不備が指摘されています。

(1)不正に関するリスク評価の不十分性
インフルエンサー事業部の案件担当者が、受注から仕入れき先の選定など一連の対応を行える裁量を持っていたため、不正発注のリスクは十分に予見できた。経営陣もそのリスクを認識していたとみられるが、リスクの影響力などの分析が不十分で適切な対応が行われなかった。

(2)リスクの存在を踏まえた統制活動の不徹底
発注先の選定について事前・事後の牽制を働かせる体制が存在せず、担当者が取引先と通謀して不適切な発注を行うリスクは十分に予見できた。経営陣もリスクとして把握していたが、分析が不十分であったり、安易な性善説に基づいて実効性のある仕組みの整備がされていなかった。

(3)適切な財務報告のための体制不備
経理処理に必要なデータなどが正確に収集される仕組みが不十分であった。

これらの不備を念頭に、独立調査委員会によってまとめられた再発防止策の一部をご紹介します。

 

【不正発注に対する3ラインモデル】
1.第1ライン(現業部門)での対策:
・発注前の承認手続きの実施:
各発注行為が適切か、上長が吟味したうえで承認する手続きを確実に履行する。

・成果物の実在性確認の徹底:
成果物が発生する取引の場合、成果物が実在することを徹底的に確認する。一方、具体的な成果物が発生しない取引の場合は、必ず発注先等から証憑を入手する。

・事後的な発注行為の妥当性審査の追加:
月次での取引確定作業の際、案件担当者以外の者が発注内容の妥当性を確認・審査する体制を構築する。

・案件担当者間の定期的な交替の実施:
特定の担当者が、同種の案件を長期継続的に担当することがないよう、適宜、担当者の交代を実施する。

・発注先ごとの定期的な検証:
発注先の利用頻度の偏りや急激な発注金額の増加がないかを、発注先ごとに定期的に確認し、不正発注の兆候を早期に発見する。

2.第2ライン(間接管理部門)での対策
・取引先の実態調査の実施:
新規取引先を登録する際は、反社会的勢力に該当するか否かのみならず、新規取引先の業務実態の調査も行う。

3.第3ライン(内部監査部門)での対策:
・内部監査の強化:
内部監査計画の策定と監査手続の実施の際、不正発注のリスクを念頭に置きながら、発注先の適切性および成果物の納品状況のサンプリング調査を行う。

このほか、財務関連でも指摘があったことを受け、経理処理の統制強化を行うほか、経理財務部と開発部門そして事業部間それぞれの横のつながりを強め、新規取引開始の際や契約条件変更の際に不十分だった連携を改善するなどしていくということです。

 

コメント


架空発注の規模が約6900万円に上った今回の事案。元従業員らが不正を働いた背景には、給与が業務量に見合っていないなど、待遇に対する不満があったとされています。また、THECOO側は不正発覚後、元従業員らに対し損害賠償の支払いを求めていたそうですが、一切の支払いがなされなかったことから提訴に至ったとしています。

会社への不満と不信、そして不正発注防止体制の不備が相まって引き起こされた不正発注の数々。個人に対するものとしては、なかなか高額な今回の損害賠償請求に対し、どのような判断が下されるのか、目が離せません。

 

【関連リンク】
調査報告書(THECOO株式会社独立調査委員会)

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