公取委が三愛リテールサービスに警告、不当廉売の要件について
2023/05/19   独禁法対応, 独占禁止法

はじめに

 公正取引委員会は17日、ガソリンを不当に低価格で販売したとして、「三愛リテールサービス」に独禁法違反のおそれがあると警告していたことがわかりました。周辺よりも1リットルあたり20円ほど安かったとのことです。今回は独禁法の不当廉売を見直していきます。

 

事案の概要

 公取委の発表などによりますと、ガソリンスタンドを運営する「三愛リテールサービス」(品川区)は今年1月31日から3月7日までの36日間、茨城県土浦市のガソリンスタンドで、周辺のレギュラーガソリンが1リットルあたり160円以上であったところ、20円ほど安い140円から143円で販売していたとされます。周辺ライバル店への対抗策として供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して販売をしたとして、公取委は独禁法に違反するおそれおがる旨警告しました。周辺地域の競合他社の事業活動を困難にさせる可能性があったとのことです。

 

独禁法の不当廉売規制

 不当廉売(ダンピング)とは、原価割れなど不当に安い価格で販売することによってライバル事業者の事業活動を妨害する行為をいいます。独禁法2条9項3号では「正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの」と規定しております。また公取委の一般指定(昭和57年6月18日告示15号)6項でも「正当な理由がないのに商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し、その他不当に商品又は役務を低い対価で供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること」としております。違反した場合は公取委による排除措置命令(20条)、また法定不当廉売については課徴金納付命令の対象となっております(20条の4)。

 

不当廉売の要件

 不当廉売の要件は、(1)供給に要する費用を著しく下回る対価、(2)他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ、(3)正当な理由がないこととなります。公取委のガイドラインによりますと、「供給に要する費用」とは総販売原価を言うとされております。そして総販売原価とは対象商品の供給に要するすべての費用を合計したものであり、通常の製造業では製造原価に販売費と一般管理費を加えたもの、通常の販売業では仕入原価に販売費と一般管理費を加えたものとされます。「著しく下回る」かは事案に即して算定されるとされておりますが、商品を供給しなければ発生しない費用(可変的性質を持つ費用)を下回る場合は、販売すればするほど赤字となることから、著しく下回ると推定されます。「他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ」については、諸般の状況からそのような結果が招来される可能性があれば認められます。その判断にあたっては廉価販売業者の事業規模・態様、商品の数量、期間、商品の特性、意図・目的などを総合的に考慮するとされます。そして「正当な理由」とは廉売を正当化する特段の事情とされ、たとえば賞味期限が近い生鮮食品の安売りなどは正当な理由があると言われております。

 

ガソリン等の流通における不当廉売

 公取委のガソリン等流通に関するガイドラインでは、販売に際して消費者に提供されるポイントも、利用割合や提供条件、利用条件、有効期限などの要素を勘案し、ポイントの提供が値引きと同等の機能を有する場合は実質的に値引きと判断するとしております。また他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれについて、給油所の形態やガソリン販売の期間、廉売時期、広告宣伝の状況、対象となっているガソリン等の種類、販売者の意図・目的、周辺の販売業者の状況などを判断要素とするとしております。そして周辺の事業者よりも安く仕入れている場合でも、その実質的仕入れ価格を下回る価格で継続して販売する場合、特に大規模事業者が行う場合は周辺事業者への影響が大きいと見るとしております。

 

コメント

 本件で公取委は、三愛リテールサービスが36日間にわたってレギュラーガソリンを「その供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給」し、他のガソリン販売業者の事業活動を困難にさせるおそれを生じさせたとしております。詳細は不明ですが、総販売原価だけでなく仕入れ価格も下回る価格で販売されていたのではないかと考えられます。以上のように独禁法の不当廉売は原則として仕入れ値や原材料費に販売費や管理費を加えたものを下回った場合に問題となってきます。実際に問題となった事例としてはスーパーでの1円販売のもやしやガソリンを1リットルあたり86円で販売していたコストコ、スマホの1円販売などが挙げられます。いずれも顧客誘引を目的としておりますが、採算を度外視した廉価販売は違法となる可能性があります。今一度自社の販売価格を見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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