東京地裁、タクシー運賃一律値上げは裁量権濫用と判断
2023/03/07   行政対応, 訴訟対応, 行政法

はじめに

運賃一律値上げに応じなかったタクシー会社が国による事業許可取消処分の差し止めを求めていた訴訟で東京地裁が仮差止の決定を出していたことがわかりました。強制値上げは裁量権の濫用とのことです。今回は行政処分の差止訴訟について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、関東運輸局は昨年10月、人件費や燃料費の増加などを理由に、東京23区と武蔵野市、三鷹市での公定幅運賃を11月から引き上げると決めたとされます。公定幅運賃制度とは、東京23区などの特定地域でタクシーの供給過剰による運賃競争を避けるために、国が一定幅で定める運賃の範囲内でタクシー業者が営業をするというものです。原告のロイヤルリムジン(江東区)と子会社のジャパンプレミアム(中央区)は予約送迎の固定客を失いかけないとして運賃引き上げに応じていなかったとのことです。同社は運輸局から是正指導を受けており、運賃変更命令や事業許可取り消しのおそれが生じていたとされ、処分の差止と仮差止を求め東京地裁に提訴しておりました。

 

差止めの訴えとは

 差止めの訴えとは、行政庁が一定の処分または裁決をすべきでないにもかかわらず、これがなされようとしている場合に、行政庁がその処分または裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟を言います(行政事件訴訟法3条7項)。たとえば行政機関から指導や是正勧告を受けており、このままでは許可取消処分や建築物の除却命令などを受ける可能性が高いといった場合に、それを事前に止めることを目的として行われます。提訴の要件は、原告に法律上の利益が有ること、処分がなされることにより、重大な損害が生じるおそれがあり、かつ、その損害を回避する他の適当な方法がないこととされます(37条の4第1項、3項)。法律上の利益を有するとは、いわゆる原告適格のことであり、処分の対象となっている者であれば問題なく該当すると言えます。

 

本案勝訴要件

 上で述べた要件はあくまで提訴するためのもので、請求が認容されて差止め命令が出るかどうかは別問題と言えます。それでは差止めが命じられるための要件はどのようなものでしょうか。37条の4第5項によりますと、行政庁がその処分もしくは裁決をすべきでないことが根拠となる法令の規定から明らかであるか、または処分・裁決をすることが裁量権の逸脱または濫用となると認められる場合に差止め判決を出すとしております。端的に法令に違反している場合や、ある程度の判断の幅が行政庁に与えられている場合でも、その裁量の範囲を逸脱してしまっている場合には違法となり差止められるということです。一般に裁量権の逸脱・濫用となる場合とは、行政処分をするにつき、重大な事実誤認がある場合、考慮すべきことが考慮されていない場合、不正な動機がある場合、平等原則や比例原則に違反している場合などとされております。

 

仮の差止めとは

 行政処分の差止めを求めて提訴していても、認容判決が確定するまでに処分がなされてしまっては損害の防止にならない場合があります。たとえば行政機関による公表の差止めを求めて提訴していても、確定までに公表されてしまえばもはや取り返しがつかないといった具合です。そこで一定の場合に仮の差止めを求めることができます。手続要件としては、上記の差止め訴訟が提起されていることが挙げられております(37条の5第2項)。あくまでも本案訴訟が確定するまでの仮の措置だからです。そして実体要件として、償うことができない損害を避けるため緊急の必要があること、本案について理由があるとみえることとされます。ある程度勝訴の可能性が見え、ひとたび処分がされてしまえば事後的に金銭では回復困難という場合です。逆に仮の差止めをすることによって公共の福祉に重大な影響を及ぼす場合は認められないとされます(同3項)。

 

コメント

 本件で原告側は、今回の公定幅運賃改定は旧運賃で適正に運営していた事業者の法的地位を侵害していること、今回の改定に必要性・合理性が無いこと、コロナ禍から回復してきた近時の収益の増大といった事情を考慮していないことなどから関東運輸局の裁量権を逸脱濫用しているとして差止めおよび仮差止めを求めました。東京地裁は予約送迎を中心に事業展開する業者への影響が大きく、固定客の喪失や労働条件の悪化につながり、またタクシーの供給不足も見受けられるとして考慮が十分でないとし、仮差止めを認めました。裁量の逸脱濫用が認められたと言えます。以上のように行政機関による処分は出されてしまった場合は取消訴訟によることになりますが、出される前に差し止めることも可能です。しかし行政裁量の濫用を立証することは簡単ではなく、認められないことのほうが多いと考えられます。このように行政関係の訴訟は非常に複雑で様々な制度が用意されております。どのような場合にどのような対策が取れるかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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