「データを使ってXXしたい」と事業相談を受けた場合に備えて最低限知っておくべきこと
2021/11/22   情報セキュリティ, 著作権法, 不正競争防止法, IT, コンサルティング

このコラムでは、民間企業でビジネス経験のある法務担当者が、企業法務の世界に関心のある方向けに、初めてでも分かりやすい内容に噛み砕いてノウハウを公開していきます。

 

1 はじめに


企業法務のミッションとは、事業の法的リスクに関するアドバイスや法的トラブル防止、トラブル時の損失最小化であり、それらを通じて事業収益に貢献することです。ただ、営業職のような利益に直結する数値目標がないため、何をすれば企業の利益を守れるのかを常に考えていないと、頭でっかちなだけで実践的でないアドバイス・必要以上の事務負担をしてしまいがちです。

本コラムは、ビジネスの現場で法務担当者が本当に役立つためにはどうしたらいいか、という視点で様々なノウハウをお伝えしています。今回は、データビジネスにおける法務ノウハウについて書きたいと思います。

 

2 企業は顧客データを集めるのに必死になっている


スマホの普及、高速インターネット、クラウドの普及によるビッグデータ蓄積、AI開発、GAFAのデータ市場独占…。こういった時代の趨勢に危機感を覚え、今やどんな産業分野の企業においても、自社商品やサービス特性を強みに「データ利活用」をすることを、重要な事業戦略の1つと位置付けているようです。例えば、メーカー企業では自社製品に通信機能を搭載し、インターネットで情報を収集することで消費者の行動情報をマーケティングに活かそうとしています。流通業者は独自決済アプリを消費者に利用させることで購買行動などの決済データを取得し、1人1人の商品のレコメンドへ役立てようとしています。

 

3 データを包括的に規制する法律は存在しない


このような状況ですので、企業法務の仕事をしていると、「XXXに関するデータを活用したいが法的懸念点はないか」というザックリした相談を受ける方も多いのではないかと思います。しかし、ちょっと待ってください。「データ」って法的には何でしょうか?データとは情報がコンピューターで処理できるような形式になってどこかのサーバに保管されているものである、という抽象的な認識は誰にでもあると思いますが、データの法的な位置づけは実は明確には定まっていません。データそのものは有体物ではないので民法に定める「物」(85条)ではなく、また無体物ではあるものの、必ずしも著作物といえず、不競法上の保護対象でもない可能性もあり、位置づけがかなりあいまいな存在であるといえます。さらに顧客情報を含む場合には、個人情報保護法上の個人情報に該当する可能性もあります。経産省は、こうした状況を踏まえ、2018年6月にデータ利活用に関する横断的なガイドラインを策定(※)しましたが、いまだにデータを包括的に規制する法律は存在しません。このような状況で、法務担当者はどんな検討をすべきなのでしょうか?
 

(※)経済産業省「AI・データ活用に関する契約ガイドライン」
https://www.meti.go.jp/press/2018/06/20180615001/20180615001.html


 

 

4 法務は「データ」について詳しくヒアリングを行うべし


企業法務担当者としては、経産省のガイドラインも参考にしつつ、事業のデータが何に関するデータであるのか、どこから取得されたのか、何の目的でどのように使うのか…といった丁寧なヒアリングを行い、事業における「データ」がどのような法的性質をもつものであるのか明らかにする必要があります。主なヒアリングポイントは以下の通りです。

・データの取得源(誰から取得するデータなのか)


・データの持ち方(企業でそのデータがどのような形式でどこに保管され、他のデータとどのように連携されているのか)


・データの性質(自然現象に関するデータ、産業機器の稼働状況に関するデータ、公表されたデータ、消費者の同意にもとづき提供を受けた個人に関するデータ、IoT機器やアプリのSDKなど消費者が半ば無意識的に企業へ発信していることにより取得した消費者に関するデータなど)


・データの利用目的(社内でのマーケティング分析、自社商品やサービスの効果的な広告、取引先のための利用など)


・データの開示範囲(社外にデータを開示する場合は、どのような形式で誰に開示されるのか)


 

まずは、これらを事業担当者から、くまなく聞くことが最も重要です。もしかしたら1人の事業担当者ではデータの全体像が把握できていない可能性もあるので、複数担当者から情報を集めたり、場合によってはシステム設計者からも情報を得たりすることも有用です。システムに関する技術的な知識に乏しい場合には、それを率直に伝え、多少しつこいくらいでも良いので丁寧にヒアリングを行う必要があります。そうすることで取り扱うデータの本質が見えてきます。それを踏まえて、集めた情報から、取扱うデータがどのような法的性質を持つものであるのか評価し、契約文言や法的リスクのアドバイスに活かしていきます。

 

5 データに関する法律


詳細は、前回もご紹介した経産省の「AI・データ活用に関する契約ガイドライン」に書かれていますが、取扱うデータに適用される可能性がある法律は主に以下の通りです。ただし、データの継続的な蓄積や掛け合わせによっては派生的な新たなデータが生成され、それらがどの法律によっても保護されないものであることもあるため、自社で利用権限を守りたいデータについては事業担当者と擦り合わせた上で予め契約文言にて自社の権利として規定しておく、という対応が重要です。

 

① 不正競争防止法

従来の2条6項「営業秘密(非公知性、秘密管理性、有用性の3要件を満たす情報)」に該当する場合に加え、平成30年改正によって新たに「限定提供データ(技術的管理性、限定的な外部提供性、有用性の3要件を満たす情報)」が保護対象となりました。限定提供データは、例えば一定のセキュリティ環境下でアクセス制限がかけられているデータなどはそれに該当する可能性があります。刑事罰の対象ではないものの、その悪質性の高い取得・使用に対しては、営業秘密と同様に差止請求および損害賠償請求が認められます。

 

経産省「限定提供データに関する指針」(平成31年1月23日)https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/guideline/h31pd.pdf


 

② 知的財産法

データベースの著作物(12条の2)、プログラムの著作物(2条1項10号の2、10条1項)、特許権などに該当する場合のみでありかなり限定的なケースではあるものの、適用可能性はあります。

 

③ 個人情報保護法

個人情報に該当する場合には利用範囲が制限され、取扱いについても法令やガイドラインに従って様々な義務が課されるため、注意が必要です。

 

 

==========
本コラムは著者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラム内容を業務判断のために使用し発生する一切の損害等については責任を追いかねます。事業課題をご検討の際は、自己責任の下、業務内容に則して適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応下さい。

 

【筆者プロフィール】
高橋 ケン


慶應義塾大学卒。


大手メーカー法務部にて国際法務(日英契約業務を中心に、ビジネス構築、社内教育、組織再編、訴訟予防等)、外資系金融機関にて法人部門の企画・コンプライアンス・webマーケティング推進業務を経験。現在、大手ウェブ広告企業の法務担当者として、データビジネス最前線に携わる。


企業の内側で法務に携わることの付加価値とは何か?を常に問い続け、「評論家ぶらない」→「ビジネスの当事者になる」→「本当に役に立つ」法務担当者の姿を体現することを目指す。


シンプルに考えることが得意。


 

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