脱時間給与制-高度プロフェッショナル制度の影響-
2015/07/15   労務法務, 労働法全般, その他

1 概要
 安倍内閣は、2015年4月3日、労働時間ではなく成果で労働の評価をする制度、通称、「高度プロフェッショナル制度」の創設等を定める労働基準法の改正案等を閣議決定し、これを国会に提出した。そこで、今回は、高度プロッフェショナル制度が与える労働者への影響について検討する。

2 高度プロフェッショナル制度の内容
 高度プロフェッショナル制度とは、管理職以外の一定のサラリーマンを労働時間規制の適用除外にするもので、アメリカのホワイトカラー・エグゼンプション(適用除外制度)の日本版である。つまり、時間外、深夜・休日の残業代を一切支払わなくてもよいとする制度であり、時間ではなく成果で労働を評価する制度である。その適用条件は、
(1)労働者の職務の範囲が明確な高度プロフェッショナルに該当する職種(「金融ディーラー」「アナリスト」「金融商品の開発」「研究開発」「コンサルタント」)であること(今後の検討で増える可能性がある。)であること
(2)企業側が「職務記述書」を作って職務範囲を明確にすること
(3)労働者がこの制度の適用を「希望する」旨表明していること
(4)労働者の年収が1075万円以上であること
 を要求している。

 この制度は、従来の『時間』を基礎にした賃金制度のままでは、短時間で成果を出せる優秀な人材よりも仕事が遅い人の方が時間外手当がついて賃金が多くなるとの不満や、本当は早くできるにもかかわらず残業代が欲しいのでゆっくりやるためにあえて手を抜くという労働の非効率化が生じる事態を解消すること、働きすぎを防止して労働者の健康を確保し、生活上のニーズと仕事の調和を図ることを目的としているものである。
 
3 問題点
 (1)「高度プロフェッショナル制度」は、第1次安倍政権時代が07年に導入しようとして失敗した「自己管理型労働制」を模様替えして出してきたものである。今回と07年の法案要綱とを比べてみると、今回の制度は企業に対する罰則規定が甘くなっているのが特徴である。
 例えば、07年では、労働者に年間104日以上の休日を確保する義務に反した場合には罰則を付すと明記されているが、今回はこの罰則規定がなくなっている。
 また、07年では、行政官庁が必要と認めたとき、企業に対して改善命令を出すことができるとし、「従わなかった場合には罰則を付す」としていたが、今回は改善命令そのものがなくなっている。
 (2)また、労働時間と賃金は完全に切り離され、仕事成果に連動して賃金が支払われる形になるので、企業内の評価を気にする労働者が、自己の成果をあげるために自分の意思で働く時間が長くなることが懸念される。

4 コメント
 労働を時間ではなく成果で評価するこの新しい制度が創設された場合、企業側は、労働時間規制を外し、割増賃金の支払いを気にせず成果が出るまで長時間働かせることが可能となる。そのため、この制度の運用のされ方次第では、企業のブラック化を助長するおそれがある。また、将来的に、現状の対象職種又は対象年収が拡大されることがあれば、この傾向に拍車がかかる可能性もある。さらに、この制度自体が、労働者側の自己負担でもってより多くの仕事の責任成果を押し付けられるおそれをはらんだものである事から、過労死に至る労働者の数が将来的に増加することも懸念される。このように、制度設計によっては、今後の労働者の働き方を大きく左右する可能性を秘めた制度である以上、今後の国会における、慎重な議論が求められる。

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