原子力損害賠償支援機構法を考える。
2011/08/04 法改正対応, 法改正, その他

原子力賠償支援機構法が成立
東京電力福島第1原子力発電所事故の賠償を進めるための原子力損害賠償支援機構法が、3日成立した。
同法は5日にも施行され、巨額の賠償金を抱える東電の資金繰りを支えるための原子力損害賠償支援機構が今月中にも設立される見通しだ。
同法では、第1義的な賠償責任を負う東電を破綻させないよう、新設される機構を通じて資本注入や資金援助を行い、被害者への賠償金を支払う仕組みを整える。
賠償の仕組み
原子力損害賠償支援機構には、東電や原発を持つ他の電力会社などが負担金を拠出する。また、政府は、同機構に必要に応じて換金できる最大2兆円分の国債を交付して、同機構に必要な資金を調達させる。その他、金融機関は追加融資を行う。
機構は、これらの資金を基に、優先株の配当と引き換えに東京電力へ資本を注入する。
東京電力は、注入された資本・東京電力内でのリストラ等の自助努力・毎年の利益から被害者への賠償金を捻出し、賠償に充てる。なお、東京電力が同機構から受け取った資金は、最終的には全て返済することになっている。
現状
東京電力はこれまで、約16万人を対象に生活費や営業被害など総額690億円の仮払いを実施してきた。事故収束の見通しは依然不透明さを拭えず、また、最近では原発周辺地域のみならずかなりの広範囲にわたり、農業・漁業・牧畜業をはじめとして影響が拡大していることから、今後も最終的な賠償額決定までには長い年月を要するとみられる。
東京電力では、リストラ、約6000億円規模の資産売却を進める方針で、保有株式の売却なども検討中だが、買い叩きへの懸念もあり、慎重に進める構えだ。
機構らによる資本注入が行われた場合でも、東京電力の経営難に変わりはない。事故収束への費用も収益を圧迫するため、料金値上げも検討する。
評価
成立した法案に対する評価は様々であるが、全部あるいは一部について批判的見解を持つ人が少なくないように思われる。今回の事故は、“想定外”の“特殊”な事故であるため、対応も“想定外”で“特殊”なものになることは致し方なかろう。すなわち、本来的には、株式会社たる東京電力は、保有資産を売却する等して負担する莫大な賠償金支払いを行い、それが不可能となれば倒産、株主が有限責任を負い、東京電力の債権者が債権放棄するというプロセスを踏むはずであるが、その影響が大きすぎるため、機構の設立による東京電力存続を選ばざるをえないということであろう。
ただし、電力事業そのものが他の事業と比べて本来的に特殊性を持っている訳ではなく、電力事業の在り方・電力供給の方法が、電力事業を特殊ならしめてきたことに鑑みれば、例外的措置に飛びつく前に、もう一度原則論に立ち戻り、なぜ電力事業に原則論が適用できなくなってしまったのかを考える必要があるように思われる。
【関連リンク】
- 経済産業省 原子力発電所事故に関する賠償などについて
- 朝日新聞記事(原子力賠償支援機構法が成立 東電の資金繰りを支援)(リンク切れ)→アーカイブ
関連コンテンツ
新着情報

- 業務効率化
- ContractS CLM公式資料ダウンロード

- まとめ
- 経済安全保障法務:中国の改正国家秘密保護法の概要2024.3.15
- 2024年2月27日, 中国では国家秘密保護法(原文:中华人民共和国保守国家秘密法)の改正が成...

- ニュース
- 170億円集金でフィリピンの投資会社経営者らを逮捕、金商法の無登録営業とは2025.8.13
- 無登録で社債の購入を勧誘したとして警視庁は8日、フィリピンの投資会社「S・ディビジョン・ホール...

- 解説動画
奥村友宏 氏(LegalOn Technologies 執行役員、法務開発責任者、弁護士)
登島和弘 氏(新企業法務倶楽部 代表取締役…企業法務歴33年)
潮崎明憲 氏(株式会社パソナ 法務専門キャリアアドバイザー)
- [アーカイブ]”法務キャリア”の明暗を分ける!5年後に向けて必要なスキル・マインド・経験
- 終了
- 視聴時間1時間27分

- 業務効率化
- クラウドリーガル公式資料ダウンロード
- 弁護士
- 横田 真穂弁護士
- 弁護士法人咲くやこの花法律事務所
- 〒550-0011
大阪府大阪市西区阿波座1丁目6−1 JMFビル西本町01 9階

- 解説動画
江嵜 宗利弁護士
- 【無料】新たなステージに入ったNFTビジネス ~Web3.0の最新動向と法的論点の解説~
- 終了
- 視聴時間1時間15分
- 弁護士
- 原内 直哉弁護士
- インテンス法律事務所
- 〒162-0814
東京都新宿区新小川町4番7号アオヤギビル3階
- セミナー
熊谷 直弥 弁護士(弁護士法人GVA法律事務所 パートナー/第一東京弁護士会所属)
- 【オンライン】2025年春・Web3/暗号資産の法令改正動向まとめ
- 終了
- 2025/04/23
- 12:00~13:00