東京地裁が駐車場賃料の一方的値上げは違法と判断、賃料変更について
2025/12/04   契約法務, 不動産法務, 借地借家法, 住宅・不動産

はじめに

「一方的に駐車場の賃料を値上げされ、その後契約解除を通知された」として利用者の男性が貸主の会社に損害賠償などを求めた訴訟で11月27日、東京地裁は同社に計13万1000円の支払を命じました。同社の対応は違法とのことです。

今回は賃貸借における賃料の変更について見ていきます。

 

事案の概要

報道などによりますと、原告の男性は2024年7月から、東京都新宿区のマンションの1室および機械式駐車場を月18万8000円で東京都内の会社から賃借したとされます。

しかし、同社は今年4月分から駐車場の賃料を月5500円増額すると通知したうえで2ヶ月分を男性の講座から引き落としたといいます。男性側が返金を求めると同社は契約を解除し駐車場利用のための暗証番号を変更すると通知したとされています。

男性は一方的に駐車場の賃料を値上げされた上、契約解除を通知してきたことは違法であるとして損害賠償などを求め東京地裁に提訴していました。

 

賃貸借契約における賃料の変更

近年、物価高騰や地価の変動、増税、そして賃貸借期間が長期にわたる場合の契約時からの状況の変化等により当事者にとって賃料の変更が必要な場合があると言えます。それではこのような場合に賃料は変更することができるのでしょうか。

借地借家法32条1項によりますと、土地もしくは建物に対する租税その他の負担の増減、価格の上昇や低下その他の経済事情の変動により、または近傍同種の建物の賃借に比較して不相当となったときは契約の条件にかかわらず当事者は将来に向かって賃料の変更を請求することができるとしています。ただし当事者間で協議が調わないときは請求を受けた側は裁判が確定するまで相当と認める額を支払えば足りるとし、裁判確定後に既に支払った分に不足額と年1割の利息を支払う必要があるとされています(同2項)。

一定の事情がある場合、賃貸借契約の当事者は賃料変更請求をすることができます。しかし「協議が調わないとき」とあるように変更はあくまでも当事者の協議によることが必要です。古い判例でこの賃料増減額請求権は形成権であるとし、請求の意思表示が相手方に到達した時点で効力が生じるとしたものがありますが(最判昭和32年9月3日)、一方的に変更できるというわけではありません。

なお、契約で一定期間賃料を変更しない旨の特約がある場合はそれに従うとされています(同1項但し書き)。

 

訴訟による増額請求

当事者間で上記の協議が調わない場合は訴訟等によることとなります。借地借家法24条の2によりますと、32条の賃料変更について訴えを提起しようとする者は、まず、調停を申し立てなければならないとしています。いわゆる調停前置というものです。裁判官や不動産の専門家で構成される調停委員を交えて話し合いをします。

この民事調停が決裂した場合に訴訟となります。訴訟では現在の賃料が不相当であるかについて、経済事情の変動や近隣同種物件との比較、土地建物の価格変動、公租公課の増減など様々な要素を加味して判断されることとなります。その上で最終的にいくらの賃料が相当であるかを裁判所が決定することとなります。

 

賃借人の対応

賃貸人から賃料を増額する旨通知されたものの、それに納得がいかない賃借人はどのように対応すればいいのでしょうか。上でも触れたように賃料の増減額は原則協議による必要があり、それが調わない場合は調停や訴訟によることとなります。

そして、賃料額が確定しない間は上記のように相当と認める額を支払えば足りるとされています。この相当と認める額とは、現在の賃料を最低額として賃貸人が要求している額までの範囲で賃借人が考える額でよいとされます。

この相当と認める額を賃貸人が拒否した場合、賃借人は供託をすることができます。これにより賃借人は債務不履行責任を免れることができます。また供託された場合、賃貸人側はその供託金を還付請求することができますが、その額に納得していない場合は賃料の一部である旨を留保して受諾し、供託金を受け取る必要があります。

 

コメント

本件で東京地裁は、法的な手続きを経ずに使用を排除しようとすることは違法な権利侵害に当たるとして会社側に増額分の返還と12万円の賠償を命じました。法で定められた協議を行わず一方的な増額変更が無効であると判断されたものと考えられます。

以上のように地価や公租公課の変動など一定の事情がある場合には賃貸借契約の当事者は互いに賃料増減額請求をすることができます。しかしこれは一方的な変更が認められるわけではありません。また、契約で一定期間変更しない旨の特約を盛り込むことは認められますが、一切変更できない旨は無効とされます。賃貸人から一方的に増額変更できる旨の特約も同様です。

オーナーが変わったことを理由とする増額も同様に認められず、法に基づく協議が求められます。なおオーナーが変わった場合、賃貸人の地位が引き継がれることとなりますが、賃借人に賃料請求等を行うには登記が必要とされています。

これらを踏まえて賃料などに関するトラブルを事前に防止できるよう社内で準備しておくことが重要です。

 

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