グーグルマップの低評価口コミによる名誉権・営業権の侵害は認められず ―仙台地裁
2025/12/03 危機管理, 情報セキュリティ, 刑事法, プロバイダ責任制限法

はじめに
グーグルが運営する地図サービス「グーグルマップ」のクチコミ欄で最低評価の「星一つ」を付けられたとして宮城県内の小児科医院が競合医院の院長に損害賠償などを求めた訴訟で11月20日、仙台地裁が原告の請求を棄却していたことがわかりました。
今回は口コミでの低評価対策について見ていきます。
事案の概要
報道によりますと、被告の医院院長は2023年12月~24年2月、2つの匿名アカウントを使って自分の医院の口コミ欄に最高評価を示す「★★★★★」を付けた一方、原告である富谷市の小児科医院には最低評価となる「★」を付けていたとされます。
その際、星評価以外に理由や文言の投稿は行われておらず、投稿者の特定に難航したものの、原告はグーグル本社がある米国の法制度を利用して投稿者を特定したといいます。
原告側は「口コミの最低評価によって名誉権や営業権を侵害された」として、小児科医院の院長などに対し約1180万円の損害賠償を求め仙台地裁に提訴していました。
口コミ評価の問題点
近年、グーグルマップや口コミサイトなどでは、一般のインターネットユーザーによる口コミや星評価を、店舗などの評価として表示させています。
今や、多くの消費者が、どの店舗や機関を利用するかの選択の際にこのような評価を参考にすると言われています。
そのため、このような口コミ評価を受ける店舗等にとってはそれによる評価の良し悪しは売上に直結する死活問題と言えます。
一般ユーザーが付けた評価が現実に即したものであるならともかく、逆恨みや嫌がらせ、競合店舗による不当な評価であった場合どのような対処が可能なのでしょうか?以下具体的に見ていきます。
口コミ低評価への対処
不当な口コミや低評価がなされた場合に考えられる対処としては、その削除申請と損害賠償請求が挙げられます。
まず、虚偽の内容を投稿して商品やサービスの信用を貶めた場合、刑法の信用毀損罪に該当することが考えられます(233条)。たとえば「○○店の料理には虫が入っていた」といったものや「○○店の製品はいつもすぐ壊れる」といった書き込みです。このような投稿は内容が虚偽であった場合に信用毀損に当たるということです。
また、事実を摘示して店舗等の社会的評価を低下させるような投稿は名誉毀損罪に該当する可能性があります(230条)。「この店舗の店長は過去に犯罪歴がある」「○○店の店長は○○と不倫関係にある」といったものです。名誉毀損の要件は事実の摘示と公然性、それによって社会的評価を低下させることです。
これら以外にも、虚偽の情報によって正常な営業が妨害された場合は偽計業務妨害に当たる可能性もあります(233条)。偽計とは人の勘違いや知らないことを利用したり人を騙す行為を言うとされます。
このように根拠の無い不当な低評価は刑法上の規定に抵触する可能性があり、また民事でも不法行為として損害賠償請求が可能です(民法709条)。
口コミの削除等
不当な口コミ評価等がなされた場合、その投稿の削除や損害賠償を求めるにしても、まず投稿者を特定することが必要です。
その手段として発信者情報開示制度を利用することが考えられます。
プロバイダ責任制限法では令和3年改正によって1つの非訟事件手続きで発信者情報開示請求が行えるようになりました。
この1つの手続きでプロバイダ等に対する発信者情報開示命令、プロバイダへのログ提供命令、発信者情報消去禁止命令が出されるようになりました。これによって投稿の削除や損害賠償請求の足がかりを得られます。
次に、グーグルなどに直接口コミ評価の削除依頼が考えられます。これは媒体によって異なりますが、原則的に投稿が虚偽であり不当である事を証拠などの根拠を添えて請求することが必要です。
そして、この媒体が海外法人である場合は請求書を英訳して送信する必要がある場合もあります。
コメント
本件で仙台地裁は「★」を付けたことについて、「原告の医院が悪いという評価の投稿であり、不当な目的を有していたと推認できる」と指摘したとされます。
一方で、具体的な理由を明示していないことから、これを見た一般の人は投稿者が不満を持っただけと理解するに過ぎないとして名誉権や営業権侵害は認めず請求を棄却しました。
本件では、グーグルマップには「★」が付けられただけで具体的な理由などは投稿されておらず、特定は困難であったとされます。
また、このような場合は原則としてグーグルも削除には応じないと言われています。
近年、様々な媒体で★の数によるユーザー評価が採用されています。これは基本的に匿名で行え、非常に簡単であることから多くのユーザーが利用します。
★の数はこれから選択をしようとする消費者にとっても重要な参考資料となる一方、いまだ十分な対応策ができていないのが現状です。
今後の法整備や裁判例に注視しつつ、対応を準備しておくことが重要です。
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