金融庁にルール変更の動き、「真の株主」把握しやすく
2024/04/19   商事法務, 会社法

はじめに

 金融庁は株主名簿に載らないが、株主総会で議決権を持つ実質的な株主を企業が把握しやすくするようルールを変更する方針であることがわかりました。今年度中にもスチュワードシップ・コードを改訂するとのことです。今回はこれらのルールについて概観していきます。

 

事案の概要

 日経新聞の報道によりますと、機関投資家は運用業務に専念するために、株式など保管や管理、配当金の代理受領を資産管理銀行などに委託しているとされます。そのため株主名簿上ではこのいわゆる「カストディアン」と呼ばれる資産管理銀行等が記載され、その背後にある実質的な株主を把握することができないとのことです。企業間ではこの実質株主を知りたいとの声が高まっており、三菱UFJ信託銀行が昨年度に依頼を受けた株主調査の件数が前年比2割増となったとされます。金融庁は有識者会議などを経て、企業が実質株主を把握しやすい仕組みを作るべく機関投資家向け指針を改訂し、資産運用会社などに問い合わせることによって自社株の保有状況を把握できるようにするとのことです。

 

スチュワードシップ・コードとは

 スチュワードシップ・コードとは、金融機関などの機関投資家に対して、正しい行動やあるべき姿を示す指針を言うとされます。英国が2010年に策定したものを参考に、金融庁が2014年2月に策定しました。スチュワードシップ・コードは次の8つの原則からなります。(1)責任を実現するための方針の作成・公表、(2)利益相反の管理かんする方針の作成・公表、(3)投資先企業の状況把握、(4)対話による問題改善、(5)議決権行使に関する方針の明瞭化、(6)スチュワードシップ責任に関する定期的な報告、(7)機関投資家としての実力確保、(8)インベストメント・チェーン全体の機能向上とされます。責任ある機関投資家としてあるべき方針を定め公表・共有していくことが定められております。これらの原則には法的拘束力はありませんが、機関投資家が導入することによって投資家との信頼関係が構築でき企業価値の向上につながると言われております。

 

コーポレートガバナンス・コードとは

 スチュワードシップ・コードに似た概念としてコーポレートガバナンス・コードがあります。これは会社が株主をはじめ顧客や従業員、地域社会等の立場を踏まえた上で、透明公正かつ迅速果断な意思決定を行うための仕組みと言われており、金融庁と東京証券取引所が合同で取りまとめたものです。スチュワードシップ・コードが機関投資家に向けた指針であるのに対し、コーポレートガバナンス・コードは上場企業に向けた指針と言えます。その内容は、(1)株主の権利・平等性の確保、(2)株主以外のステークホルダーとの適切な協働、(3)適切な情報開示と透明性の確保、(4)取締役会等の責務、(5)株主との対話の5つの基本原則からなるとされます。これらにもやはり法的拘束力はありませんが、遵守しない場合は東京証券取引所にその理由を説明する必要があります。ここで十分な説明ができない場合は上場規則に違反するとして公表されるなどのペナルティを受ける可能性があるとされます。

 

大量保有開示制度

 金商法では株券等の大量保有の状況に関する開示制度が定められております。これは一般に「5%ルール」と呼ばれており、金融商品取引所に上場している会社の株式等を、その発行済株式総数の5%を超えて保有するに至った場合は財務局に大量保有報告書を提出する義務を負うというものです。その目的は株価に影響を及ぼしやすい大量保有の情報を公開させて、市場の公正性、透明性を高めるとともに、投資家の保護を一層徹底することにあると言われております。この大量保有報告書の提出義務者は単独で株式を保有する場合だけでなく、他人の名義で保有する場合や信託による場合、共同保有の場合も含むとされます(金商法27条の23)。そして大量保有報告書には、株式発行会社、提出者の概要、保有目的、保有株の内訳、最近60日間の取引状況、株券等に関する契約、取得資金に関する事項などを記載することとなります。提出期限は提出義務が生じた日から5日以内となっております。

 

コメント

 近年物言う株主、いわゆるアクティビストの活動が活発になってきており、定時株主総会等での株主提案や株主総会の招集請求、果てはTOBによる買収など会社にとって対応の必要性が急激に高まっております。しかし株主名簿ではそれらアクティビストではなく、委託を受けて株主としての権利を管理する資産管理銀行等が記載されており、実質的な株主を会社が把握することが困難と言われております。トヨタ自動車でも10位までの主要株主のうち半数はこれらいわゆるカストディアンとされており実質株主を知るためには信託銀行などに調査依頼をする必要があるとされます。そこで金融庁ではスチュワードシップ・コードなどを改訂してこれら資産管理銀行等に企業が自社株の保有分を開示請求できるようルール変更していく方針です。欧米ではすでにこのようなルールが整備されているとされます。これら当局の動きを注視しつつ自社での対応を準備していくことが重要と言えるでしょう。

 

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