商標「AFURI」を巡り、ラーメン店が吉川醸造を提訴
2023/08/30   知財・ライセンス, 訴訟対応, 商標法, 外食, 食料品メーカー

はじめに


自社の商標権を侵害しているとして、人気ラーメン店「AFURI」が酒造メーカー吉川醸造を提訴したニュースは、SNSでも大きな議論を呼びました。両社の間で話し合いが行われたものの、折り合いがつかず、訴訟に至ったといいます。
神奈川県丹沢山系にある大山、通称・阿夫利山にちなんで名付けられた両社の商標。今回の訴訟に至るまでの流れを整理します。

“AFURI”めぐる争いは法廷へ


吉川醸造株式会社は、8月22日、同社が販売する日本酒「雨降(あふり)」に付された商標が商標権を侵害しているとして、人気ラーメンチェーンを運営するAFURI株式会社から、商標の使用差止や損害賠償等を求める訴えを東京地方裁判所に提起された旨を発表しました。

事の発端は、昨年8月にAFURI社から受け取った商標権侵害を主張する文書だといいます。

吉川醸造によると、文書には、”AFURI”という商標の使用がAFURI社の著名性にフリーライドしその商標権を侵害するものであること、商品全ての廃棄処分を要求することなどが記載されていたといいます。一方、AFURI社はホームページ上で、廃棄を要求した点については否定しており、今後「AFURI」の使用を中止するのであれば在庫の販売は認めていた、吉川醸造に商品の廃棄を求めていたわけではないと反論しています。

文書をきっかけに両社は弁護士を交え協議を重ねましたが、結局折り合いがつかず、AFURI社が、吉川醸造に対して本件商標の使用差止や損害賠償などを求め、提訴したということです。

 

商標に関する両社の主張


両社の主張をそれぞれ紐解くと、以下のようになります。

■AFURI社
2020年4月14日に、「AFURI」を清酒において登録(6245408号)。出願した商標はローマ字のみとなっており、参照情報として“あふり”と呼称する旨記載されていました。
さらに、AFURI社では、コーヒーやクラフトビールなど、AFURI名義で進めているプロジェクトが多数あるそうで、これらの新事業に向けて、他の分野でも「阿夫利」「AFURI」を記した商標を複数取得しています。

その後、新型コロナウイルス感染拡大により、新事業である日本酒事業への進出を一時的に中止していましたが、状況が落ち着いてきたことから事業を再開することに。その際に、吉川醸造が日本酒「雨降(AFURI)」に「AFURI」を使用して販売していることを発見したことから、文書を送付するに至ったといいます。

ちなみに、AFURI社は、今年3月6日に清酒を指定して「AFURI」を再出願しています(2023-023182)。2020年4月の「AFURI」の商標登録後、AFURI社がAFURIの名を冠した清酒を発売した形跡は見られず、吉川醸造による不使用取消審判(3年以上使用されていない登録商標に対して可能)の請求を回避するためとみられています。

 

■吉川醸造
吉川醸造は、2021年6月30日に、「雨降」の商標を登録(6409633号)しています。(現在、この登録に対してはAFURI側が無効審判を請求中)。しかし、こちらはAFURIの文字がないパターンで、参照情報としての称呼も“アメフリ”、“ウコー”、“アフリ”の3つが記載されています。

その後、吉川醸造は、2023年3月14日に改めて、AFURIの文字を加えた「雨降(AFURI)」の商標出願(2023-032269)を行っています。

吉川醸造によると、同社の日本酒のラベルでは「雨降」と、阿夫利山とは異なる漢字が使われていますが、これは、阿夫利神社の神職があてたものだと説明しています。そして、「雨降」が阿夫利山に由来するものであるため、読み方もローマ字・AFURIと記載したということです。
そのうえで、「阿夫利」「あふり」は地域、歴史、文化に根差した名称であることから、日本酒の商品に使用するにあたって商標権を侵害するものではないと主張しています。
吉川醸造は、AFURI社が2020年4月に取得した本件商標(6245408号)に対して現在、無効審判を請求していますが、おそらく、同様の主張を展開していると予想されます。

 

コメント


訴訟では、AFURI社の登録商標である「AFURI」と吉川醸造が商品ラベル等に使用している「雨降(AFURI)」の類似性が争われると予想されます。また、吉川醸造が請求している無効審判では、地名由来の商標の有効性が争われるとみられています。

ビジネスプロセスとして、正しい手順に則り商標登録を行ったように見えるAFURI社ですが、ネット上では批判的な意見も少なくないようです。中には、「強欲」、「くだらない訴訟をするな」、「もう店には行かない」といった辛辣な声もあります。
地元住人にとっては、正式な地名と同等に一般的で馴染み深い「あふり」という呼び名。それを特定企業が独占し、他社の使用を排斥することに対する反感が透けてみえます。また、商標権が元々持つ排他性と、それに対し一般世論が抱く感覚との乖離も一因と考えられます。

ビジネスを推進するべく取得した商標権が原因で、現状、ブランドへの好感度が一部下がった形となったAFURI社。消費者心理に配慮しつつ、法的な正当性を主張する難しさが見えた事案だったと思います。今後の訴訟の動向に要注目です。

 

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