「天馬」前社長に有罪判決、外国公務員贈賄罪について
2022/11/10   海外進出, コンプライアンス, 不正競争防止法

はじめに

東京のプラスチック製品メーカー「天馬」の前社長ら3人が、ベトナム子会社の税金追徴を減額するために、現地公務員に計2360万円相当の現金を渡したとして、不正競争防止法違反(外国公務員贈賄)の罪で在宅起訴されていましたが、東京地方裁判所は4日、有罪判決を言い渡しました。

全ての始まりは、天馬が2017年6月、ベトナムの税関局からの調査を受け、届いた請求通知でした。報道などによりますと、天馬は輸入部材の付加価値税の追徴課税として、約18億円の支払いを命じられ、当時の幹部は社長の承認を受けたうえで、税関局検査チーム長に対し980万円相当を提供、追加徴収を全額免れていたとされています。さらにその後、2019年にベトナム税務局が法人税をめぐり約9000万円の追徴金を天馬に求めた際にも、同様に、税務局副部長に対して1380万円相当の現金を渡すなどして追徴金を大幅減額させたというものです。

判決の中で裁判所は「(天馬が得た)不正な利益が高額」と指摘。東京地裁が言い渡した判決は、以下の通りとなりました。

・「天馬」前社長 藤野兼人被告(70)
→懲役1年、執行猶予3年

・元執行役員兼経営企画部長 細越勉被告(57)、子会社の天馬ベトナム元代表 吉田晴彦被告(52)
→いずれも懲役1年6月、執行猶予3年

・法人・天馬
→罰金2500万円

 

不正競争防止法の外国公務員贈賄罪とは?

外国公務員贈賄防止

国際商取引における外国公務員への不正な利益供与が、国際商取引の競争条件を歪めているという認識の下、これを防止することを目的として、不正競争防止法に外国公務員贈賄罪を規定しています。
国際商取引において自分らの利益を得たり、維持するために、外国公務員に対して直接または第三者を通して、金銭等を渡したり申し出たりすると、犯罪となります。

日本国内で外国公務員(大使館職員など)へ賄賂を行った場合はもちろん、海外の仕事先で現地の公務員に賄賂を行った場合も、この法律により罰せられる可能性があります。

外国公務員贈賄防止(経済産業省)

貿易やビジネスがグローバル化する中で、一部の国では賄賂が常態化している国もあるといいます。現地の警察や役所の役人との交渉などを行う際に、金銭を求められ、事業をスムーズに進めるために仕方なく支払ってしまうと、外国であっても犯罪行為(賄賂)として認められ、日本国内で処罰されるというものです。

具体的には、違反すれば、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金(又はこれの併科)(第21条第2項第7号) 、法人両罰は3億円以下の罰金(第22条第1項第3号)となっています。

この法律ができた背景には、1997年にOECDが条約で、国際商取引における外国公務員への賄賂を規制した動きがあります。

国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約(外務省)

世界的に規制の動きはあるものの、追いついていないのが現状と言われています。

 

外国公務員贈賄罪の要件

 不正競争防止法18条1項では、「何人も」と規定され、行為の全部または一部を日本国内で行った場合、国籍を問わず対象となります。そして日本人については日本国外で行った場合も適用されます。

経産省のガイドラインによりますと、「国際的な商取引」とは、貿易や体外投資など国境を超えた経済活動に係る行為を指すとされます。

「営業上の不正の利益」とは公序良俗、信義則に反するような形で得られる利益とされ、自己に有利な形で当該公務員の裁量を行使させること、または違法な行為をさせることによって得られる利益とされます。

そして対象となる「外国公務員等」とは、外国の政府、地方公共団体の公務に従事する者だけでなく、政府関係機関、公的企業、公的国際機関の公務に従事する者、外国政府等から権限の委任を受けている者なども含まれるとされます(同条2項各号)。

 

注意点

 企業が海外で行う寄付行為は、公務員個人に行う場合は通常、「営業上の不正の利益」を得るための行為と見られます。そしてそれは非営利団体に対しても同様とされます。また少額な賄賂である「スモール・ファシリティー・ペイメント」であっても同様に違法とされます。

一方で、現地の法令上必要な手続きを満たしているおり金品の提供を拒絶したにもかかわらず、金品の提供をしない限り受け付けないなど、合理性のない不当な差別的扱いを受けている場合は違法とはならない場合もあり得るとされます。

また生命・身体に対し危難が迫っておりやむおえず行った必要最小限の支払いについては緊急避難(刑法37条)として違法性が阻却される場合があるとされています。その他にも純粋な社交儀礼や自社製品の理解を深めるための試供品の提供といった場合も違法とはならないとされます。

 

過去の事例


過去に同罪で摘発された事例を以下にご紹介します。

事例1)JTC 事件

・概要
鉄道コンサルタント事業等を営む株式会社の元社長ら3名が、受注した政府開発援助(ODA)事業に絡みベトナム政府関係者に日本円約7000万円を供与。
また、ベトナム、インドネシア、ウズベキスタンの3カ国で受注した鉄道建設などで、現地の政府関係者らに総額約1億6千万円のリベートを渡した。

・判決
元社長に懲役2年(執行猶予3年)
元国際部長に懲役3年(執行猶予4年)
元経理担当取締役に懲役2年6か月(執行猶予3年)
会社に対し9000万円の罰金

 

事例2)三菱日立パワーシステムズ事件

・概要
大手発電機器メーカー「三菱日立パワーシステムズ(現・三菱パワー)」の元取締役ら3人は、タイで受注した火力発電所の建設事業に絡み、現地の公務員に約3,993万円相当の現金 (タイバーツ)を賄賂として渡した。

・判決
元取締役ら2名
懲役1年6月(執行猶予3年)
懲役1年4月(執行猶予3年)

※会社は日本初の司法取引に応じた結果、刑事訴追を受けていない。

 

コメント


今回の事件のように企業の海外法人にかぎらず、何人も外国公務員に対する賄賂の提供は違法となります。この規定は平成9年のOECD条約の採択に伴い平成10年の不正競争防止法改正で盛り込まれたもので、比較的新しい規制となっています。そのため、このような規制の存在を知らずに現地当局に金銭を提供してしまう場合も多いと考えられます。

特にアジア、中東、アフリカ、南米で多いと言われています。これらの国で新しく事業を行う場合、または既に行っている場合は、現地法人だけでなく、国内の本店でも周知しておくことが重要と言えるでしょう。

グローバル化が加速する現代において、さまざまな文化や背景のある現地の人々、法人との仕事は避けられません。現地で実際に活動をする担当社員といかに法務側がアプローチするのか、対応が求められます。

 

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