違法な残業か、適法な残業か、時間外労働まとめ
2016/10/05 労務法務, 労働法全般, その他

はじめに
先日、大手外食チェーン店が従業員に違法に時間外労働をさせたとして問題になりました。経営上、繁忙期や仕事が多い時期などに、企業は労働者に時間外労働をさせることがあります。一方で、単に時間外労働が慣例化している企業もあると思います。しかし、上記のように時間外労働が労働基準法に反する場合、後述のとおり罰則を適用される場合があります。そこで、労働時間とは何か、時間外労働をするために何が必要か、違反した場合の罰則はどのようになるのかをまとめました。
本件の概要 NHK NEWS WEB
※大手外食チェーン店のサトレストランシステムズ(大阪市中央区、東証1部)が、従業員に違法な時間外労働をさせ、かつ残業代の一部を支払わなかったとして、労働基準法違反の疑いで大阪労働局に書類送検されました。その中で、労働者代表の選出に不備があり、時間外労働のために必要となる36協定が有効なものとして認められませんでした。
労働時間とは
労働基準法は、労働時間について何ら定義付けていません。そこで、労働時間の解釈について争いがありますが、最高裁・通説では労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間とされています。また、最高裁は、使用者の指揮監督下の該当性の判断について、労働契約・就業規則・労働協約等の定めの文言から判断するのではなく、客観的に使用者の指揮命令下にあるか否かで判断するとしています。例えば、ビルの管理人の仮眠時間は、突発的に発生した業務に対応することを義務付けられているので、指揮監督下にあるものと客観的に評価され労働時間に当たることになります。
労働時間の定義について 独立行政法人 労働政策研究・研修機構
三菱重工業長崎造船所事件・最高裁 独立行政法人 労働政策研究・研修機構
※始業前・後始末に、準備行為(更衣室での作業服・保護具等の脱着、準備体操場・作業場・更衣室までの移動など)を就業規則において義務付けられたことから、準備行為についても労働時間に含まれるとして割増賃金を求めて労働者側が提訴した事件。最高裁は、当該準備行為を使用者の指揮命令下にあると評価し、労働基準法32条1項の労働時間にあたるとしました。
法定労働時間とは
労働基準法上、使用者は、休息時間を除き労働者は1日8時間を超えて、また1週間に40時間を超えて労働者に労働させることを禁止しています(同法32条1項)。これを法定労働時間と呼び、これを超える労働時間の労働を時間外労働と言います。時間外労働は、一定の手続きを経ることで労基法に反せずに労働者にしてもらうことができます。
労働基準法 houko.com
時間外労働に必要なこと
時間外労働を労働者にしてもらうためには、事業場の過半数の労働者で組織している労働組合と使用者が労働基準法36条1項に基づく労使協定(36協定)を締結する必要があります。過半数を労働者で組織している労働組合がない場合、労働者の過半数代表と使用者は36協定を締結します(トーコロ事件)。その後、労働基準監督署に36協定を提出する必要があります。36協定を締結し、提出することで、時間外労働部分の労働について免責されることになります。
また、36協定のほかに労働契約上の根拠が必要となります。時間外労働に関して就業規則に一般的な規定があり、それが労働契約の内容となっているとき(就業規則の内容が合理的と言えるとき)に、労働者に時間外労働を命じることができます(日立製作所武蔵工場事件)。
もっとも、36協定には上限があり、それを超える残業は許されません。一般的には、1週間の場合は15時間、2週間の場合には27時間と、協定を結ぶ期間によりそれぞれ制限が設けられており、これを超えた場合には労働基準法違反となります。
36協定について厚生労働省
トーコロ事件について なるほど労働基準法
※労働組合ではない「トーコロ友の会」の代表者が、労働者側の代表者として36協定を締結しました。そして、それに基づいて会社Yは労働者Xに残業時間の延長を要請したところ、Xは拒否しました。そこで、YはXを解雇したため、Xが解雇無効を主張して提訴しました。最高裁は、「労働者の過半数を代表する者」は、当該事業場の労働者にとって、選出される者が労働者の過半数を代表して36協定を締結することの適否を判断する機会が与えられ、かつ、当該事業場の過半数の労働者がその候補者を支持していると認められる民主的な手続がとられていることが必要というべきであるとして、そのような手続きのないトーコロ友の会の代表者の代表者適格を否定し、36協定を無効としました。
時間外労働について 労働問題弁護士ナビ
日立製作所武蔵工場事件、独立行政法人 労働政策研究・研修機構
※Y社に残業を命じられた労働者Xが残業を拒否したところ、Xは出勤停止の懲戒処分を受けました。しかし、残業命令に従う義務はないとの考えを改めなかったため、Y社はXを懲戒解雇しました。Xは懲戒処分の無効を主張して提訴し、その中で残業命令の適法性が問題になりました。最高裁は、36協定があり、就業規則の規定が合理的なものであるとして、残業命令は適法であるとしました。
36協定の上限について @type.
違法な労働に対する罰則
法定労働時間を36協定なしに超えた場合、あるいは36協定の締結をしたにもかかわらず届出をせずに時間外労働を行った場合、本件のように適切でない代表者による36協定に基づいて時間外労働をした場合に、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金を科せられることになります(労働基準法109条柱書、同1号、同法32条1項)。
罰則について 残業代バンク
最後に
法定労働時間が定められた意義は、長時間の労働から労働者を肉体的・精神的に解放し労働者を保護することにあります。時間外労働について、36協定を作成すること・労働基準監督署に届出ることという2つの要件を課したのも、できるだけ時間外労働を抑え、労働者の保護を図ろうとしたためと考えています。本件のような不適切な代表者による36協定では、労働者の保護の観点から十分とは言い難く、そのような協定は可能な限り早く是正されるべきです。
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