日本レコード協会が違法アップローダーと合意、発信者情報開示制度について
2024/03/27   知財・ライセンス, IT法務, 情報セキュリティ, 著作権法, 刑事法, プロバイダ責任制限法, IT

はじめに

 日本レコード協会はファイル共有ソフトを使って大量の音楽ファイルを違法にアップロードしていたユーザー11人と賠償金の支払いなどで合意したと発表しました。金額は平均40万円とのことです。今回はプロバイダー責任制限法の発信者情報開示制度について見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、日本レコード協会は、ファイル共有ソフト「BitTorrent」を使って大量の音楽ファイルを継続して違法にアップロードしていたユーザーに関し、発進者情報開示請求をしていたとされます。同協会は違法アップロードを行っていた25のIPアドレスについてISPに任意に開示請求を行っていたところ、このうちの14件について開示されたとのことです。残りの11件については任意の開示に応じなかったため、5社のISPを相手取り東京地裁と名古屋地裁に発信者情報開示を求め提訴しておりました。同協会は任意に開示された14件のアップローダーと弁護士を通じて協議を進めており、11人とは合意に至ったとされます。

 

プロバイダ責任制限法による規制

 近年、急速なIT化に伴いネット上では誹謗中傷や名誉毀損的投稿、著作権等を侵害した違法アップロードなどが横行しているのが原状です。このような場合、電子掲示板やファイル公開サイトなどの管理を行っているプロバイダは権利侵害を放置しているなどとして、被害者や権利者から損害賠償請求などの責任追求を受けるリスクがあります。また被害者や権利者等から削除の要請を受け、投稿やアップロードを削除した場合、今度は発信者側から同様に責任追及がなされることも有りえます。このようにプロバイダ等はいずれの側に立った措置をとっても逆側から追求されるリスクを負います。そこでプロバイダ責任制限法では一定の要件のもとにいずれの側からも免責されることが明確化されております(3条)。まず権利侵害とされる投稿やアップロードを削除しなくても、①権利侵害を知っていた、または②知り得たと認める相当な理由がある場合以外は免責されます(同1項)。また逆に削除した場合でも、①権利侵害を信じるに足る相当な理由があるとき、または②発信者に削除に同意するか照会したものの7日以内に反論が無い場合は免責されます(同2項)。

 

発信者情報開示請求

 インターネット上で誹謗中傷や名誉毀損的投稿、または著作権等を侵害するアップロードがなされ、これにより権利の侵害を受けている場合は差止や損害賠償の請求をすることが考えられます。しかし通常、ネット上でのこのような投稿は匿名で行われ、容易に発信者を特定することはできません。そこでプロバイダ責任制限法では一定の要件のもとに裁判所に発信者情報の開示請求を行うことが認められております。まず①権利侵害が明白であること、そして②発信者情報を取得する正当な理由が存在することが要件とされます(5条)。この正当な理由とは民事上の損害賠償請求や差止請求、刑事告発など通常の法的手段に訴えるといった理由の場合に認められ、私的な制裁や不当な目的では認められないと言われております。そして発信者側の権利保護の観点から開示請求を受けたプロバイダー等は発信者に意見を聴取することが求められます(6条1項)。発信者情報開示請求が認められた場合に開示される「発信者情報」とは、発信者の氏名、住所、メールアドレス、IPアドレスとポート番号、携帯端末の利用者識別番号、SIMカード識別番号、タイムスタンプとなります。

 

任意開示手続き

 上記の発信者情報開示請求は最終的には裁判所に訴える形となりますが、その前に裁判外で任意に行うことも可能です。任意開示には特に決まった方法はありません。プロバイダー等に書面で請求することも可能ですが、弁護士を通じて弁護士会照会によることも可能です(弁護士法23条の2)。この任意開示はあくまでも任意であることから、功を奏してプロバイダー等が開示請求に応じる可能性は高くはないと言えます。しかし専門家が介在することによって一定の正当性や法の要件の具備を窺わせることができ、ある程度の成功を見込めると考えられます。まずは任意の手段で請求し、最終的に拒絶された場合に裁判上の手続きに移行することが順当と言えます。その場合は仮処分手続きを併用することが一般的です。

 

コメント

 本件で日本レコード協会からの25件の任意の発信者情報開示に対し、そのうち14件については任意で開示されたとされます。開示に応じなかったソニーネットワーク、ユニアデックス、ハイホー、ソフトバンクに対しては東京地裁と名古屋地裁に提訴する形となり、昨年8月から12月にかけて裁判所は開示を命じる判決を出しました。以上のようにネット上での権利侵害に対しては一定の要件のもと発信者の情報開示を請求することが可能となっております。これは上でも触れたように任意に行うことも裁判上で行うことも可能です。一般的に任意の段階では応じてもらえる確率は高くないと言われております。自社の権利が侵害されている場合にはどのような手段を講じることができるのかをあらかじめ把握し、適切に対応しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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