鶏卵業界トップのイセ食品が経営破綻、会社更生法の申し立てについて
2022/04/04 事業再生・倒産, 倒産法
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はじめに
「森のたまご」「伊勢の卵」で知られる鶏卵業界トップのイセ食品とグループ会社で飼料販売を行うイセは2022年3月11日に、株主と債権者から東京地方裁判所に会社更生法を申し立てられ、保全管理命令を受けました。負債総額はイセ食品が約278億円、イセが175億円の合計453億円にのぼります。今回は会社更生について見ていきます。
事案の概要
イセ食品は1912年に創業し、1979年に販売量で国内ナンバーワンに。1980年代には米国に進出すると、米国でもトップクラスの事業規模となりました。ピーク時の18年1月期には470億円の売り上げを達成しています。しかし新型コロナウイルスの拡大にともなう業務用卵の需要低下やM&Aでの金融債務、飼料価格の高騰などが要因となり、資金繰りに窮していました。報道によると、同社は2020年4月から金融機関に借入金返済の猶予を要請しており、所有する不動産の売却などによって債務圧縮を進めていました。その後金融機関との間で私的整理の交渉に行き詰まり、大口債権者のあおぞら銀行と株主のISEホールディングスから東京地裁に会社更生法の手続きを申し立てられたと言います。今後は再建に向けたスポンサー企業を探すとされており、資金繰りについては金融機関と必要な融資を受ける契約を結び、商品の供給も続けていくとのことです。また今回の事案では、会社更生法を申し立てたISEホールディングスの社長がイセ食品の前会長である伊勢彦信氏の長男であることから、親子間で経営をめぐる確執があったのではという憶測も流れています。
伊勢彦信氏は申し立てられた会社更生法手続きについて、不服申し立ての抗告をする意向だそうです。
会社更生とは
会社更生とは経営破綻した株式会社について、債権者、株主その他の利害関係人の利害を調整しつつ、その事業の再生を図る裁判手続きです。株式会社は破産手続きの恐れがある場合や、債務を弁済すると事業継続が困難となる場合に、更生手続開始の申立てを行うことができますが、今回の事案のように債権者や株主もこの申立てを行うことができます。手続きが始まると裁判所は更生管財人を選定し、この更生管財人主導の下、会社債権者等の利害関係者の多数の同意の下に更生計画を策定し、一定の債権者などの同意と裁判所の認可を得て事業再建を図ります。また会社更生の成功には再建に協力してくれるスポンサーが鍵となります。今回の事案でも焦点とされているのが再建に向けたスポンサー選びであり、同社と資本提携関係にある豊田通商や、会社更生法を申し立てたISEホールディングスに注目が集まっています。
会社更生と民事再生の違い
会社更生と似た手続きに民事再生があります。どちらも会社を再建することを目的とした倒産手続であり、そもそも民事再生は会社更生の基本形とも言えます。大きな違いとしては手続きの対象者が挙げられます。民事再生は個人・法人のいずれも対象になるのに対し、会社更生は株式会社のみが対象となります。また会社更生は資金や人材が豊富な大企業しか利用できないほど複雑かつ厳格な手続きとなっています。ただしその分、事業再建のための様々な手法が取り込まれた強力な手続きです。
会社更生のメリット・デメリット
メリット
会社更生では、更生管財人が主導で手続きを進めてくれるため、利害関係者が多く権利関係が複雑になっている会社においても、円滑に債務整理を行える点が第一のメリットとして挙げられます。
また、担保権者の権利行使を拘束できない民事再生と異なり、会社更生手続き開始後は、担保権者についても弁済禁止の対象となります。担保権者は、担保権の実行が禁止され、更生管財人主導で策定される更生計画において、担保権の内容を変更させられる点も特徴です。
さらに、民事再生と異なり、会社更生では、更生計画内で組織再編(会社分割・合併etc.)を行うことができ、柔軟な解決が図れる点もメリットとなります。
デメリット
デメリットとしては、会社更生では、現経営陣の退陣が必須となる点が第一に挙げられます。また、会社更生は上述のように担保権者をも拘束する強力な法的効果を発揮する反面、手続が大がかりかつ厳格で、その分、時間もかかり費用(数千万円単位の予納金や弁護士費用)も高額になりがちです。
しかし、何よりも、社会的な信用の低下が一番大きなデメリットになると思います。
コメント
会社更生や民事再生は同じ倒産手続の破産とは異なり、事業の再生を目的としています。そのため、あくまでも今後の再生が見込まれる企業のみが選択できます。またこれらの法的整理手続以外にも、債権者の協力を得ながら事業再生を図ろうとする事業再建ADRや私的整理手続などの制度があります。万が一債務超過になったしまった場合は、再建の可能性や関係者への影響などを考慮して、最適な手続きを選択していくことが重要と言えるでしょう。
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