東京地裁が課徴金取り消し、インサイダー取引と取消訴訟について
2019/08/30 コンプライアンス, 金融商品取引法

はじめに
国際石油開発帝石(INPEX)株のインサイダー取引をしたとして金融庁から課徴金納付命令を受けていた投資運用会社「スタッツインベストメントマネジメント」が国に取り消しを求めていた訴訟で28日、東京地裁は課徴金命令を取り消していたことがわかりました。裁判所によって課徴金が取り消されるのは3例目とのことです。今回はインサイダー取引と取消訴訟を見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、2010年7月までにINPEXの公募増資の情報を野村證券の機関投資家営業部社員から入手したスタッツが保有していたINPEX株を売り抜けたとして金融庁は2014年に54万円の課徴金納付命令を出しました。スタッツの運用担当者と野村證券の社員との間で「まだかなあ」「もうなくなったんですかね」などといったチャットがかわされていたとのことです。スタッツ側はこれを不服として国に対し納付命令の処分取り消しを求め提訴していました。
インサイダー取引とは
株式発行会社の内部の人間が、いまだ公表されていない情報を利用して自己または第三者に株取引を行わせる行為をインサイダー取引(内部者取引)と言います。一般の投資家が知り得ない情報に基づいて取引を行うことから、一般の投資家に比べて著しく有利に取引を進めることができ株式取引の公平性と公正性を損なうとされております。そこで金融商品取引法ではインサイダー取引を禁止し(166条)、違反した場合には5年以下の懲役、500万円以下の罰金またはこれらの併科となります(197条の2)。法人にも両罰規定として5億円以下の罰金となり(207条1項2号)、利益も没収・追徴されます(198条の2)。また別途課徴金納付命令が出されることもあります(175条)。
インサイダー取引の要件
インサイダー取引の要件は①会社関係者が、②上場会社等の業務等に関する重要事項を、③職務等に関して知りながら、④その重要事実が公表される前に、⑤その上場会社等の株式等の取引を行うことと言われております。会社関係者とは役員や帳簿閲覧権者、契約交渉中の取引相手、許認可等を行う公務員などです。重要事項とは公募増資や資本金減少、無償割当、剰余金配当、組織再編、新製品等の開発、災害等による損害や売上高など株価などに影響するあらゆる事項が含まれます。そしてそれらの情報が2以上の情報機関に公開され12時間経過する前に取引を行うとインサイダー取引に該当することとなります。
行政不服と取消訴訟
一般に国の機関や自治体などの行政庁によって処分がなされた場合、審査請求などの不服申立てを行い、それでも覆らなければ取消訴訟などの抗告訴訟を行うことになります。しかし行政処分によっては特別法により格別に不服手続きが規定されている場合があります。インサイダー取引の課徴金納付命令についても金商法では行政事件手続法は適用除外となっており(185条の20)、審判手続で課徴金が決定してしまえば効力発生日から30日以内に取消訴訟を提起することとなります(185条の18)。
コメント
本件で東京地裁は、野村證券の担当者の供述を極めて曖昧で重要事実の伝達を直接的に裏付ける証拠とは言えないとし、スタッツのINPEX株の売却を投資担当者としての判断に基づく取引として不自然とは言えないと判断しました。今回は常に投資先の情報を収集して運用している投資運用会社の運用担当者が行っていたことから、それを超えたインサイダー情報による取引かどうかの判断が微妙なものだったと考えられます。以上のようにインサイダー取引はその要件が多く、取引態様も多岐にわたります。インサイダー取引に該当するかも微妙な判断が求められる場合が多いと言えます。インサイダー取引の疑いが生じた場合には、その要件を正確に踏まえた上で適切に争っていくことが重要と言えるでしょう。
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