出版社も、海賊版に差止め可!
2013/07/30 知財・ライセンス, 著作権法, その他
事案の概要
文化庁は29日、インターネット上で電子書籍の海賊版が出回った場合、出版社が裁判で差し止めを請求することができる「電子出版権」を創設し、著作権者と契約を結んだ出版社に、これを付与する方針を決めた。今後数回の議論を重ね、文化庁が著作権法の改正案を作成し、小委員会が8~9月を目処に中間報告をし、早ければ来年の通常国会に提出する見込みである。
現行の著作権法の定める出版権は、その対象を紙の出版物のみに限っており、電子書籍に関しては出版社に対する権利付与の規定がなかった。このため従来は、海賊版の電子書籍が出回った際に著作権者自身の差止請求は認められていたが、出版社のそれは認められず、出版社は海賊版業者に削除依頼を出すことしかできなかった。
しかし、著作権者自身の差し止め行為は、作家らの訴訟負担が重く、電子書籍の市場拡大に歯止めをかけていた。そこで、今回、著作権法の定める出版権の対象を、電子書籍に拡大することで、出版社が差止め行為をすることを可能とした。これにより、出版社が主体的に著作権者の権利保護に取り組むことが可能となり、電子書籍の市場拡大に弾みがつくことが期待される。
知識
「出版権」とは、出版社が著作権者との契約に基づき、書籍を独占的に発行できる権利のことである。これにより出版社に出版義務が生ずる代わりに、海賊版業者等、他者の無許諾出版に対する発行を差止め請求もできることとなる。
なお、出版社に出版権が設定されていれば複製権者(多くの場合、著作者)自身も出版行為を行なうことはできないこととなっている。
コメント
今回提言されている「電子出版権」は、先述の通り、現行法の著作権法の出版権の適用範囲を電子書籍にも広げる形で創設されるものである。
これに対し、出版社の海賊版の差し止めを可能とするために提言された他の案としては、著作権に準じた「著作隣接権」を出版社に与える案もあった。しかし、こちらは採用されなかった。出版社に著作隣接権が付与されるような改正が行なわれると、契約がなくても出版社が著作権と対抗できる強力な権利を自動的に獲得できるようになり、出版社の権利が強くなりすぎるからである。
やはり、当該作品に対する支配権は、著作権者に絶対的に保障されるべきである。したがって、あくまで作家等の著作権者を保護することを第一義的に考えるべきであり、その保護に必要で有効な限度で、著作権者と法律関係を有する出版社の権利も保護されるべきであると考える。
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