従業員の「不倫」が企業にもたらす法的リスクと対応策
2016/01/26   労務法務, 民法・商法, 労働法全般, その他

Yahoo!検索データの急上昇ワード・デイリーランキングで「センテンススプリング」が1位に輝くなど、タレントのベッキーさんと「ゲスの極み乙女。」のボーカルを務める川谷絵音さんの不倫疑惑が社会問題となって取り上げられています。これを受けて、ベッキーさんをCM起用する企業や番組起用するテレビ局、ベッキーさんの所属事務所などが対応に追われていると聞きます。

そこで、今回は、自社の従業員が不倫を行ったときに企業に生じうる法的リスク、不倫を行った従業員への対処方法についてお話したいと思います。

 

不倫は違法な行為?

不倫を明確に禁止する法律はありませんが、民法770条1項1号で、一方的な離婚が認められる事由の一つとして定められています(当事者同士の同意がない限り、きちんとした理由がなければ一方的な離婚は認められません)。

また、民法709条は、故意又は過失で他人の権利や法律上の利益を侵害した者に損害賠償責任を負わせており、これらの条文から、不倫は、民事裁判における損害賠償請求の対象となっています。

逆に言いますと、不倫をした相手に対しては事実上、お金を請求することくらいしか出来ないという言い方も出来ます。

 

不倫の被害者と企業の関係

不倫は、基本的に、不倫当事者2人と不倫の被害者の三角形(ダブル不倫だと四角形)の関係の中で処理されますが、不倫が業務中に行われるなど、仕事と関連した場面で行われていた場合、不倫の被害者は不倫の加害者の勤める企業に対して損害賠償請求を行う余地が出て来ます。民法715条のいわゆる使用者責任というものになります。


使用者責任が認められる条件

不倫の場面で使用者責任が認められるための条件は簡単ではありません。

①事業の執行に関連して不倫を行ったこと
従業員が、客観的に見て、企業の指揮・命令下にあると認められる場面で不倫を行ったことが、まず一つ目の条件になります。社内の施設で行われた場合や社用車での移動中などに行われた不倫などが代表例となります。

②従業員の行為が不法行為に該当すること
不倫が不法行為として認められるためには、基本的に、性交渉が行われている必要があります。そのため、性交渉を伴わない、ただの逢引きなどは、倫理的には大問題ですが、法律上は不法行為とは認められない可能性が高いです。もっとも、女性が既婚者である同僚男性からの幾度もの肉体関係の求めを巧みにかわして「貞操」を守った事案で、大阪地裁は2014年3月に、「女性が同僚男性のアプローチをはっきりと拒絶せず、逢引きを重ねて二人きりの時間を過ごしたこと」を理由に、不法行為責任を認める判決を出しています。そのため、性交渉がない場合でも、不法行為と認められる余地はあるようです。

③企業に過失や注意義務違反が認められること
企業が従業員の監督について過失がなかったり、相応の注意を払っていても、不倫を防止することが出来なかったと認められるときには、使用者責任は認められないことになります。そのため、企業の立場としては、不倫等が業務中に行われないよう、しっかりと監督していたという事実を客観的に残すことが大切になります。具体的には、従業員が誰にも知られずに長時間離席できない体制の構築、社外に出て業務を行うときに頻繁な報告義務を課すなどの方法が考えられます。


不倫の被害者と企業が接触する場面

不倫の被害者と企業が接触する場面は主に以下の二つの場面です。

①会社住所に従業員宛の慰謝料請求の内容証明郵便を送付して来る
目的は、会社に不倫の事実を告げ、会社からの何らかの処分を求めることにあります。

②使用者責任を問う可能性があることを匂わせながら、従業員に対する処分を求める
こちらはもう少し、踏み込んだやり方で、企業に対する訴訟をチラつかせながら、同じく、従業員に対する処分を求めるというものです。

不倫の慰謝料を求める裁判は、証拠の収集等が難しいため、大きな金額が認められることが少なく、正直、企業にとって金銭的リスクはそれほど大きいとは言えません。また、上述の理由により、そもそも使用者責任が認められる可能性は低いと言えます。

しかし、従業員の不倫を理由に訴訟に巻き込まれることは、社外イメージ・社内風紀を考えたときに企業にとって小さくないダメージを与える可能性があります。

 

企業がとるべき措置

不倫の被害者が企業に求めることは、基本的にお金ではなく、不倫の加害者である従業員に対する厳しい処分です。逆に、一番怒りを買うのは、企業が不倫の加害者をかばい立てするような姿勢を示すことです。

企業側の担当者は、その点を念頭に、公正かつ厳格な姿勢で問題の処理にあたることを不倫の被害者に示す必要があります。特に、いわゆる社内不倫(不倫の当事者二人共が同じ会社内の人間)の場合はなおさら厳しい姿勢を示すことが求められます。

もっとも、不倫を行った従業員を処分するには、徹底的な調査による事実確認と自社が被った損害(金銭面、社内風紀の乱れ、社外イメージ等)の正確な把握、就業規則上の懲戒規定に抵触しているか否かの確認が必要になります。これらをおろそかにして、性急に従業員に重い処分を下した場合には、不当な懲戒処分として労務問題に発展するおそれもありますので、細心の注意を払った方が良いでしょう。

SNSの発展等により、出会いの場が増え、配偶者に隠れて不倫相手と連絡を取ることも容易になっています。今後、企業が従業員の不倫問題に巻き込まれる場面が増えることが予想されますので、事が起こる前に、あらかじめ、従業員が不倫を行った場合の対応を協議しておくといいかもしれません。

 

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