セクハラ指針の改正と使用者が防ぐべきセクハラの内容
2017/02/09 労務法務, 労働法全般, その他
はじめに
人事院は、今年から省庁におけるセクハラ防止に関する規則の運用通知を改め、LGBTなど性的少数者に関する偏見に基づく言動やからかいもセクハラにあたると明記しました。
セクハラ防止に関しては、厚生労働省も昨年、男女雇用機会均等法に基づく民間企業向けの指針(セクハラ防止指針)を改定し、LGBTなどの性的少数者がセクハラ被害者の対象となることを明記しています。そこで、今回は、セクハラ防止指針を通して、事業主が防止すべき職場におけるセクシュアルハラスメントの内容を見ていきたいと思います。
セクハラ防止指針
男女雇用機会均等法11条1項は、事業主に対しセクハラによって労働者の就業環境が害されることのないよう、適切な体制の整備、その他雇用管理上必要な措置を講じなければならないことを定めています。そして、セクハラの具体的内容や事業主が構ずべき措置については、厚生労働省により策定されるセクハラ防止指針によって定められています。
今回の改定では、「職場におけるセクシュアルハラスメントの内容」について定めた同指針2条1項に、「被害を受けた者の性的指向又は性自認にかかわらず、当該者に対する職場におけるセクシュアルハラスメントも、本指針の対象となるものである。」との文言が追加され、LGBTなどの性的少数者がセクハラの被害者に含まれることが明記されました。
「職場におけるセクシュアルハラスメントの内容」
「セクハラ防止指針」では、事業主が防止すべきセクハラについて、その内容に応じ「対価型セクシュアルハラスメント」と「環境型セクシュアルハラスメント」の二種類に分類しています。以下では、これらの内容について説明します。
① 「対価型セクシュアルハラスメント」
職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、当該労働者が解雇、降格、減給等の不利益を受けることをいいます。
ここで、「性的な言動」とは、性的な内容の発言及び性的な行動を指し、この「性的な内容の発言」には、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報を意図的に流布すること等が、「性的な行動」には、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触ること、わいせつな図画を配布すること等が挙げられます。
例
・事務所内において事業主が労働者に対して性的な関係を要求したが、拒否されたため、当該労働者を解雇すること。
・出張中の車中において上司が労働者の腰、胸等に触ったが、抵抗されたため、当該労働者について不利益な配置転換をすること。
・営業所内において事業主が日ごろから労働者に係る性的な事柄について公然と発言していたが、抗議されたため、当該労働者を降格すること。
② 「環境型セクシュアルハラスメント」
職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることをいいます。
例
・事務所内において上司が労働者の腰、胸等に度々触ったため、当該労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下していること。
・同僚が取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布したため、当該労働者が苦痛に感じて仕事が手につかないこと。
・労働者が抗議をしているにもかかわらず、事務所内にヌードポスターを掲示しているため、当該労働者が苦痛に感じて業務に専念できないこと。
おわりに
セクハラ防止指針では、職場におけるセクハラを防止するため事業主に、セクハラ防止のための啓発やセクハラを行った者に厳正な対処をするための就業規則等の整備を事前防止措置として義務付け、事後措置として迅速かつ正確な事実確認や被害者に対する配慮のための措置、行為者に対する懲戒など厳正な処置を義務付けています。これらの義務に違反しても、事業主に罰則はありません。しかし、職場でセクハラ問題が生じた際に、事業主によるこれらの措置が不十分である場合には、事業主が使用者責任として損害賠償義務を負う危険もあります。
セクハラ問題やセクシュアル・マイノリティーを取り巻く問題は、今後、これまで以上に雇用管理上の重要課題として社会で意識されることになるでしょう。企業の法務担当者には、会社に不要なトラブルを生じさせないための適切なリスクヘッジが求められます。
セクハラで対応が十分でなかったことを理由に使用者責任が認められた判例 愛媛県庁HP
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