外国人観光客を就労させ逮捕、不法就労助長罪について
2016/10/27   労務法務, 外国人雇用, 労働法全般, その他

はじめに

 近年、外国人観光者や外国労働者は増え続けている傾向にある中で、外国人を不法に就労させ、経営者が逮捕されるケースが見かけるようになりました。そこで、今後も企業が外国人労働者を安心して雇用し続けるために、不法就労、不法就労助長罪について以下の事案とともに確認していきたいと思います。
本件について 北海道新聞

事案

 2016年10月11日午前、社長ら3名は、札幌市中央区内にあるカオサン札幌ファミリーホステルにおいて、「短期滞在」の在留資格で、就労資格のない観光人客である中国人・マレーシア人の外国人客に、宿泊代2000円を免除することを条件として、ベッドメークや清掃等の就労をさせました。その結果、同月12日、外国人客2名は出入国管理法違反(資格外活動)の疑いで現行犯逮捕され、社長ら3名も不法就労助長罪の疑いで現行犯逮捕されることになりました。

不法就労

 不法就労は、国内における雇用情勢の悪化という労働面の問題を引き起こすだけではなく、来日外国人による犯罪増加などの治安面の問題や不法就労ということを理由とする賃金の搾取などの外国人の人権の問題なども引き起こしています。したがって、不法就労は、今日における解決すべき重要な社会問題のひとつとなっています。
 不法就労とは、(主に外国人が)許可を得ずに収入・報酬を得る活動を行った場合のことをいい、具体的には、以下の場合に不法就労に当たることになります。
 ①不法滞在者が働く場合
  密入国やオーバーステイ(在留期間終了後も日本に留まっている、いわゆる不法滞在者)
 ②入国管理局から働く許可を受けていないのに働く場合
  観光や知人訪問を目的として入国した者・留学生
 ③入国管理局から認められた範囲を超えて働く場合
  料理店のコックとして働くことを認められたにもかかわらず、関係のない工場で単純労働者として働いた場合
 「短期滞在」(観光)は、原則として就労を認められていませんが、資格外活動の許可(出入国管理法19条)を得ることで、例外的に就労できます。
 不法就労にあたる場合、退去強制事由(同法24条4号イ、19条1項4号イ)に該当し、退去強制となるおそれが生じるほか、刑事責任(同法70条1項4号、73条)を問われるおそれがあります。
出入国管理法 入国管理局
不法就労について 法務省入国管理局
資格外活動の許可について 厚生労働省東京労働局
罰則について 吉川峰光の外国人雇用塾

不法就労助長罪

 不法就労助長罪(出入国管理法第73条の2第1項)は、事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者(1号、自社で雇用した場合)、外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者(2号)、業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関し斡旋した者(3号、斡旋業者など)に成立します。
 また、その際に不法上陸者、不法入国者、不法残留者、資格外活動等を知らなかったことを理由として処罰を免れることはできません(同条2項本文、同項各号)。これは、従前の雇用者の不法就労助長罪の故意(不法就労と知っていながらあえて雇用していたこと)の立証が難しかったことから、過失犯まで延長された規定です。もっとも、過失がないとき、つまり雇用主としての注意義務(果たすべき責任)を果たしている場合には処罰を免れます(同項ただし書き)。
 不法就労助長罪が成立する場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金、あるいはその両方を処分を受けます。また、事業主・斡旋者が外国人の場合、退去強制事由にあたり(同法24条3号の4)、退去強制となるおそれがあります。このように非常に重い処分となりますので、外国人を雇用する際は、在留資格の有無、その資格で就労可能かどうか、就労不可の場合の資格外活動の許可の有無を事前に確認することが重要となります。
不法就労助長罪について 外国人雇用.com
不法就労助長罪の過失について 入管手続専門の川口行政書士事務所

コメント

 すべての事実が明らかでないので確かなことはわかりませんが、宿泊代の代わりに働かせることは、宿泊代を稼ぐために働かせることとほとんど代わらず、社長ら3名は外国人客2名を不法就労をさせたといえるのではないかと思います。
 今回のケースは、金額も2000円で少額、一時的な労働で反復継続を予定しないものであるので、必ずしも大きい事件とは言えないかもしれません。しかし、不法就労者を排除し適切な労働環境を保持しようとした入管法第73条の2の趣旨を全うするため、事件の大きさにかかわらず不法就労の温床となる前にやはり取り締まるべきケースといえます。外国人を一時的ないし反復的に就労する際に、不法就労に当たらないか否かは必ず問題になりますので、本件のようにならないために、そして、企業が安心して外国人労働者を雇用し続けるために、ぜひ就労させる前に関連する法律および在留資格等を確認してください。

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