貸切バス事業者に求められる対策
2016/11/21   コンプライアンス, 法改正, サービス

1 事案の概要

 2016年10月18日、「道路運送法の一部を改正する法律案」を閣議決定しました。これは、2016年1月15日に軽井沢で発生したスキーバス事故を受けて二度とこのような悲惨な事故を起こさないという強い決意のもと取られた措置です。

2 軽井沢スキーバス事故

 2016年1月15日、長野県北佐久群軽井沢町において大型観光バスがガードレールをなぎ倒して道路脇に転落した交通事故です。乗員・乗客41人中15人が死亡しました。国土交通省の調査により運行会社であるイーエスビーは運転手の健康診断、乗務前の健康及び酒気帯び確認、入社時の適正検査を怠っていたことが明らかになりました。

3 閣議決定された「道路運送法の一部を改正する法律案」

 本法律案は、乗客の死亡事故をゼロとすることと乗客の負傷事故を10年以内に半減することの2点を目的とします。そして、閣議決定された「道路運送法の一部を改正する法律案」は大きく5点に分かれます。
(1)事業許可の更新制の導入
 これは、貸切バス事業の許可に「更新制」が導入されることになり、貸切バス事業者に安全に事業遂行する能力があるかどうかを5年ごとに判断されることになります。
(2)不適格者の安易な再参入・処分逃れの防止
 運行管理者(乗務員の労務管理や車両の日常点検等の運行管理の責任を担う者)の資格者証交付の欠格期間が現在の2年から5年に延長されます。また、取消を受けた会社の子会社等、処分逃れを目的として監査後に廃業した者等の参入を制限します。さらに、休廃業を現行の事後届出制から30日前の事前届出制に改めます。
(3)監査機能の補完・自主的改善の促進
貸切バス事業者に対して民間指定機関による巡回指導等を行うため、当該機関による貸切バス事業者からの負担金徴収の制度を創設します。
(4)罰則の強化
輸送の安全確保命令に従わないバス事業者に対する法定刑を強化するとともに、法人重科を創設します。
※施行日
 年末からのスキーシーズン前に対処するために、法律が成立した場合には公布日から1か月以内に施行されます。ただし、(1)は来年4月に施行されます。

国土交通省報道発表資料

4 貸切バス事業に関する法律

(1)道路運送法
 貸切バスを使ったツアーには高速ツアーバス制度(旅行業法)が適用されていました。
 しかし、制度が変わり新高速乗合バス制度になりました。この制度は道路運送法が適用されます。具体的には、バス会社等旅客自動車運送事業者に対して、乗務員の健康状態の把握に努め、病気や疲労等により安全な運転を継続することや補助することが出来ないおそれがある場合には乗務員を乗車させてはいけない等過労防止措置を行うこと(道路運送法に基づく旅客自動車運送事業運輸規則21条)や乗務しようとする運転者に対して酒気帯びの有無や疾病・疲労の有無の確認のための点呼、報告、確認をすること(同規則24条)が求められます。また、乗務員の氏名、事故を起こした場合は事故の概要や健康状態等の情報を記載した乗務員台帳を作成し、営業所に備え置かなければなりません。(同規則37条)
旅客自動車運送事業運輸規則

(2)事故によって人を死傷させた場合
 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律が適用されるおそれがあります。
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律

5 企業が出来る対策

(1)貸切バス事業者安全性認定評価制度
 貸切バス事業者安全性認定評価制度は、日本バス協会が貸切バス事業者からの申請に基づき安全性や安全の確保に向けた取組状況について評価認定を行い、公表する制度です。この制度を利用することで自社の安全性の確保への取り組みを客観的に認識することができます。認定されれば安全性について取り組みを行っている企業としても信頼につながると思います。
貸切バス事業者安全性認定評価制度

(2)従業員の健康管理と労働環境の改善
 健康管理の面では4(1)で記載した旅客自動車運送事業運輸規則の遵守が求められます。
 また、労働環境の面では人手不足という問題があります。外国人観光客の急増や人材の高齢化が原因です。これは企業のみで改善することは難しいですが、事業の効率化や事業の見直し(格安ツアーをやめて付加価値をつけた高級ツアーなど)を図るべきです。

(3)各種マニュアルの活用
 各種マニュアルをうまく活用して事故等を防止すべきです。
①SAS対応マニュアル
 漫然運転や居眠り運転の原因の一つとして、眠気を生じる様々な病気があげられます。中でも睡眠時無呼吸症候群は、本人が自覚していない場合が多く、注意が必要です。本マニュアルは、安全運転上の対策として、SASの早期発見・治療法について取り上げたものです。
②事業用自動車の運転者の健康管理に係るマニュアル
 事業者、運行管理者及び運転者が、運転者の健康状態を良好に保持し、事業用自動車の安全を確保するために実施すべき具体的内容をまとめたものです。
③自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う一般的指導及び監督の実施マニュアル
 自動車運送事業者は、事業用自動車の運転者に対して、適切な指導監督をしなければなりません。本マニュアルは、告示で定められた内容をわかりやすくしたものです。
④乗合バスの車内事故を防止するための安全対策実施マニュアル
 本マニュアルは、乗合バス事業者が取り組む安全対策、運転者に対して行う指導等の内容についてわかりやすく整理したものです。
⑤映像記録型ドライブレコーダ活用手順書
 ドライブレコーダを活用し、自社で発生する「事故や日常のヒヤリハット場面」のデータを収集し、人(乗務員、相手)・車両・走行環境・運行管理の観点から背景や要因を効率的に分析、防止対策の立案や教育に活用することを目的として作成されたものです。
各種マニュアル

6 コメント

 貸切バスのよる事故を減らすためには、政府の活動だけでは足りず企業が一緒になって活動することが求められます。そのような活動をすることで本法律案の目的である乗客の死亡事故をゼロとすることや乗客の負傷事故を10年以内に半減することが達成されるのではないかと思います。

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