液化天然ガス取引について公取委が調査、仕向地制限条項とは
2016/08/26   独禁法対応, 独占禁止法, エネルギー関連

はじめに

液化天然ガス(LNG)の取引に通常盛り込まれている仕向地制限条項が独禁法に抵触する可能性が有るとして、現在、公取委が調査を行っております。違法と判断された場合、国内で約67兆円規模の契約に影響を及ぼすことになります。今回は仕向地制限条項とその独禁法上の問題点について見ていきます。

仕向地制限条項とは

仕向地制限条項とは、貿易取引において貨物の送り先である仕向地を制限し、第三者への転売等を禁止する条項を言います。仕向地制限条項は輸出元にとっては輸出先地域における輸出量や価格等をある程度コントロールすることができ、液化天然ガスの取引においては従来から多くの契約で盛り込まれてきました。特に日本向けの取引では、海上輸送の費用とリスクを買い主である日本企業が負うFOB契約であっても仕向地制限条項が付されてきました。これにより買い主側は液化天然ガスの需要が減少し、供給過剰となった場合でも第三者に転売できず市場の流動性を阻害していると批判されてきました。液化天然ガス取引での仕向地制限条項は各国競争法に抵触するとして2004年頃から欧州では違法とされ、国際的に撤廃の方向に動いています。

独禁法上の問題

このように仕向地制限条項は取引相手に対し、送り先を固定し他所への輸送、販売を制限するものであることから独禁法の規制する拘束条件付取引(一般指定12項、法19条)に該当する可能性があります。拘束条件付取引については以前にも取り上げましたが、今回は主に公正競争阻害性について概説します。まず行為要件は「相手方とその取引の相手方との取引その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、当該相手方と取引すること」です。拘束条件付取引は排他条件付取引、再販売価格の拘束以外の制限行為を規制する包括規定となっております。拘束条件の態様としては、売買以外の価格の制限、広告・表示の制限、販売地域の制限、取引相手の制限、販売方法の制限等があります。本件仕向地制限条項は取引相手の制限ということになります。

公正競争阻害性

上記行為要件を満たしたら次に検討することになるのが実質要件です。独禁法や一般指定の文言上では「不当に」拘束条件を付けて取引することを規制していますが、この「不当に」とは公正競争阻害性のことを言います。公正競争阻害性は不公正な取引方法の類型ごとに内容が異なりますが、拘束条件付取引における公正競争阻害性は競争の減殺を意味します。より具体的には相手方事業者間の競争の回避効果、競争者排除効果を意味します。そして拘束条件付取引は上記のとおりその内容は様々ですので、判例によりますと「その形態や拘束の程度等に応じて・・・公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれ」を判断することになります(最判平成10年12月18日)。

具体的な判断基準

公正競争阻害性の内容である競争回避・競争者排除効果の有無を判断するにあたっては様々な要素を加味して総合的に判断することになります。公取委の流通・取引慣行ガイドラインによりますと、まず行為主体である事業者が当該市場において有力な事業者であるかが判断されます。ここに言う有力な事業者とは、市場におけるシェアが10%以上または順位が3位以内であることが目安とされています。通常は20%~30%のシェアが必要であり、10%を下回る場合は原則違法性はないと言われております。この行為主体に関する目安以外に①対象商品に関するブランド間競争の状況②ブランド内競争の状況③流通業者の数④当該制限が流通業者に及ぼす影響等を加味して総合的に判断していくことになります。

コメント

液化天然ガス取引に付された仕向地制限条項は、仕向地以外に転売しないことを条件とするものであることから拘束条件付取引の行為要件に該当すると言えます。日本の液化天然ガスの主の輸入先はオーストラリア、マレーシア、カタール、ロシア、インドネシアとなっており、どれも日本国内の天然ガス市場において相当のシェアを持つことが想像できます。それぞれが転売制限をかけることによって、これらの輸入先以外からより安く取引することができず価格競争の回避効果が生じていると判断される可能性は十分高いと言えます。しかし一方でこれらの販売事業者は主に輸出国自体が運営している国営企業である場合が多く、国家間の協定等にも影響を及ぼすことから通常の企業間取引と同様には判断できない側面もあると言えます。また仕向地制限条項の中には、一旦仕向地に到着したものは転売が許容されるもの(直接転売に比してコスト的に転売が困難)も多く含まれることから、より競争に与える影響の判断が難しくなるとも言われております。以上のことから公取委が独禁法に反して違法であると判断し、排除措置命令等を出す可能性は低いと思われますが、今後貿易取引での仕向地制限条項は付さないことが推奨されるものと推測されます。契約書作成の際にはこの点注意が必要になってくると言えるでしょう。

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