【法務NAVIまとめ】M&A~他社を買収する3つの方法~ 
2016/08/02   M&A, 戦略法務, 会社法, 金融商品取引法, その他

なぜM&Aをするのか

M&A(合併及び買収)は、企業の事業拡大にとって重要な選択肢の1つだ。なぜなら、M&Aは以下の4つの点で意味があるからだ。

①新規事業進出において「時間を買う」ことができる
ノウハウ等のない新しい事業分野に進出する際に、自力で事業を育成するには大変な労力と時間が必要である。しかし、M&Aを行えば他社の持つ既存のノウハウ等を利用することができ、効率的な企業経営ができる。

②規模の経済と範囲の経済
事業規模を拡大し、生産性を高め、1つの市場において占有率を高めることは競争相手にとって脅威となり、また同時に新規参入をもくろむ事業者にとって参入障壁となる。このようなスケールメリットを獲得するうえで同業他社の買収は有効である(規模の経済)。
一方、同一企業内で事業を広げることは、個々の事業の失敗による経営リスクを分散するうえで有効である(範囲の経済)。

③シナジー効果
自社の展開する事業と関連する事業を買収することにより、シナジー(相乗効果)が期待できる。
企業の利益が1+1=2以上になる場合にシナジーがあるという。
e.g. 鉄鋼業を営む会社が、その原料の鉄鉱石の採掘を行う会社を買収し、原料の調達コストを削減する場合や、
小売店チェーンがクレジットカード会社を買収し、小売店がクレジットカード手数料を削減し、クレジットカード会社は商圏を拡大しながらも新規顧客獲得コストを削減する場合 etc.

④支配権市場理論
日本の法制度では、株式が会社の所有権を細かく分けたものであり、株式を取得すれば支配権を獲得できる点で、株式の所持、取得が重要である。

M&Aはどんなやり方があるか?

M&Aは上記のように重要なものであるが、それぞれの手法ごとにメリット、デメリットがあり、リスクも異なる。
M&Aは、吸収合併等の合併と株式譲渡等の買収の2つに大別でき、買収は事業譲渡などの資産譲渡(Asset Deal)と株式譲渡などの株式譲渡(Stock Deal)に分けられる。
そこで、今回は、組織再編行為である株式交換を除いたStock Dealの3つの手法、株式譲渡、第三者割当増資、公開買付を比較する。

cf. ①M&Aの手法の全体像
出典:日本M&Aセンター
②Asset DealとStock Dealって?
出典:弁護士寺澤政治のAnother Law Office

株式譲渡

株式を通常の売買によって取得する方法が株式譲渡である(民法555条)。
支配権を移転するには、少なくとも議決権の過半数の移転が必要であり、特別決議要件等を考慮すると2/3以上の譲渡を想定するのが一般的である。

・メリット
①大株主がいるなら楽(探し出したり、交渉したり)
②株主が10名以下なら法的に問題ない

・デメリット
①公開買付規制にひっかっかりやすい(金商法27条の2第1項1号~6号)
株式を大量取得しようとすると公開買付規制に違反するリスクがあり、刑事罰など重い制裁を課されるおそれがある。
(刑事罰として、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはそれらの併科。さらに買付金額の25%相当の課徴金)
(どのような場合に公開買付が必要かは後述の「公開買付」の段落のリンク先参照)
②株式に瑕疵があるリスク
譲渡制限株式であったり、必要な譲渡の承認がなされていなかったり、株主名簿への記載がなされていなかったりなどにより、有効に株式が移転しない可能性がある。
③支配権変動に伴うリスク
支配権変動を良しとしない勢力と関係が悪化し、様々な困難が生じるおそれがある。
④売買に伴うリスク
通常の売買契約と同様に債務不履行や錯誤その他のリスクがある。

・まとめ
手続が簡便で迅速なため、対象会社の株主が10名以下なら有効。
中堅中小企業のM&Aでは一般的に用いられる手法である。

cf. ①株式譲渡手続きマニュアル
出典:会社設立ドットネット
②どんなときに公開買付(TOB)が必要なのか?
出典:M&Aの手法・Capital Evolver
③課徴金の目安は?(リンク先3(4)が公開買付の不実施の金額水準)
出典:証券取引等監視委員会

第三者割当増資

対象会社が募集株式を新たに発行して、割り当ててもらった株式を買い取る方法が第三者割当増資である(会社法199条~)。
既存株主との共同経営の形になる。

・メリット
①手続が簡易迅速(公開会社にあたり、かつ、有利発行にあたらない場合)
取締役会決議(会社法201条、199条2項)で行える。
有利発行に当たる場合は株主総会の特別決議が必要(会社法199条2項・201条1項・309条2項5号)となり、簡易迅速さが失われる。
(市場価格から10%~15%ディスカウントくらいなら有利発行にはあたらないといわれてる。)
②対象会社は資金調達を行え、友好確実
新株を対価として資金提供を受けられるので、確実に友好関係を築ける。

e.g. 2010年、2013の2回にわたってレナウンは同一の企業から第三者割当増資で資金調達を行っている。
出典:東洋経済オンライン

・デメリット
①支配権獲得には多大な資金が必要
過半数を獲得するには公開買付と比べて約2倍の資金が必要となる。
(新たに発行した株式の数だけ分母も増えるから)
②株主による異議の可能性
募集株式発行の承認決議が株主総会で否決されたり、「有利発行にもかかわらず特別総会決議を行っていない」などの理由をつけて株主から差止請求(会社法784条2項等)がなされる可能性がある。
cf. 株主による差止め
出典:会社法であそぼ。・TMI総合法律事務所の葉玉匡美の個人ブログ

・まとめ
簡易迅速にM&Aを行うことができ、「時間を買う」ことのメリットを享受しやすい。また、買収の対象会社が資金調達をすることができるため友好関係を築きやすい。
そこで、資金に余裕がありスピードを優先したい場合や、支配権は獲得しないまま業務提携したい場合に有効といえる。

cf. ①第三者割当増資 図解(手続き、メリット等)
出典:M&Aによる課題解決・株式会社ストライク
②有利発行の目安など
出典:ロア・ユナイテッド法律事務所

公開買付(TOB)

不特定多数の者から公告により、証券市場外で株式等の買付を行い、株式の過半数の取得を目指すのが、公開買付(金商法27条の2)である。
(証券市場内では株式の大量取得は難しい)

cf. どんなときに公開買付が必要か?
出典:M&Aの手法TOB・Capital Evolver

・メリット
①大量取得可能
株式を大量取得するには、公開買付が基本となる。
②第三者割当増資より安価
市場価格よりもプレミアムを取得価格につける必要があるが、母数が増えない分、過半数を確保するための資金は、第三者割当増資よりは安価となる。
③敵対的買収が可能
対象会社との吸収合併などの契約交渉が決裂した場合でも公開買付ならば可能である。

・デメリット
①手間がかかる
公告((金商法27条の3第1項、発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令(以下、「府令」という。)9条、10条)だけでなく、公開買付届出書(金商法27条の3第2項、府令12条)の提出義務がある。
②買い付け期間の制限
20日以上60日以内(行政機関の休日(土日祝、12/29~1/3)を除く)。
(金商法27条の2第2項、施行令8条)
③全部買付義務(原則)
公開買付に応募があった全ての株式を買い取るのが原則となる(金商法27条の13第4項)。
④対象会社の提出する意見表明報告書に記載されている質問への回答義務
公開買付の対象となった会社が、その公開買付について期限10日以内に提出した意見表明報告書(金商法27条の10第1項、府令13条の2第1項)に記載された質問(金商法27条の10第2項)に回答する義務がある(金商法27条の10第10項)。
e.g. どのような意図、経営方針で買収するのかなど
‐期限5日以内(施行令13条の2第2項)
‐必要事項(府令25条3項)
⑤非友好的・防衛策あり
公開買付をしかけられた相手の会社は嫌がるため、成否にかかわらず友好関係を築きにくい。
また、ポイズンピルなど株式発行等による防衛策があり、コストが非常にかかるおそれがある。

cf. ①買収防衛策あれこれ ポイズンピル、ホワイトナイトその他
出典:【法務NAVIまとめ】買収防衛策あれこれ
②買収に備えるために
出典:敵対的買収に対して、企業が事前に講じられる策とは
③敵対防衛策の整備詳細
出典:経済産業省
④買収防衛策の否決例
出典:資本市場に評価される買収防衛策の在り方とは
-企業価値を創出する経営に対する信認の獲得を-・EY総合研究所(株)

・まとめ
株主が10名以上の企業の買収をするときの基本形。第三者割当増資より安価なため、吸収合併等の契約がうまくいかなかったときに、買収をするときは公開買付が基本となる。

まとめ

以上をまとめると、以下のように特徴を分類できる。

①株式譲渡
株主が10名以下で、株主、株式の個別情報が調査できるとき
公開買付が強制されないとき
(中小企業向け)
・リスク 
調査漏れがあると公開買付規制に違反し重い制裁のおそれ

②第三者割当増資
資金に余裕があり、早急なM&Aを実現したいとき
支配権を獲得する際に友好関係を重視するとき
支配権は獲得せずに業務提携をするとき
・リスク
多大な資金が必要であり、それをクリアしても、
有利発行にあたると主張して株主が差止請求するなどのおそれ

③公開買付(TOB)
吸収合併などの契約交渉が上手くいかず、買収には公開買付が強制されるとき
敵対的買収を狙うとき
(大企業向け)
・リスク
買収防衛策により、当初の想定よりもコストがかさみ、リターンが乏しいおそれ

以上となる。

支配権を獲得した後はMBOへ発展するなどの方策が考えられるが、いずれにしろ買収を行うときは、事前の十分な企業調査、評価が重要であり、買収によりどの程度リターンがあるのか、どの買収手法が適当か、について十分に検討することが重要である。

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