断熱フィルム業者が敗訴、処分の取消訴訟について
2016/11/14   広告法務, 訴訟対応, 景品表示法, メーカー

はじめに

窓ガラス用断熱フィルムの省エネ効果を示す広告表示に根拠がないとして景品表示法に基づく措置命令を受けていた業者が命令の取り消しを求めていた訴訟で10日、東京地裁は請求を棄却しました。行政による措置命令や排除措置命令、認可や登録の取り消し決定、無効審判等がなされた場合の対抗策としてなされる処分の取消訴訟。今回は取消訴訟について見ていきます。

事件の概要

翠光トップライン(東京都台東区)とその子会社のジェイトップライン(文京区)は窓ガラスに貼り付ける断熱フィルム「シーグフィルム」を製造販売しておりました。そのパンフレットやウェブサイトには「透明なフィルムを窓ガラスに貼るだけで冷暖房効率が30%~40%アップ」などといった表示がなされておりました。これに対して消費者庁は2014年5月、表示を裏付ける合理的な根拠を示す資料の提出を要求しました。両社は根拠資料を提出しておりましたが、消費者庁は表示内容を裏付ける合理的なものでは無いとし2015年2月、措置命令を下しました。これに対して両社は2015年3月、国を相手取り措置命令の取り消しと国家賠償を求め東京地裁に提訴、同時に執行停止の申立てを行っておりました。両社は技術を全く理解しない微視的かつ机上の空論に基づく一方的で公平性を欠く判断だと主張しております。

処分の取消訴訟とは

行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為の取り消しを求める訴訟を取消訴訟と言います(行政事件訴訟法3条2項)。その対象は行政庁が公権力の主体として行う、いわゆる「処分」と、審査請求や異議申し立てに対して出される「裁決」等が挙げられます。一般に許認可の申請に対する不許可処分や営業停止処分、排除措置命令やその他の措置命令が該当しますが、場合によっては勧告や通知といった本来処分とは言えないものも認められることがあります。取消訴訟は原則としてその処分の名宛人、つまり処分を受けた者が当事者として提起できますが、それ以外の第三者でも「法律上の利益」がある場合には提起できます(9条)。出訴期間は処分、裁決がなされたことを知った日から6ヶ月、または処分、裁決の日から1年です(14条)。取り消しが認められ取消判決が出された場合は処分は最初から無かったこととなります。

執行停止について

処分に対して取消訴訟を提起しても、判決により処分が取り消されるまでは原則として処分の効力は存続します。これを執行不停止の原則といい、取消訴訟によって処分の効力は妨げられないとしています(25条1項)。訴訟は一般的に相当時間を要するものであり、場合によっては判決までに年単位の時間がかかります。それまで処分の効力が続いた場合、営業を継続できない、事業を展開できない、莫大な課徴金納付を余儀なくされるといった事態陥ることになります。一般に民事訴訟ではこのような場合、民事保全法に基いて仮処分申立てを行いますが、行政処分に関しては民事保全法が適用除外となります(44条)。そこで重大な損害を避けるための緊急の必要がある場合に取消訴訟に合わせて執行停止の申立てを行うことができます(25条2項)。裁判所は損害の性質や程度、回復の困難さ、処分の内容や性質等を考慮して緊急の必要があるかを判断します(同3項)。

取消が認められる場合

ではどのような場合に取消訴訟が認容され処分が取り消されるのでしょうか。一般に取消が認められるのは処分がその根拠法令から見て違法である場合と言われております。つまり法の要件を満たさないにも関わらず行政庁が処分を行った場合です。こういった法令違反もいくつかの種類に分けることが出来ます。処分を行った行政機関にそもそも処分権限が無かったという主体の問題、処分を行う手続を守っていなかった手続上の問題、書面で行うべきであったのに口頭で行ったという形式の問題、そして処分そのものの要件を満たしていない内容の問題等が挙げられます。その中でも重要なのが内容面です。これには形式的に要件に反している場合と、一定の裁量が認められその裁量権の行使として行われたが、裁量権を逸脱していると言える場合に分けられます。形式的に反している場合はわかりやすいのですが、法律の規定が抽象的で裁量が認められる場合は判断が難しくなってくると言えるでしょう。

コメント

本件で消費者庁は断熱フィルムの広告表示内容に合理的が根拠がないとして措置命令を出しました。景表法5条1項では「実際のものより著しく優良である」と表示することを禁止しております。そして7条では違反者に対して差止、再発防止、その他必要な措置を命じることができると規定しております。つまり措置命令の要件である優良誤認表示であったのかが争点となります。消費者庁は「学術界や産業界で一般的に認められた方法とは言えない。実験の間隔狭く適切な日射を得られていない。」と両社の提出した根拠について指摘しておりました。そして東京地裁も消費者庁の主張を受入れ、表示を裏付ける根拠にはならず優良誤認であることを認めました。本件は景表法5条1項に該当するかが争点でありわかりやすい例だと言えますが、より科学技術的判断を要する場合や広く裁量が認められる場合には処分の違法性を立証することは容易ではありません。訴訟にも長い期間を要することになると言えます。不服申立制度や執行停止を活用しつつどのように処分に対応していくかを慎重に検討することが必要と言えるでしょう。

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