積立解約手数料「有効」判決、消費者契約法の規制について
2016/10/25   契約法務, 消費者取引関連法務, 消費者契約法, サービス

はじめに

冠婚葬祭費積み立ての中途解約に際し、多額の手数料を取る契約条項は無効であるとして福岡市の消費者団体が日本セレモニーに対し差止を求めていた訴訟の上告審で18日、団体側敗訴の決定が言い渡されました。今回は解約手数料に関する消費者契約法上の規制について見ていきます。

事件の概要

日本セレモニー(山口県)は冠婚葬祭のための費用を積み立てる、いわゆる互助会契約を多くの消費者と締結しておりました。契約にはいくつかのコースがあり、総額約9万円~24万円を90回~120回に分けて、月々千円から2千円払い込む方式となっており、加入から180日以上経過し、かつ6回以上払込を行った以降は加入者の冠婚葬祭に合わせて日本セレモニーの役務サービスを受けられるという内容でした。日本セレモニーの約款によりますと、契約を中途解約する場合には解約手数料が生じることになっており、支払回数に応じて額が変動することになります。コースによりますが支払回数が8回~10回までの場合は払込金全額が手数料として差し引かれ、それ以上の場合でも約15000円前後が差し引かれることになっております。これを受け適格消費者団体の一つであるNPO法人、消費者支援機構福岡(CSOふくおか)は途中解約で会社に損害は生じておらず解約金を取る契約条項は違法であるとして契約条項の差止めを求める訴えを2012年12月に福岡地裁におこしておりました。

消費者契約法上の規制

消費者契約法9条1号によりますと、「消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える」「消費者契約の条項」は「超える部分」について「無効」とするとしています。つまり同種の契約で途中解約につき通常生じる平均的な損害額を超える部分については、その条項は無効というわけです。これは事業者に比して情報量や交渉力等で不利な立場にある消費者を保護するという消費者契約法の目的に則り、事業者から法外な違約金等を請求されないよう契約条項について規制したものです。そして適格消費者団体はこの規定に違反する契約条項のある契約が締結され、又は締結されるおそれがある場合には停止や予防、その他必要な措置を取ることを請求することができます(差止請求権 12条3項)。なお民法・商法以外の法律、例えば特定商取引法や割賦販売法等に別段の定めがある場合には適用除外となります(11条)。

「事業者に生ずべき平均的な損害の額」とは

では消費者契約法上認められる「事業者に生ずべき平均的な損害の額」とはどのようなものでしょうか。一般的には同一事業者が締結する多数の同種契約について類型的に算定される平均的な損害額とされており、裁判例によりますと解除事由、時期その他契約の特殊性、逸失利益、準備費用、利益率等損害の内容、契約の代替可能性等の諸事情に照らして判断すべきとされております。つまりは事業者に生じる実損であって、一般的に同種契約の締結・履行のために必要な費用(必要経費)を想定されております。ちなみにこの平均的な損害の額についての立証責任は、下級審裁判例では消費者保護という法の目的や情報力の偏在から事業者側に有るとするもの存在しますが、最高裁は条項の無効を主張する消費者側に有るとしています。

コメント

本件で日本セレモニーは互助会契約の会員の募集や管理等に多額の費用がかかっており、これらの費用が「平均的な損害」含まれると主張しております。これに対して一審福岡地裁は、募集や管理費といった人件費は個々の会員との契約ではなく、他の会員や顧客との関係でも生じる一般的な費用に過ぎず本件での平均的な損害には含まれないとしました。二審名古屋高裁は一転、会員の募集に要する人件費は当該会員を獲得するための費用というべきであるから平均的な損害に含まれるべきとしました。それ以外にも営業用建物の使用料やパンフレット作成費等も広く必要経費に該当し平均的な損害に含まれるとしました。最高裁も高裁判決を支持し上告棄却としました。9条1号が問題となった他の事例としては、授業が開始される前に前納された大学の授業料、契約翌日に解約したウェディングドレスレンタル料の全額、まだ確保していなかった中古車販売契約の解約料等に関して平均的な損害を超えるものとして無効とする判決が出ております。本件での最高裁判決で必要経費についてはある程度広く認定され平均的な損害に含まれると判断できると言えます。しかし他方で事業者側の実損とは言えない違約金的な意味合いを有する金銭については裁判所は基本的には認めない傾向にあると考えられます。以上の判例裁判例を参考に契約約款等で定めた解約手数料は有効であるかを見直すことが重要ではないでしょうか。

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