ハマキョウレックス訴訟に見る労働条件格差
2016/07/27   労務法務, 労働法全般, 物流

はじめに

正社員と契約社員で賃金や手当に格差を設けるのは違法であるとして、物流大手「ハマキョウレックス」の契約社員が格差の是正を求めていた訴訟の控訴審で26日、大阪高裁は手当の格差を一部違法と認めました。今回は、「正社員と契約社員で労働条件に差を設けることができるのか」について見ていきたいと思います。

事件の概要

物流大手「ハマキョウレックス」(浜松市)の滋賀県彦根支店の契約社員、池田正彦氏(54)は2008年から運転手として同社と半年ごとの雇用契約を結んでいました。同社では正社員に対しては通勤手当、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、家族手当の7つの手当を支給しておりました。一方、契約社員の池田氏には、給与は時給制で手当は通勤手当の一部のみが支給されていました。池田氏は労働内容が同一であるのに正社員と手当について格差があるのは労働契約法に反し、また契約の違法部分は公序良俗違反で無効であるとして正社員と同じ手当の支給を求める訴えを起こしていました。昨年9月一審大津地裁は通勤手当の格差のみ違法と認め、通勤手当の差額1万円分につき支払を命じていました。

労働契約法上の規制

労働契約法20条では「有期労働契約を締結している労働者の・・・労働条件が」「期間の定めのない・・・労働者の・・・労働条件」と相違する場合、その相違が「不合理と認められるものであってはならない」としています。不合理であるかどうかの判断にあたっては①業務内容②業務に伴う責任の程度③それらと配置の変更の範囲④その他の事情を総合的に判断することになります。対象となる労働条件は賃金や労働時間だといったものだけでなく、各種手当や福利厚生、災害補償、教育訓練といったもの等一切の労働条件が含まれます。①②に関しては当該労働者が従事している業務の内容およびそれに伴う責任の程度を指します。③は転勤や昇進といった人事異動や役割の変化及びその可能性を指します。④はその他合理的と認められる労使慣行等を指します。本条違反が認められた場合、不合理な労働条件は無効となり、その部分は期限の定めのない労働者と同一のものとみなされます。またそれによる損害の賠償が認められることもあります。

本件一審判決

一審大津地裁は上記①~④について、被告ハマキョウレックスは従業員4500人を有する東証一部上場企業であり、正社員は業務上の必要性に応じて就業場所や業務内容の変更命令を受けなくてはならず、出向先も全国に及び、将来支店長等の責任者となる可能性を有している。一方、契約社員は労働内容、労働時間、休息時間等の変更を受けるに留まるのであるから、事業の中核を担う人材として育成されるべき立場にもないとして、7つの手当のうち通勤手当以外については不支給でも不合理とは言えないとしました。

コメント

本件大阪高裁判決では、一審と同様の判断枠組みに立ちつつも通勤手当だけでなく無事故手当、作業手当、給食手当についても支給されるべきとしました。一方で住宅手当等については正社員には転勤があり得ることなどを理由に不合理とは言えないとしました。正社員と非正規社員との間での格差の合理性を判断するにあたっては、一審二審ともに社内における社員の責任と立場を重視しているものと思われます。将来転勤の可能性があるか、将来責任者となる立場にあるかといった社員の地位が重要な判断材料となっているようです。一方以前にも取り上げました定年後再雇用の場合の合理性の判断について判例は定年後に業務が変わらないまま賃金を下げることが社会通念上、慣行として広く受入れられているかを重視していました。定年後の労働条件に関しては正社員も将来同様の扱いを受ける立場にあることから、立場の違いよりも慣行を重視して判断したのではないかと考えられます。従業員に賃金や手当等について差異を設けている場合にはこれらの判断枠組みを念頭に置いて合理的と言える範囲に設定することが重要と言えるでしょう。

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