裁判例に見る株主総会会場と議事運営
2018/06/05   総会対応, 会社法

はじめに

来年6月に大阪市で開催が予定されているG20により関西の企業の来年の定時株主総会の会場確保が難航していることがわかりました。大阪府は日程や会場変更の協力を求めております。今回は株主総会の会場や会場での議事運営について見ていきます。

事案の概要

報道などによりますと、来年6月28日と29日に大阪市でG20主要20か国首脳会議の開催が予定されております。G20では外交団約3万人が大阪市に滞在することとなっているとされます。6月下旬は各企業の定時株主総会の開催時期であり関西の企業各社は毎年大阪市内のホテルで株主総会を開催してきましたが、来年はG20の影響により会場を確保できていない企業が相次いでいるとのことです。これを受け大阪府やG20大阪サミット関西推進協力協議会は関西の企業に対し株主総会の日程変更などの協力を求めています。

株主総会の招集時期

各企業は事業年度の終了後一定の時期に定時株主総会を開催することが求められております(会社法296条1項)。この事業年度終了後一定の時期が具体的にいつなのかについては規定はありません。しかし基準日制度を採用している場合はその基準日から3ヶ月以内に開催する必要があります。基準日株主が行使できる権利は基準日から3ヶ月以内のものに限られているからです(124条2項括弧書き)。この基準日を採用した場合は基準日の2週間前までに公告をするか、定款で定める必要があります(同3項)。

株主総会の会場

株主総会の会場については会社法では特に規定はありません。旧商法の時代は株主総会の会場は原則として本店の所在地またはその隣接地で開催する必要があり、例外的に定款で定めた場所で開催することができていました(旧商法233条)。しかし現行会社法ではこの規定はなくなっております。ただし開催場所が過去に開催した場所から著しく離れた場所であるときは、それが定款で定められた場所である場合、または出席しない株主全員の同意がある場合を除いて、その場所である理由を招集決定時に定める必要があります(会社法施行規則63条2号)。

会場と議事運営に関する裁判例

株主が多数になったため株主総会の会場を第一会場と第二会場に分けて収容した事例があります。この事例では第二会場に収容された株主が第一会場での議事運営に対し質問権が確保されていなかったなどとして提訴しております。裁判所は株主からの質問要求があればただちに対応できる態勢を整えておけば足りるとし、質問があれば第一会場に誘導して質問をさせていたことから株主の質問権は害されていないとしました(大阪地裁平成10年3月18日)。

コメント

以上のように定時株主総会の時期や会場はかなり自由に決定することができます。関西圏の企業も来年のG20に備え時期や会場を例年よりもずらすということも不可能ではないと言えます。しかし多くの企業では定時株主総会にかかる基準日は定款に定めている場合が多く、時期をずらす場合は定款変更が必要となってきます。また会場についても「著しく離れた場所」となってしまう場合にはその理由も決定しなければなりません。大きな会場が確保できない場合は複数の会場で開催することも考えられますが、その場合は第二、第三会場の株主が発言や質問を滞りなく行える配慮が必要です。裁判例では第一会場への誘導を持って足りるとしましたが、映像や音声でリンクし、別会場からも発言できるようにするとなお良いと思われます。関西圏の企業も、それ以外の地域の企業も以上のことを踏まえて柔軟に株主総会の開催を検討していくことが重要と言えるでしょう。

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