奈良県の業者が取消訴訟、「行政代執行」について
2017/11/01   行政対応

はじめに

奈良県生駒市で業者が無許可で盛り土を行った問題で、行政代執行に踏み切った県に対し、業者側が処分の取消訴訟を提起していたことがわかりました。法律や条例、行政処分などによって課された義務を履行しない場合に行われる強制手段。今回は行政代執行について見ていきます。

事案の概要

報道などによりますと、奈良県生駒市西松ケ丘の住宅地の県の砂防指定地で業者が条例に違反し、無許可で盛り土をしていたことが住民の通報で見つかりました。現場は川沿いの斜面で平成22年6月、住民から「川に土砂が流入している」との通報があり、県が調査したところ、土地変更許可を受けずに砂防指定地に盛り土がなされており、現場は亀裂が広がっていたとのことです。県は業者に対し文書で是正するよう指導した他、16回に渡り口頭で指導したにもかかわらず是正がなされず、翌年11月には連絡も取れなくなっていたとされます。さらに先月の台風21号によって土地の頂上付近から長さ約7.5メートル、幅約30メートルにわたって崩落していたこともわかりました。県は行政代執行に踏み切ることを決定していたところ、業者側は無許可で盛り土を行ったことは認めるものの代執行がなされる範囲に盛り土が行われていない部分も含まれているとして処分の取り消しを求め提訴していました。

行政代執行とは

行政上の義務を任意に履行しない場合に、行政側が行う強制手段の一つが行政代執行です。たとえば違法建築物や公有地に違法に物を置いて不法占拠している場合に、これらを除去する義務を履行しない場合、行政が代わりに行って事後、その費用を請求するというものです。よく見られる例としては公園にテントを設置して生活しているホームレスに対し、退去命令を出し、それに従わない場合に行政が代わりにテントを撤去するというものです。最近では老朽化し崩落の危険のある空き家などにも行政代執行の利用が検討されております。

行政代執行の要件と手続き

(1)代替的作為義務
行政代執行法2条によりますと、「法律(法律の委任に基づく命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接命ぜられ、又は法律に基づき行政庁により命ぜられた行為」を履行しないことがまず要件となります。法律により直接命じられる場合というのは、法律の条文で「・・・の場合には遅滞なく・・・しなければならない」というように直接具体的に義務が課されている場合をいいます。そして法律に基づき行政庁に命じられた行為とは、建築基準法に基づいて出される除却命令のように法律を根拠として行政が出した処分を言います。一般的に前者よりも後者のほうが多いと言えます。そしてその義務は代替的なものでなければなりません。つまり義務者本人でなくとも履行することができるものです。契約に基づく債務のようにその義務者でなければできない行為は対象となりません。たとえば建物の撤去のように誰かが行えば目的が達成できる義務ということです。

(2)他の手段では困難であること
上記代替的作為義務を義務者が履行しない場合で、「他の手段によってその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められる」場合に代執行をすることができます。つまり不履行があれば常に代執行を行うことができるというわけではなく、その義務の内容や法の趣旨などから、他の手段では困難であり、放置すると公益上、著しい不利益が生じる場合に限定されます。これはいわゆる比例原則の現れと言われます。たとえば指導を続ければ改善が見込める場合や、さして公益上問題が生じていないにもかかわらず、強力な強制手段に出ることは妥当ではないということです。

(3)手続き
これらの要件を満たし、実際に執行するためにはまず相当の期限を定め、その期限までに履行しないときは代執行を行う旨をあらかじめ文書で戒告することになります(3条1項)。そしてその期限までに履行がなされない場合は義務者に対し、執行の時期、執行責任者の氏名、費用の見積額を記載した代執行令書を発します(同2項)。そして当日には執行責任者は本人である旨を示す証票を携帯して実施します(4条)。かかった費用は納期日を定めて文書で納付が命じられ(5条)、納付しない場合は国税徴収法に基づいて徴収されることになります(6条1項)。

コメント

行政代執行が行われる場合には通常、法律に基づいた行政処分があります。是正命令や除去命令、除却命令などです。行政代執行に不服がある場合はこれらの処分に対して不服申立や取消訴訟を行うことが考えられます。その際には同時に執行停止の申立を行ない代執行自体を止めておく必要があります(行政事件訴訟法25条)。また代執行の手続きである戒告や代執行令書の通知も処分の一種であることから取消訴訟等を行うことができると言われております。本件でも業者側は盛り土の範囲と処分の範囲に齟齬があるとして訴えを提起しております。法律に基づく奈良県の是正処分の範囲に違法がある旨主張しているということです。訴訟中に県が執行に着手しないよう執行停止の申立も同時に行われているものと考えられます。以上のように行政と見解に相違があり、代執行がなされようとしている場合には、作為義務を命じる処分に問題はないか、手続きに問題はないかを根拠法令や条例から検討し対策を講じることが重要と言えるでしょう。

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