カネミ油症訴訟で除斥期間適用、賠償認めず。
2013/03/22   訴訟対応, 民事訴訟法, その他

事案の概要

国内最大の食品公害とされるカネミ油症問題で、2004年の認定基準の緩和による「新認定患者」と遺族ら計59人が、カネミ倉庫(北九州市)に患者1人当たり1100万円の損害賠償を求めた訴訟で、福岡地裁小倉支部(岡田健裁判長)は21日、「当時から原因企業は明らかで、権利行使が困難だった事情は認められない」「20年の除斥期間が経過しており、原告の損害賠償請求権は消滅している」などとし、原告の請求を棄却した。

 訴訟では除斥期間の適用の有無が争点になり、同社側は「ポリ塩化ビフェニール(PCB)が食用油に混入した1968年から起算して、請求権は消滅している」と主張。原告側は「除斥期間で免責するのは正義・公平の理念に反する。仮に適用するにしても患者認定された時」と反論した。

 判決は、原告らが食用油の摂取から数か月で発症していることから、起算点を「摂取した時」と判断。原告らは遅くとも1969年末までに摂取しているとして、20年後の89年末をもって「請求権は消滅した」と指摘した。

除斥期間とは

 除斥期間とは権利関係を速やかに確定するために設けられた権利の存続期間をいう。時効と類似するが、中断ということがない固定期間であることなどの点で異なる。

 不法行為に基づく損害賠償請求権に関する20年の期間制限については、民法724条後段に規定があり、これを判例(平成元年12月21日 最高裁第一小法廷判決、民集43巻12号2209頁)が除斥期間と認めている。

 除斥期間の起算点については民法724条後段で「不法行為の時」からとされている。この「不法行為の時」とは加害行為が行われた時点を意味すると解するのが最も文理に沿った解釈である。
 一方で判例は三井鉱山じん肺訴訟(平成16年4月27日最高裁第三小法廷判決、民集58巻4号1032頁)で、民法724条後段所定の除斥期間は、不法行為により発生する損害の性質上、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には、当該損害の全部又は一部が発生した時から進行すると判断している。これは原則として加害行為時を起算点とするが、加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生するようなケースは例外的に損害発生時を起算点とするというものである。

コメント

 本件では除斥期間の起算点が争われているが、その判断の根底には本件で被害者を救済するのが妥当かという判断があるといえる。被害者救済の必要がある一方で、企業側への配慮も必要である。企業側が加害者としてこれまで誠実に対応してきたかが判断の分かれ目となりそうである。

参照条文

【民法】
第七百二十四条  不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

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