「ポケモンGO」を提訴、米国クラスアクション制度について
2016/08/05   海外法務, 外国法, エンターテイメント

はじめに

米国ニュージャージー州の男性が2日までに、スマートフォン用ゲーム「ポケモンGO」のポケモンの出現場所として自己の所有地が設定されていたことにつき、開発元である米ナイアンティック社と任天堂を相手取り損害賠償を求める訴えを起こしました。男性の自宅の裏庭がポケモンの出現場所となっており、これまでに5人以上のプレイヤーから立ち入り許可を求められたとしています。米国内での同様の境遇の人全員を原告とする集団訴訟として扱うよう求めています。今回は米国における集団訴訟であるクラスアクション制度について見ていきたいと思います。

クラスアクション制度とは

クラスアクションとは特定の欠陥商品による被害者等、共通の法的利害関係を有する地位(クラス)にある一部の者がそのクラスを代表して他のクラスの構成員の同意を得ること無く訴えを提起する米国の集団訴訟制度を言います。事前に当事者全員の意思をまとめることや代表者の選定といった準備の必要がなく、全ての同様の立場の人間を代表して迅速に訴訟を遂行することができます。また代表者だけでなくクラス構成員全員分の賠償請求をまてめて行うことができ、勝訴した場合は訴訟に参加しなかったクラス構成員にも賠償金が分配されます。一方で敗訴した場合、その不利益な判決効も参加しなかったクラス構成員全員に及ぶことになり、手続保障の面でデメリットも存在します。

クラスアクション手続の流れ

アメリカ連邦民事訴訟規則によりますと、クラスアクション制度による訴訟として提訴すると裁判所によるクラス認証の判定が行われます(23条C、1)。クラス認証がなされた場合、当該クラスの訴訟代理人が氏名され、クラス構成員に通知がなされます。認証がなされなかった場合は控訴裁判所への上訴となります。その後審理手続に移行し、和解が提案された場合には和解案がクラス構成員に通知され連邦・州職員の告知、クラス構成員の異議手続を経て和解案の審理に入ります。和解が許可された場合には分配手続に移行します。和解の提案が無かった場合にはそのまま判決、上訴へと移行することこになります。手続に参加しないクラス構成員は自己に判決効が及ぶことを避けるためにクラスから脱退(オプトアウト)することが出来ます。

クラス認証要件

クラスアクション制度を利用するためにはまず裁判所によるクラス認証を受ける必要があります。特定の紛争における原告集団として認められなければならないということです。連邦民事訴訟規則23条Aによりますとクラス認証の要件は①構成員全員の事件を併合することが実行不可能なほど多数であること(多数性)②クラスに共通する法律上又は事実上の争点が存在すること(共通性)③代表当事者の請求又は防御方法がクラスの請求又は防御方法として典型的であること(典型性)④代表当事者がクラスの利益を公平かつ適切に守るであろうこと(適切性)が挙げられます。またこれらの要件以前に前提として連邦裁判者の管轄事件である必要もあります。

和解要件

クラスアクション訴訟では多数のクラス構成員に影響を及ぼすことから和解についても適切になされるよう規制が設けられております。規則23条Eでは和解内容の全てを記載した陳述書を提出した上で、構成員全員に適切な方法で通知することが求められます。また和解内容も構成員の異議を述べる機会を与えた上で公正かつ適切な内容かを裁判所が審査し許可することになります。和解の内容として被告企業のサービスや割引を提供するいわゆるクーポン和解の場合にはクーポンの価値についても厳正に審理される等の規制を設けております(クラスアクション公正法)。

コメント

タカタ製エアバッグのリコール事件に関連して消費者から集団訴訟を起こされるなど、近年、アメリカでは日本企業がクラスアクション制度による訴えを起こされるケースが増加しております。これまで見てきたように米クラスアクション制度は日本の消費者団体訴訟と違い、対象となる事件の範囲も、原告の適格も制限はありません。日本では対象事件は消費者契約法や景表法違反事件等に限られ、原告も適格消費者団体のみとなっております。また、米クラスアクション訴訟では代表当事者以外の構成員の分まで請求できることから、勝訴した場合の賠償も巨額のものとなり、それをもとに算定される弁護士報酬も膨大なものとなります。それ故に弁護士が報酬目当てで強引にクラスアクション訴訟を提起することも多いと言われております。アメリカに進出する日本企業にとってクラスアクション制度は相当のリスクとも言えます。一方で、クラス認証の4要件に該当することはそれほど簡単なことではないことも事実であり、当該商品の使用方法や当事者それぞれの経験、クレーム内容等を綿密に吟味して反論すれば要件該当性が否定されることも多いと言われております。クラスアクション制度を必要以上に恐れず適切に対処することが重要と言えるでしょう。

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