「出前館」創業者を金商法違反容疑で捜査、相場操縦行為とは
2016/05/17   金融法務, 金融商品取引法, 小売

はじめに

東京地検特捜部はジャスダック上場の宅配サイト「出前館」を運営する「夢の街創造委員会」の創業者の男性(46)から金融商品取引法(金商法)違反(相場操縦)の疑いで任意に事情聴取したことがわかりました。金商法が禁止する相場操縦とはどのようなものか見ていきたいと思います。

事件の概要

夢の街創造委員会の創業者の男性は、同社の特別顧問に就任していた2013年から2014年6月にかけてジャスダック上場の同社株の株価を不正に釣り上げた疑いが生じています。男性は株式を担保として証券会社から株式買い付け資金を借りて取引するいわゆる「信用取引」を行っていたところ、男性の保有する同社株の株価が値下がりしたことから価格を釣り上げる目的で取引終了間際に高値で大量の買い注文を出す「終値関与」という手口を行っていたと見られています。今年2月、証券取引等監視委員会は、同容疑で男性及び夢の街創造委員会の大阪本社と東京支社の強制捜査を行っていました。

相場操縦とは

相場操縦とは取引相場を人為的に変動させることによって、当該相場にそのような受給関係が成立しているように他の投資家に誤解させ、それによって利益を得る行為を言います。金商法159条は有価証券等の取引において「取引が繁盛に行われていると他人に誤解させる等これらの取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的をもって」相場操縦行為を行うことを禁止しています。違反した場合には10年以下の懲役、1000万円以下の罰金また併科となっております(197条1項5号)。具体的な相場操縦行為には以下のものがあげられます。
(1)見せ玉
実際には取引するつもりがないにもかかわらず買い注文、あるいは売り注文を出すことによってあたかもそのような需給が発生しているかのように見せ、他の投資家の参入を呼び込み、希望の価格で売り買いした後に、それらの注文を取り消す行為を見せ玉と言います。自己の保有する株式の価格を上げるために高値で大量に買い注文を出し、価格が上昇したところで売りぬけ、出していた大量の買い注文は取り消すといった場合が該当します。

(2)終値関与
取引終了間際に大量の売買注文を出すことによって、終値を直近価格よりも高く、あるいや低く形成するようにする行為を終値関与と言います。終値は各種メディアで発表され、その銘柄の一般の評価を左右する重要な指標になりますので、これに関与することによって自己の取引を有利に進めることになります。

(3)仮想売買
ある特定の株式の取引状況を仮装する目的で、同一人が何度も当該銘柄を売り買いする行為を仮装売買と言います。同じ価格で同時に売り注文と買い注文を出し、実際には株式と金銭は動かず、取引数だけが増えるといった場合が該当します。売り注文と買い注文で同一人が対当させることから対当売買と言われることもあります。

(4)馴合売買
知り合い同士で示し合わせて、ある特定の株式の取引状況を仮装する目的で、同時に同じ値段で互いに買い注文と売り注文を出す行為を馴合売買と言います。上記仮装売買を1人ではなく知り合い同士で行うような場合と言えます。

(5)風説の流布
風説の流布とは、相場価格の変動を目的として合理的根拠のない情報を流す行為を言います。金商法上厳密には相場操縦とは別に規定されており(158条)相場操縦行為の1類型とは言えませんが、意図的に株価を変動させ、不当な利益を得ることを目的とする点においては共通するものと言えます。株価を引き下げる目的で会社が倒産する等の虚偽の情報をインターネットで流す行為などが該当することになります。

コメント

本件事件で創業者の男性は信用取引で保有する株価が下がり追加の保証金が求められる(追い証)ことを防ぐために行ったが、証券会社の担当者に「このような買い方をすれば終値が上がる」と教えられてやったものであり違法だとは思っていなかったと供述しています。上に紹介した相場操縦事例のほとんどは不正な意図目的が無く偶発的に行えば違法とはならない行為と言えます。実際に証券取引等監視委員会が捜査に着手する場合は、不相当に高値で買い注文を行ったり、注文数がその人のこれまでの取引状況から異常に多いと言った場合に嫌疑がかけられると言えます。注意が必要なのは上場会社が自己株式を取得する場合です。自社の株価が下がりすぎることを防ぐ目的で自己株式を取得したりする場合に相場操縦に当たらないように注意することが必要です。有価証券の取引等の規制に関する内閣府令17条には自己株式の取得についての制限(セーフハーバールール)が設けられており、この範囲内であれば金商法等の法令に違反しないことになります。このように自社の株式価格に影響を与える自己株式の取得には注意が必要と言えるでしょう。

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