JALとCA女性の間、マタハラ訴訟で和解成立
2017/07/17   コンプライアンス, 労務法務, 労働法全般, その他

はじめに

 今日、安倍内閣では、「すべての女性が輝く社会づくり」をスローガンとして掲げています。このような状況のもと、ますます女性が企業において活躍する機会が多くなると思われます。そこで、今回は、女性が企業で活躍するうえでたびたび問題となるマタハラについて、JALと客室乗務員との間で成立した和解の事案を通してみていきたいと思います。マタハラとは、端的にいうと、妊婦への嫌がらせのことをいいます。
 また、本サイトではたびたびマタハラについて記事で触れてきました。興味のある方は、下記記事もご覧ください。
マタハラ指針への対応について
マタハラ、退職が無効となる場合って…?

事案の概要

 もともと、JALには、客室乗務員が妊娠した場合、乗務できないとの規定がありました。
 そのような中、JALの客室乗務員・神野知子さん(42歳)は、妊娠したため体への負担が少ない地上勤務がしたいと配置転換の希望をJALに申し出ました。ところが、JAL側はこの申し出を拒否して神野さんに対して無給での休職を命じました。そこで、神野さんはしばらく労働組合を通じて強制的な休職命令を解除してもらおうとJALと交渉を続けました。しかし、交渉がまとまらなかったので、神野さんは妊娠を理由とするマタハラだとして、JALに対して未払い賃金など約338万円を求めて東京地裁(佐々木宗啓裁判長)に訴えました。

神野さんが命じられた無給の休職の問題点

 休職期間中、今までどおりの生活を送ることが難しいことが問題となっています。
なぜなら、JALから無給の休職を命じられると、職員は
①賞与計算で不利となること
②休職期間が勤続年数に数えられないこと
③休職中バイトができないこと
④社宅から退去しないといけないこと
の状況に陥るからです。
そのため、裁判官より、実質的な退職させるシステムではないかとの指摘を受けています。

JALの社内ルールの変遷

①1980年、産前地上勤務制度ができる。
②2008年、会社が許可しなければ、産前地上勤務に就けなくなる。
(2014年の段階で、客室乗務員の数は約4900人いたにもかかわらず、許可する枠は「たった9枠」しかない。)
③産前地上業務の枠が増える。
④2015年、無給の休職中、社宅から退去しなくてよくなる。
⑤2016年、産前地上勤務の時短勤務が導入される。
⑥2017年、希望者全員が産前地上勤務につけるようにする。

裁判での当事者の主張

●神野さん側の主張
①産前地上勤務に「会社の許可がいる」のは、『妊娠した女性が望む場合、雇用者は他の軽易な業務に転換させなければならない』と定めた労基法や、妊娠した女性への不利益な取り扱いを禁じた男女雇用機会均等法などに違反している。
②当時、JALは約1800億円の営業利益を上げており、働き場所は簡単に用意できるはずだった上、約4900人いる客室乗務員のうち99・8%が女性であるにも関わらず地上勤務枠はごくわずかで、休職命令自体が不当で無効だ。

●JAL側の主張
①客室乗務員の仕事は、飛行機の乗務に限定されている。そのため、妊娠した客室乗務員は、飛行機に乗れない以上、休職するしかない。そして、休職している以上、ノーワークノーペイの原則が適用されるので、無給でも仕方ない。
②妊娠によって乗務できなくなるのは、客室乗務員側の自己責任だ。

和解の内容

 神野さんは、判決だと個別救済になってしまうことから、より柔軟な解決が可能でJALに勤める女性全体の利益になる和解をすることを選びました。
和解内容は、
①妊娠した客室乗務員が地上勤務を申請した場合、原則的に認めること
②JALは労働組合側に対して客室乗務員から地上勤務になった人数や配置先などの情報を開示すること
③和解金については守秘義務より不明
等です。

本件和解のポイント

①JALは、妊娠した女性が申請した場合、原則として全員を、産前地上勤務に就けるようにすること(2017年度以降)。
②産前地上勤務の間は、時短勤務か通常勤務を選べるようにすること(2018年4月~10月に開始)。

総括

 これまで、JALと神野さんの調停を見てきました。JALは女性従業員割合が約6割を超え、このようなマタハラ問題が顕在化しやすい環境ではありました。もっとも、どの企業も、女性従業員の割合が低いからといって、他社の話だと割り切ることはできません。なぜなら、女性従業員がいる以上、企業は女性従業員のための就業環境を整備しない限り、マタハラ問題が生じる潜在的リスクは負っているからです。そして、一度マタハラ問題が顕在化すると、その情報はインターネット等を介して、その企業のイメージの1つとして定着することになります。そして、一度そのイメージが定着すると、新卒で将来有望な女性が当該企業の就業環境に不安を覚え、採用の応募を躊躇うだけでなく、当該企業内部の優秀な女性人材が先行きに不安を感じて転職し、人材が流失する可能性が高くなります。そうすると、企業としては、妊娠した女性を退職させるシステムを整える方が短期的には安上がりだとしても、優秀な女性が入社しなくなったり、流失したりすることで、企業の売上自体が落ちるなど長期的にみると著しい不利益につながります。このようなリスクを回避するうえでも、企業は早急に妊娠した女性の就業環境の整備を行う必要があります。
 その整備の中には、当然妊娠に基づく勤務形態の変更も含まれます。この勤務形態の変更においては、今回のJALと神野さんの調停内容は、他社でも妊娠した女性への対応として一つの指針となると考えます。まず、会社としては、女性が妊娠した場合、勤務形態を変更できる制度を用意しておく必要があると思います。そのうえ、制度を用意するのみではなく、妊娠した女性が利用しやすいように、制度利用の申込みの人数を会社の女性の従業員数に沿って決めるようにする必要もあります。そして、勤務時間も、妊娠した女性の生活状況、妊娠日数や、その人自身の体力を加味して柔軟に対応できるように用意しておくべきだと考えます。このほかにも、会社が率先して妊娠した女性の意見を聞き、女性にとって働きやすい環境の整備をしていくことが、マタハラ問題の予防に繋がると考えます。

関連サイト

「日本からマタハラがなくなればいい」JALの女性CA、裁判で「完全勝利和解」
マタハラ訴訟 日航、客室乗務員と和解 東京地裁
妊娠で強制休職… JAL客室乗務員をめぐるマタハラ訴訟が和解 「実態改善できて嬉しい」

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