特許侵害の疑いで東芝を調査へ、米国際貿易委員会とは
2017/04/12 知財・ライセンス, 特許法, その他
はじめに
米国際貿易委員会(ITC)は6日、東芝が製造販売しているフラッシュメモリーが特許を侵害している疑いがあるとして東京本社や米国、フィリピンの関連会社を調査すると発表しました。特許侵害や独禁法違反等の不公正取引に対して、裁判所とは違った独自の権限で対処する米国の制度。今回は米国際貿易委員会について見ていきます。
事案の概要
東芝は現在、米ウエスティングハウスを巡る巨額の損失を補填するためにフラッシュメモリーを含む半導体事業を分社化した後、株式の過半数を売却することを計画しております。そんな中、台湾の半導体メーカーである旺宏電子(マクロニクス)は米国際貿易委員会(ITC)に特許侵害の疑いで東芝を訴えました。ITCは米関税法337条に基づき東芝の東京本社及び米国、フィリピンの関連会社を調査する方針です。ITCにより特許侵害が認定された場合、ITCの処分によって米国内で東芝製フラッシュメモリーや関連製品が販売できなくなる恐れがあります。また売却を予定している半導体事業にも影響を及ぼす可能性が高いとされております。
米国際貿易委員会とは
米国際貿易委員会(International Trade Commission,ITC)とは米国の独立行政委員会で、米国関税法337条により米国内での不公正な行為から米国市場や米国産業を保護することを目的とする機関です。不公正な行為とは典型的に特許侵害や独禁法違反行為が該当します。米国内で特許侵害等の被害を受けた場合、連邦裁判所に提訴することもできますが、これとは別にITCに訴えることも同時にできます。ITCが特許侵害等を認定した場合排除命令が出され、米国内での取引、販売が禁止されることになります。米国での特許侵害行為等に対しては非常に強力な対抗手段として機能するものと言えます。
米国際貿易委員会の組織
ITCは裁判所に似た準司法的機能を有する行政委員会で、行政法判事と6名の委員で構成されます。裁判所ではないことから陪審員は存在せず、代わりに不公正輸入調査官が参加することになります。これは米国内での公共の利益を代表する第三者という立場から客観的に意見を言う役目を担っております。6名の委員は大統領によって任命され、また行政法判事も特許権等の知的財産権や独禁法等の経済法のエキスパートから選出されることになっております。
審査手続き
米国内で事業を展開し、米国内に事業所を置く企業であればITCによる手続を利用することができます。例えば日本企業が米国内で事業を展開する中国企業を提訴するということも可能です。原告からITCに提訴がなされると、委員会が検討し、調査が必要と認められた場合に調査開始決定がなされ、原告・被告に送達されます。ここからは訴訟と同じく両当事者が対立しますが、上記調査官も加わり三面構造となります。ITCでの審査は訴訟に比べ迅速で、開始から約1年半程度で決定が出されます。行政法判事の判決は委員会に伝えられ、それを元に委員会が最終決定を出します。違法事実が認定され、排除命令が出された場合、大統領は60日以内に不承認決定を出すことができます。また排除命令に対しては連邦巡回控訴裁判所に控訴することもできます。
コメント
米国際貿易委員会(ITC)による審査はそもそも米国内の市場保護を目的としており、当事者の利益保護を目的とはしていないことから、この手続によって相手に損害賠償請求等をすることはできません。あくまでも米国内での不正行為を告発するに留まります。しかしITCの排除命令は極めて強力で、その効果は全米に及びます。米国内での販売や米国への輸出入が禁止されます。これによって事実上相手方から市場を取り戻すことができます。本件でもITCはマクロニクスによる提訴を受けて調査決定をしましたので、東芝は以後ITCによる審査手続に入ることになります。最終決定が確定するまで1年半から2年近くを要しますが、排除命令が出た場合は東芝の半導体事業に相当の痛手を被ることになります。米国ITC制度は本来日本からの輸出攻勢から米国企業を保護するために創出されたものですが、現在は日本をはじめ多くの外国企業が利用しております。ITC訴訟を専門とする弁護士を確保することは相当のコストがかかりますが、その極めて強力な権限から見ても、米国内で事業を継続する上で避けることはできないでしょう。以上を踏まえて、提訴された場合は迅速に対応し、また特許侵害等を受けた場合は積極的にITCへの提訴を検討することが重要と言えるでしょう。
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