ノークレームノーリターンの法的根拠と改正情報

1.はじめに

 現在、ネットショッピングをする際に出品者コメント欄に「ノークレームノーリターンでお願いします。」と書かれていることがある。このコメントの法的意味は何なのか。そして、今回改正される民法改正によってどのように内容が変化していくのかを見ていきたいと思います。

2.ノークレームノーリターンの現行民法による法的意味

 民法には、売買契約をする際、「この商品には多少○○の部分に傷がございます」との説明があったとしても、買主は「思ったより傷が大きい」と思った場合、解除や損害賠償を求めることが出来る規定があります。このことを、「瑕疵担保責任」といいます。この瑕疵担保責任の規定の中には、瑕疵担保責任を負わない旨の特約をすることが出来る規定があります(民法572条)。
 すると、「ノークレームノーリターンでお願いします」との意味は、買主が「思ったよりも傷が大きい」と思っても苦情や返品が出来なくなってしまうということです。
 もっとも、①出品者が出品物の全部又は一部が他人に属すること、数量が不足していること、出品物の瑕疵があることについて売主が知っているにもかかわらず、これを告げないで取引した場合や②商品等の説明が不十分である場合で取引の重要な事項に錯誤がある場合には、民法上の規定によって返品をすることが可能となります。
 以上が民法上のノークレームノーリターンの法的意味です。

経済産業省「電子商取引に関する論点」(ⅰ.83参照)

3.現行の特別法による民法の修正

 さらに、民法の規定以外にも民法上の「瑕疵担保責任」について損害賠償義務の全部免除条項を無効とすると定めた消費者契約法や、欠陥については広告上の表示義務を定めた特定商品取引に関する法律があります。このような規定が、今回の民法改正によってどのように変化されていくのかを説明します。

4.改正民法の内容~民法上の瑕疵担保責任の改正~

 まず、この瑕疵担保責任は、民法改正によって多きく変化します。詳細は、下記のリンクを載せますが、物の瑕疵という考え方を改めて、「契約の内容」に応じて売主が担保責任を負うかで判断されるようになります。

改正民法「瑕疵担保責任の内容」

 では、瑕疵担保責任を負わない旨の特約をすることが出来る規定がどのように変わったのか見ていきます。
 改正民法では、民法572条に規定されていて、その内容は、売主は買主の追完請求・減額請求・損害賠償並びに解除権の行使について責任を負わない旨の特約をすることが出来ると規定されています。但し、担保責任を免れることが出来ない場合も規定しており、これは、瑕疵という考え方は変わっているものの改正前(現民法)と同様に、出品者が出品物の全部又は一部が他人に属すること、数量が不足していること、出品物の契約内容が適合しないことについて売主が知っているにもかかわらず、これを告げないで取引した場合です。注意点としては、上記の錯誤部分ですが、錯誤規定についても民法改正によって内容が変更されているので、確認しておく必要があります。

錯誤について⇒改正民法「錯誤の内容」

5.改正民法による消費者契約と特定商品取引に関する法律への影響

(1)消費者契約法について
 消費者契約法は、民法改正の影響をうけて、内容が改正されます(消費者契約法は、民法改正に向けて2019年6月に一度改正され、その後に民法改正とともにもう一度消費者契約法が改正されます。本記事は、民法改正とともに改正される消費者契約法の内容です)。現在の消費者契約法(改正前)は、8条1項5号に「目的物に隠れた瑕疵があるとき・・・事業者の責任の全部を免除する条項」が無効となるとの規定がされています。しかし、改正消費者契約法では、この8条1項5号が削除され8条2項に新たに規定されました。その内容は、改正民法の瑕疵担保責任と同じ「契約の内容」という文言が使われ新たに新設されました。

(2)特定商取引に関する法律について
 特定商取引に関する法律については、11条5号と特定商取引に関する法律施行規則8条5号に規定され、そこでは、「商品に隠れた瑕疵がある場合の販売業者の責任についての定めがあるときはその内容を広告上に表示しなければならい。」として、改正民法に合わせた文言は使われていません。この点については、今後の動向に注意が必要です。

6.おわりに

 ノークレームノーリターン条項についての法的意味と改正の状況について見ていきました。改正民法においては、担保責任の考え方が変わるため注意が必要となります。また、消費者契約法についても改正があるので、その点、注意が必要となります。法務担当者としては、今後の動向について注意しておく必要があります。

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[著者情報] yoshimura

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2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

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編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年)、『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年)、『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など、著作・論文多数

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専門は、商法・会社法、金商法、企業法務。
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02年弁護士登録。
10年ワシントン大学ロースクール(知的財産法コース)卒業(LL.M.)、同年サンフランシスコのモルガン・ルイス&バッキアス法律事務所勤務。
16年慶應義塾大学法科大学院非常勤教員就任(知的財産法務WP)、19年ISO/PC 317(Consumer protection: privacy by design for consumer goods and services)国内審議委員就任。
主にIT、インターネット、広告、メディア、エンタテインメントビジネスに関する法分野の裁判、仲裁および法律相談を多く扱う。

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13年ワシントン大学ロースクール卒業(LL.M.)。
13~14年Dorsey & Whitney LLPおよびBracewell LLPで研修。
14~15年外務省経済局政策課専門員。
第二東京弁護士会情報公開・個人情報保護委員会委員、情報ネットワーク法学会会員。全銀協オープンAPI推進研究会元メンバー。無人航空従事者試験(ドローン検定)1級。

『AI・ロボットの法律実務Q&A』(勁草書房、19年2月)、『個人情報管理ハンドブック〔第4版〕』(商事法務、18年3月)、「Japan chapter of Getting The Deal Through」(Cybersecurity)(18年1月号)など編著書多数。


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96年弁理士登録。
国内及び海外における特許出願、ライセンスや特許売買等のトランザクションや侵害訴訟、包括的な知財戦略支援等に従事。電気情報や機械制御等の技術を主に扱う。
97年より創英国際特許法律事務所勤務、04年ワシントンDC地区のオリフ法律事務所に駐在。
翌年、創英の米国オフィスをシリコンバレーに開設。07年米マイクロソフト本社知的財産部に入社。
11年アジア地区特許ディレクター兼日本マイクロソフトの知的財産部長に就任。14年TMI総合法律事務所入所。出版、講演多数。

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略歴:
早稲田大学法学部・法科大学院卒業、
コロンビア大学ロースクール(LLM)卒業
2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
2012年6月~2014年2月 三井物産株式会社 法務部(出向)
2015年9月~2016年7月
クリフォードチャンス・ワシントンD.C.オフィス(出向)
2016年5月 ニューヨーク州弁護士登録
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