企業年金減額と労務のまとめ

近年、経営状態等の悪化により、企業年金の減額や廃止を余儀なくされる企業が増えています。どのような場合に企業年金の給付額引下げが有効とされるのかについてご説明します。

1 企業年金とは

 企業年金は、大きく分けて自社年金と厚生年金基金・確定給付企業年金に分かれます。

2 自社年金の場合

(1)自社年金とは
自社年金とは、企業年金に関する法律に基づいていない企業独自の年金制度のことです。

ときどき聞く「自社年金」って何?

(2)自社年金を減額するには
自社年金の給付額を引き下げる場合には、労働条件の変更に関するルールである労働契約法が適用されることになります。そして、給付額の引下げが「合理的なもの」であれば、自社年金の減額は可能となります。(労働契約法10条)。
労働基準法
労働契約法

3 厚生年金基金・確定給付企業年金の場合

(1)厚生年金基金・確定給付企業年金とは
厚生年金基金とは、単独又は複数の企業で設立した厚生年金基金が、国の厚生年金の一部を代行し、あわせて企業独自の給付を上乗せして支給する企業年金制度です。
確定給付企業年金とは、2002年4月に施行された確定給付企業年金法にもとづき設置される企業年金で、会社が拠出・運用・管理・給付までの責任を負う「確定給付」型の企業年金制度です。
確定給付企業年金
厚生年金基金
企業年金制度

(2)厚生年金基金・確定給付企業年金の給付額を減額するには
①現役の従業員を対象に将来の給付額を引き下げる場合
 将来の給付額を引き下げるためには、規約変更についての行政庁の認可又は承認を得なければなりません。そして、規約変更も認可・承認を得るためには、法令で定められた要件を満たす必要があります。(昭和41年9月27日年発363号別紙「厚生年金基金設立認可基準」第3-7、確定給付企業年金法施行規則5条、6条、12条、13条)。具体的には以下の要件(a)(b)が必要となります。
(a)経営状況の悪化により給付の減額がやむを得ないなどの一定の場合
(b)加入者の1/3以上で組織する労働組合があるときは当該労働組合の同意、および加入者の2/3以上の同意を得ていること
厚生年金基金設立認可基準
確定給付企業年金法施行規則

②受給者に対する給付を減額する場合
 受給者に対する給付を減額する場合も行政庁の規約変更の認可・承認が必要となります。そして、その認可・承認得るためには、厚生年金基金設立認可基準又は確定給付企業年金法施行規則に沿う必要があります。具体的には以下の要件が必要となります(昭和41年9月27日年発363号別紙「厚生年金基金設立認可基準」第3-7(5)確定給付企業年金法施行規則5条、6条、12条、13条、平成14年3月29日年発第0329008号)。
・①の要件(a)(b)(給付減額にかかる規約変更の認可の要件)
・基金の存続のため受給者等の給付水準の引下げが真にやむを得ないと認められる場合
・事業主、加入員及び受給者等の三者による協議の場を設けるなど受給者等の意向を十分に反映させる措置
・全受給者に対する事前の十分な説明と意向確認
・全受給者の2/3以上の同意
・希望者に対する最低積立基準額相当額の一時金の支払い

4 企業年金減額の事例(JAL)

JALは経営状態の悪化から企業年金を現役従業員で5割、OB(受給者)で3割の減額をしました。これは企業年金が減額された事例の中でもかなり大きな額と言えます。

JAL企業年金減額改定に対するとりくみについて(PDF)
JALの経営破綻で社員の年金は5割減。守られるはずの企業年金がなぜ?

5 企業年金減額を認めた裁判例(最高裁平成22年6月8日第三小法廷決定「NTT事件」)

(1)事案
NTTが、確定給付企業年金法に基づき実施している企業年金について、受給権の内容等に変更を生じさせる年金規約の変更をするために、厚生労働大臣の承認を求める申請をしました。しかし、厚生労働大臣は、規約変更は、受給権者等に対する給付の額を減額する場合に該当し、減額のために必要とされる要件も満たしていないとして、NTTに対し規約変更を承認しない旨の処分を行いました。

(2)NTTの言い分
NTTは、以下を根拠に不承認処分の取り消しを求めました。
①給付額減額の要件を定める法令の規定が無効である
②本件申請にかかる規約変更が「給付の額を減額する」場合に該当しない
③仮に②において「給付の額を減額する」場合に該当するとしても、本件の規約変更は法令に定める要件を満たす

(3)判決
【第一審判決及び原判決】 不承認処分は有効であると判断しました。
【最高裁】NTTの上告を却下しました。
企業年金の受給者減額の可否に関する判例の動向(16.Nov.10)

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約1年4ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
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[著者情報] chisaka

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東京都港区
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石川 智也
西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士

2005年東京大学法学部第一類卒業
2006年弁護士登録(第一東京弁護士会)
2015年バージニア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2016年Max Planck Institute for Innovation and Competitionにある
ミュンヘン知的財産法センター修了(LL.M.)、同年Noerr法律事務所ミュンヘンオフィス勤務
2017年米国ニューヨーク州弁護士登録

日本における知的財産法、営業秘密保護、個人情報保護法のほか、
EUにおける知的財産制度・競争法、EUデータ保護規則をはじめとする
グローバルベースでのデータ規制についても詳しい。

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東京都港区
講師情報
野呂悠登
TMI総合法律事務所 弁護士

東北大学法学部卒業、東京大学法科大学院修了

平成27年改正個人情報保護法の全面施行前後に、
個人情報保護委員会事務局において、
法令関係とデータの利活用関係を担当

近時の著書等には『個人情報管理ハンドブック[第4版]』(商事法務、2018)、
「AIによる個人情報の取扱いの留意点」(Business Law Journal、2018年6月号)、
「ビッグデータ・個人情報の利活用と先端ビジネス」(Business Law Journal、2018年8月号付録〔LAWYERS GUIDE〕)等がある。

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レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
最近、AI関連技術の発展等により、AIの活用に対する期待が高まっており、ビジネスにおいて実際にAIの活用を始める企業が増えてきています。

AIを活用する場合、従来人間の脳が行っていた知的な作業をコンピュータに行ってもらうことになるため、従来想定されなかった様々な法的問題点が生じることが想定されます。
特に、機械学習を用いたAIを用いる際には、従来とは異なる方法で大量の情報を集積し又は処理を行うため、個人情報保護法やプライバシー権との関係が問題となりやすいと考えられています。

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法務NAVIまとめ 労務法務 労働法
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パートナー 日本及びカリフォルニア州弁護士

東京大学法学部卒
1999年弁護士登録(第二東京弁護士会)
カリフォルニア大学デービス校ロースクール修士課程卒(LL.M.)
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