東芝テックが資本準備金を取り崩し、「剰余金の補填」について

はじめに

東芝テックは13日、資本準備金の全額を減少し、その他資本剰余金に振替え、さらに利益剰余金に振替ると発表しました。剰余金の配当を行うためには配当原資であるその他資本剰余金、その他利益剰余金が計上されていなくてはなりません。今回は資本準備金の取り崩しと剰余金の填補について見ていきます。

事案の概要

日経新聞電子版によりますと、東芝テックは昨年度3月期に海外POS事業により多額の損失が発生し1000億円以上の転結最終赤字に陥っていたとのことです。そして東芝テックの発表によりますと、約491億円の資本準備金の全額を取り崩し、それをその他資本剰余金に振替え、その他資本剰余金の全額に当たる約529億円と別途積立金の全額220億円を繰越利益剰余金に振替える旨13日の取締役会で決定したとのことです。東芝テックの繰越利益剰余金は約924億円の欠損状態にありましたが、これが実現することにより欠損額は175億円となります。今回の資本準備金の取り崩しは今後の柔軟かつ起動的な配当政策を実現することを目的としているとしています。

資本準備金とは

まず資本金とは会社財産を確保するための基準となる計算上の一定の額を言います。会社法445条1項によりますと、「株主となる者が、当該株式会社に対して払込み」を行った財産の額が資本金となります。そしてこの払い込まれた額の50%までを限度に資本金として計上せず資本準備金として計上することができます(同2項、3項)。逆に言うと資本金として計上しない分は資本準備金として計上しなくてはなりません。資本準備金は将来業績が悪化した場合にこれを取り崩すことで資本金等を維持することができます。

資本剰余金とは

資本剰余金とは株主からの出資といった資本取引から得られた余剰の金銭を言います。その意味で上記資本準備金もこれに含まれることになります。そして資本剰余金にはこの資本準備金のほかにその他資本剰余金というものがあります。これは資本取引によって生じた差益であり余り分という意味合いがあります。このように株主からの出資からなる資本取引によるものが資本剰余金ですが、会社の事業活動によって得られた利益の余剰金は別途「利益剰余金」と呼ばれ資本取引によるものと明確に区分されます。

配当可能額

剰余金を株主に配当するためには決算日において配当可能額が無くてはなりません。会社法446条によりますと、剰余金として配当できる額は決算日における資産の額と自己株式の帳簿価額の合計額から負債の額と資本金・準備金、その他法務省令で定める勘定科目に計上した額を控除したものとなります。要するに「その他資本剰余金」と「その他利益剰余金」だけということになります。そして実際に分配する時点での剰余金の額として、最終事業年度末日以降の自己株式処分損益、減資差益、準備金減少差益等を加え、自己株式消却額等を減じて算出します。つまりその他資本剰余金やその他利益剰余金が無い場合は準備金を取り崩してこれらに振替え、配当を可能にするといことができます。逆に剰余金を準備金に振替えるということも可能です(451条1項)。この場合には上で述べたように資本と利益は厳格に区分されることから、それぞれの区分内での振替えを行う必要があります。しかし例外として利益剰余金がマイナスである場合にはその他資本剰余金から振替えることができます。

準備金の減額手続

準備金を減少させるには株主総会の普通決議による議決が必要となります(448条1項)。資本金を減少させるには原則として特別決議による議決を要する点で異なります(309条参照)。準備金の額を減少することは分配可能額が増加し会社財産の減少を招く点で会社債権者にとって不利となります。そこで準備金の減少については債権者は原則として異議を述べることができます(449条1項)。そしてその場合には官報等により債権者に公告や催告を行うことになります(2項)。減少した準備金を剰余金ではなく資本金として計上する場合は債権者に不利とならないことから債権者異議手続は不要です。

コメント

東芝テックは繰越利益剰余金がマイナスとなっていたことからその他資本剰余金を取り崩して振替えることができます。東芝テックの発表では3月1日が債権者異議申述の最終日となっており、3月30日に臨時株主総会となっております。そして翌31日が資本準備金減少の効力発生日となっております。これにより繰越欠損金は大幅に減少することになりますが、それでも175億円の欠損金を抱えることとなり、剰余金配当が可能となるまでには及びません。このように資本準備金は会社財産における計算上の緩衝材の役割を担っており、会社の業績に応じて取り崩し、資本金や剰余金に填補することによって柔軟に財政基盤の調整を行うことができます。急な損失を抱え配当原資が確保できなくなった場合や、繰越損失を解消したい場合に備え資本準備金や任意積立金を準備しておくことが重要と言えるでしょう。

関連業務タグ:,
関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

このニュースに関連するセミナー

企業 法務ニュース 商事法務 戦略法務 会社法
【国際法務入門】M&A 合弁会社設立
2017年07月19日(水)
19:00 ~ 22:00
25,000円(税込) ※平成29年2月15日開催のLBS体験講座に参加された方は10,000円減算した金額とさせていただきます。 なお、単回申込みを複数回される場合は、上記減算は初回分のみ適用となりますのでご了承ください。
東京都新宿区
講師情報
登島 和弘
インヴェンティヴ・ヘルス・ジャパン合同会社 アジア太平洋地域法務責任者
1961年神戸市生まれ
中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
スタンレー電気㈱総務部庶務課法務担当を皮切りに、
日本AT&T㈱(米系)契約課長、松下冷機株式会社法務室主事、
セジデム株式会社(仏系)コーポレートサービス部統括部長・法務部長兼任等、
を歴任し、現職。
*企業名は当時のまま。
※日本企業・外資系企業両方での国際法務経験が有り、両者の観点から国際法務
について指導を行います。
国際法務入門者向けの契約法務習得セミナーになります。
当日は、下記の流れで、こちらで用意したビジネスシチュエーションを題材に、
国際法務経験豊富な講師との双方向でのコミュニケーションを行い、
ときに、少人数のグループでのディスカッションを織り交ぜながら、
参加者が思考しアウトプットするプログラムとなっております。

売買契約・共同開発契約の審査や作成に必要な「知識」を習得するのはもちろんのこと、
一方的に話を聞くセミナーとは異なり、各契約を検討する上での「思考法・仕事術」などの
実践的な能力を習得出来るのが特徴です。

【講師からケースの説明】→【グループディスカッション】→【各グループの発表】→【講師レビュー】

★「体験講座」(2月15日開催)の参加者の声★
・書籍等では実務に近い情報が無い為、講座で具体的なケースを想定し仕事の進め方を理解出来てる内容がとてもよかったです。
・少人数で法務業務を担当している為、自分自身の経験、知識、感覚で仕事をしてしまう事が多く、
法務業務をする上で大事な思考のフレームワークを学べて良かったです。
・講義内容はもちろんですが、他社の法務担当の意見を聞く事が出来て、とても参考になりました。

★今回のテーマ★
「M&A 合弁会社設立」
日本の製薬企業が豊富なノウハウと経験を有する自社のIT部門を独立させ、自社を含む他の製薬企業向けに幅広くITサービスを提供できる企業を設立しようとするとき、同社にメインフレームを提供している米国のコンピュータ会社の協力を仰ごうとするケースを題材に、企業間における事業協力の形態を検討します。
※ こちらで事前課題を用意し、受講前にケース理解を深めていただきます。
※ 本講座は「リーガルビジネススクール 国際法務担当者育成コース(全六回)」の第五回講座を兼ねております。そのため、そちらの申込者と一緒に本講座を受講いただく形となります。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
企業 法務ニュース 商事法務 戦略法務 会社法
第85回MSサロン(東京会場)
2017年07月26日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
講師情報
大東泰雄
のぞみ総合法律事務所 弁護士

平成13年慶應義塾大学法学部卒業,平成24年一橋大学大学院国際企業戦略研究科修士課程修了。
平成14年弁護士登録。
平成21年4月から平成24年3月まで,公取委審査局審査専門官(主査)として,独占禁止法違反被疑事件の審査・審判実務に従事。

公取委勤務経験を活かし,独禁法違反事件対応(リニエンシー申請,社内調査,公取委対応,審判等),企業結合審査対応,独禁法関係民事訴訟,下請法,景品表示法等に関する業務を主軸とし,その他企業法務全般を扱っている。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「下請法運用強化と対応のポイント」です。
申込・詳細はコチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

競合他社への転職制限に関する法制化の声高まる... 事案の概要 競業避止契約に関して見直しの機運が高まっている。競業避止義務契約とは、退職後の競合他社への転職や競業を一定期間禁止する契約で、職業選択の自由(憲法22条1項)を制限するおそれがあるが、法整備が不十分で、労使間で機械的に結ばれているのが実情だ。 競業避止契約の妥当性は、①転職禁止の期間...
選挙に行けない...成年被後見人の投票を拒む法律の壁... 後を絶たない、公職選挙法違憲訴訟  成年後見制度を利用すると選挙権が喪失する公職選挙法の規定は憲法違反であるとして、知的障害をもつ男性が国を相手取り、選挙権の確認と慰謝料を求める訴訟を京都地裁に提起した。成年後見制度利用者が提起する選挙権確認訴訟は、今年の2月に東京地裁、4月にさいたま地裁に提...
脱時間給制度を設ける労働基準法改正案の先送り... 1、労働基準法改正案について  政府与党は、成果に応じて賃金を支払う脱時間給制度を設ける労働基準法改正案について今回の通常国会での成立を見送り秋以降に先送りする検討に入ったと1月12日付日本経済新聞電子版が報じています。  これは、野党の反発が強いことと会期延長が難しいと政府が判断したためと考え...