承継円滑化法の施行~中小企業の事業承継について

はじめに

 平成28年は金融商品取引法などをはじめ、ビジネスにも関連する様々な法律が改正されています。
 その中でも今回は、事業承継円滑法についてみていきたいと思います。

事業承継円滑化法とは

 中小企業の場合、経営者が1人で、かつ会社の資産や株式を経営者が保有していることが多く、その経営者が死亡などによりいなくなってしまった場合、後継者に事業を承継する必要が出てきます。しかし、事業承継を行うに際して、法律面や資金面などにおいて障害が発生し、事業の継続に影響が生じる、あるいは事業の継続を断念しなければならないという場合も生じえます。
 このような事態に備えて、中小企業の事業承継の障害をできるだけ排除し、事業承継の円滑化と中小企業の事業活動の継続を図ることを目的としたのが、事業承継円滑化法です。

法整備の背景

事業承継円滑化法が定められた背景には、2つの事情があります。

 1.事業承継の形態の多様化
 まず、事業承継の形が変わってきたことがあります。20年ほど前は、事業承継といえば親族内承継、すなわち経営者が自身の息子や娘、あるいは他の親族に事業を承継させる、というケースが9割でした。しかし、現在では親族外承継、すなわち経営者の親族でない者への承継が4割ほどを占めるまでになっています。そうなると、経営者の有している資産や会社株式の相続などについての問題がより複雑になりかねず、事業承継を妨げる要因となりえます。

 2.事業承継の円滑化の必要性
 もう一つは、事業承継の円滑化を図り、中小規模の事業者の持続的発展を図る必要性があることです。日本にある企業はその9割以上が中小企業ですので、中小企業の事業が持続的に発展することは日本経済にとってもプラスです。加えて、中小企業の事業承継の円滑化を図る必要性があることは、中小企業基本法にも明記されています(中小企業基本法24条4項)。しかし、事業承継に際しては、相続の他、税負担や資産の取得などに必要な金銭が不足する、など金銭面での問題が生じえます。これも、事業承継を妨げる要因となりえます。

 以上のような2つの背景が、事業者が事業承継円滑のため法改正が必要であると考えられ、今回の改正に繋がったものと考えられます。

法の概要

今回の法改正の主な内容は、1.遺留分特例の対象の拡充と2.独立行政法人中小企業基盤整備機構による事業承継サポート機能の強化です。

 1.遺留分特例の対象の拡張
 この改正は、相続面の障害を取り除く措置です。会社経営、事業を承継するには、後継者へ株式等の資産を集中する必要があります。しかし、相続がある場合には、経営者の相続人に遺留分(民法上、相続人の利益の保護のため、相続財産の一定割合が相続人に留保されるもの)があり、相続人が遺留分を主張することで資産を後継者に集中できない可能性があります。また、遺留分は放棄できますが、それには複雑な手続が必要です。
 そのため、後継者が遺留分を有する相続人と合意の上、経産大臣の確認を得れば、遺留分放棄の手続を簡略化することができます。これにより、中小企業の事業承継に際して、遺留分に関する処理が簡単になります。この様な措置は前からありましたが、親族内承継に限られていましたが、今回の改正により親族外承継でも使えるようになりました。

 2.中小企業基盤整備機構による事業承継サポート機能の強化 
 こちらの改正は、主に計画面や資金面でのサポートとなります。中小企業の事業承継により経営者が変わることで、規模の縮小や取引先との信頼関係に影響する可能性があります。また、必要な資金が確保できず、それにより事業承継が円滑に行われない場合もあります。
 そこで、今回の改正で新たに中小企業基盤整備機構という組織が設置され、経営者や後継者が、規模の縮小や取引先との信頼関係維持、資金調達についていかなる計画で行うのが良いか、などについて機構からアドバイスを受けることができるようになりました。
 また、これと併せて、資金の調達をより行いやすくするなどの目的で、中小機構法及び小規模企業共済法の改正も行われました。
法改正の概要(出典:中小企業庁)

コメント

 高齢化の進む日本において、中小企業の経営者の高齢化により事業承継が必要になる企業は今後も一定数存在するものと考えられます。
 このような中で、上記のような法改正を知り、支援を上手く活用することが、中小企業の休廃業を減らすことに繋がります。このようにして、中小企業の活動の継続を支援していくことが、その企業が存在する地域、ひいては日本経済に対してプラスの影響を与えるといえます。
 事業承継を考えている中小企業だけでなく、そのような企業を取引先に持つ会社や銀行などにとっても、大きな意義のある改正といえるのではないでしょうか。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約1年2ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] kamada

詳細情報はありません。

このニュースに関連するセミナー

法務ニュース 商事法務 法改正
第88回MSサロン(東京会場)
2017年09月26日(火)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
講師情報
田中 誠
キリンホールディングス株式会社グループ法務担当主幹
兼キリン株式会社法務部主幹

1985年3月 中央大学法学部法律学科 卒業
1985年4月 麒麟麦酒株式会社(現キリンホールディングス㈱)入社
1990年10月~2004年3月 同社総務部法務課2004年4月~2012年4月 同社不動産事業部門配属後、同社不動産関連子会社に出向
2012年4月 キリンホールディングス株式会社グループ法務担当 兼 キリン株式会社法務部に異動、現在に至る
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「上場会社株主総会の最近の実務」です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 商事法務 法改正
第87回MSサロン(名古屋会場)
2017年09月13日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田圭介
愛知県春日井市出身
京都大学法学部・Duke大学LLM卒業。
2005年弁護士登録。
2013年ニューヨーク州弁護士登録。
世界最大規模の国際法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所を経て、
2015年、IBS法律事務所を開設。
国内外の企業法務案件を主に扱っており、国際取引・英文契約を得意としている。
大手総合商社・外資系企業の法務部への出向経験があるため、企業法務の現場の問題意識にも通じている。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「製造業のための民法(債権法)改正実務対応」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務ニュース 商事法務 法改正
第86回MSサロン(大阪会場)
2017年09月06日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
大阪府大阪市北区
講師情報
溝上絢子
2004(平成16)年10月
大阪弁護士会に弁護士登録、なにわ共同事務所入所

2008(平成20)年4月~2011(平成23)年9月
大阪大学高等司法研究科(ロー スクール) 非常勤講師
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「取引基本契約を締結する際の下請法をめぐる留意点」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法改正
《緊急セミナー》改正債権法に基づく契約書作成実務
2017年10月13日(金)
14:30 ~ 17:30
15,000円(資料代・消費税を含む)
東京都品川区北品川
講師情報
滝川 宜信
(行政書士滝川ビジネス契約コンサルティング代表〔特定行政書士〕・明治学院大学非常勤講師)
◆中央大学大学院法学研究科博士後期課程中退
◆㈱デンソー法務部課長~部長および名古屋大学大学院法学研究科客員教授、明治学院大学法科大学院教授(会社法・商法担当)、株式会社トーカン顧問を歴任。
・この間、中部経済連合会法規委員会専門委員長、経団連経済法規委員会企画部会委員・消費者部会委員、名古屋工業大学・名城大学法学部・中京大学法学部・南山大学法学部・法科大学院の非常勤講師を歴任。
◆日本私法学会会員、金融法学会会員
◆主な著書
『取引基本契約書の作成と審査の実務(第5版)』(単著・㈱民事法研究会)、『実践企業法務入門(第5版)』(単著・㈱民事法研究会)、『業務委託(アウトソーシング)契約書の作成と審査の実務』(単著・㈱民事法研究会)、『M&A・アライアンス契約書の作成と審査の実務』(単著・㈱民事法研究会)
『内部統制対応版企業コンプライアンス態勢のすべて〔新訂版〕』(共著・きんざい)、『リーディング会社法〔第2版〕』(単著・㈱民事法研究会)、『企業法務戦略』(共著・㈱中央経済社)、『社外取締役のすべて』(共著・東洋経済新聞社)など
改正民法施行は、2020年1月または4月と見込まれていますが、今から契約書の準備をすることが必要です。
本セミナーでは、『取引基本契約書の作成と審査の実務』など契約書の審査と実務シリーズ(民事法研究会・刊)の著者が、企業法務の担当者を対象に、直接、わかり易く丁寧に解説します。
滝川宜信・著『業務委託(アウトソーシング)契約書の作成と審査の実務』(民事法研究会・刊)に掲載の請負契約書ひな型・委任契約書ひな型に基づき具体的に条文の変更例を示し解説します。
※変更例および主旨は、他の契約にも応用が可能です。
※本セミナーは、本年7月19日に、名古屋・愛知県弁護士会ホールで行った内容と基本的に同じです。
申込・詳細はコチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

被災地で活用を!調停制度 震災をうけて  今回の震災では、1万5000人以上が亡くなり、24万戸を超える建物が壊れた。今後、相続や住宅の貸し借りなどを巡るトラブルが増えることが予想される。最高裁は、手続きが簡単で裁判より手数料が安い「調停」の積極的な利用を呼びかけている。そこで、今回は調停制度とはどのようなものか確認し...
アマゾン、被災地で新たな雇用創出へ... 概要 インターネット通販の大手、アマゾンジャパンは、仙台市内に年内にも顧客からの電話やメールによる問い合わせに対応するコールセンターを1000人規模で開設する。このような雇用創出により、被災地の復興を支援することが狙いだ。 同様事例 たこ焼きの「築地銀だこ」で有名なホットランドは今月7日、年内中...
アニメ風加工アプリによる著作権侵害(君の名は。)... 1 事案の概要  現在大ヒット中のアニメーション映画『君の名は。』風に写真を加工できると話題になっていたアプリ「Everfilter」が、著作権侵害を理由に一時的に配信を停止しました。  このアプリは、自分で撮った写真をアニメ風に加工できるというものです。しかし、この加工が「君の名は。」などを...