ストーカーで免職は無効、懲戒処分の要件について
2020/07/06 労務法務, 労働法全般, その他
はじめに
同僚の女性にストーカー行為をしたとして諭旨免職処分となっていた男性が、処分の無効と雇用関係にあることの確認を求めていた訴訟で東京地裁は2日、処分は無効であるとの判決を出していたことがわかりました。解雇処分は重すぎるとのことです。今回は懲戒処分の要件について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、PwCあらた有限責任監査法人(東京)に務める男性は2017年9月~11月にかけて、同じ職場で働く同僚女性に対し、帰宅する際に後をつける、同じ電車に乗るといったストーカー行為を行っていたとされます。それを受け同法人では内部調査を行った上で男性を諭旨免職処分としておりました。男性側は処分は重すぎるとして処分の無効と、雇用関係にあることの確認を求め東京地裁に提訴していたとのことです。
懲戒権と就業規則
労働者は会社との労働契約により企業秩序を維持する義務を負っていると言われております。企業秩序維持義務違反に対しては、会社は労働者に対して懲戒することができるとされておりますが、その前提として就業規則に定めておく必要があるとされます(最小判昭和54年10月30日)。これはどのような場合にどのような処分が下されるのかを予め労働者に示し、また就業規則に定める前の行為には適用できないとする、刑法にいう罪刑法定主義の考えを応用したものと言えます。労基法89条9号でも懲戒処分を定める場合はその種類や程度について就業規則に記載すべき旨が定められております。
懲戒処分の種類
懲戒処分の種類は、①戒告、②譴責、③減給、④出勤停止、⑤降格、⑥諭旨解雇、⑦懲戒解雇が挙げられます。譴責(けんせき)とは始末書を提出させることを言います。諭旨解雇とは、懲戒解雇事由はあるものの、一定の酌量の余地があることから対象者を諭し解雇を納得してもらう処分を言います。懲戒解雇の場合は退職金や解雇予告、予告手当も不要となりますが、諭旨解雇の場合は通常の解雇と同様に一般的にはこれらの手続等が必要と言われております。
懲戒処分の有効要件
一般的に懲戒処分が有効であるためには、「客観的に合理的であり、社会通念上相当」なものである必要があると言われております。懲戒処分は労働者にとって重大なペナルティであることから、違反の種類や程度、動機や経緯など様々な要素を考慮して、違反と処分が相応なものである必要があります。軽微な違反に対して解雇してしまうといったことは許されないということです。特に懲戒解雇は処分の中で最も重いものであることから、裁判所も処分が相当であったかについてかなり厳格に審査する傾向にあります。それ以外にも同じ違反、同じ程度の場合には同程度の処分をしなければならず、人によって不平等に扱ってはいけないという原則や就業規則等に定められた手続を適正に履践しなくてはならないという原則にも注意が必要です。
コメント
本件で原告の男性は約3ヶ月間に渡って同僚女性に対しストーカー行為を行っていたとされております。東京地裁は原告男性が内部調査で被害者への配慮を欠く発言をしており、真に反省していたかは疑わしいとしながらも、警察による警告後にも続けていたという事情や他の懲戒処分歴も無いことから諭旨解雇処分は相当ではないとしました。このように懲戒処分は様々な要素を総合的に考慮して判断されます。特に解雇処分については慎重に判断される傾向にあり、相当性を欠く場合には解雇権の濫用として無効とされます。本件では強い倫理性と公正性が求められる監査法人であったことから法人側も強い処分に臨んだものと考えられます。懲戒処分の際には相当性、平等性、適正手続などを考慮し慎重に進めていくことが重要と言えるでしょう。
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