行政書士事務所が返還拒否、外国人労働者の旅券保管について

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はじめに

共同通信は4日、横浜市の行政書士事務所「アドバンスコンサル行政書士事務所」が雇用したフィリピン人女性の旅券を預かり、返還を拒んでいる旨報じました。

女性は帰国も転職活動もできないと訴えているとのことです。
今回は外国人労働者の旅券の保管行為についてみていきます。

事案の概要

報道などによりますと、女性は2017年4月に来日し、日本語学校で学んだ後就労ビザ取得の手続きで訪れた同事務所で今年5月から通訳として雇用されたとされます。

その際旅券は事務所が預かり、管理方法や保管期限は事務所が決定し、旅券が必要な場合はその都度申請し許可を受ける旨の契約を結ばされたとのことです。
女性は退職を希望し出勤もしていないにも関わらず事務所側は退職を認めず、旅券の返還も拒否しております。

外国人労働者と旅券の保管

外国人労働者を雇用しても、ある日突然何の前触れもなく出勤しなくなったり行方不明になってしまうといった例は少なくないと言われております。

そこでそのような事態を防ぐために旅券(パスポート)を会社側が預かり、保管しておくという措置を講じたり、前借金で拘束するといったことが行われている場合があります。
たしかに突然行方不明となってしまうことを防止する手段としては有効かもしれませんが適法な行為と言えるのでしょうか。

旅券保管に関する法規制

外国人の技能実習の適性な実施及び技能実習生の保護に関する法律46条によりますと、「実習監理を行う者…は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は自由を不当に拘束する手段によって、技能実習生の意思に反して技能実習を強制してはならない」としています。

また48条では技能実習生の旅券または在留カードの保管を禁止しております。
これは技能実習生に関する規制であり、外国人労働者について直接規制する法律は現段階では存在しません。

しかし労働基準法5条では強制労働が禁止されており、このような手段による労働の強制は強制労働に該当する可能性はあります。
また労働契約法3条4項が禁止する労働契約に基づく権利の濫用に該当する可能性もあると言えます。

旅券保管に関する裁判例

同様の事例で、外国人労働者の日本への渡航費用を立て替えていた事業者が旅券を保管し、外国人労働者からの返還要求に対し、渡航費用の返済が終了していないことを理由に拒否したという例があります。

この件で裁判所は保管している旅券の返還を渡航費用の未返済を理由に拒否することは公序良俗(民法90条)に反するとして損害賠償を命じました(神戸地裁姫路支部平成9年12月3日)。

コメント

本件で行政書士事務所はフィリピン人女性の旅券を保管し、必要な時でもその都度申請し事務所側の許可を要するとする契約を締結させていたとされます。

これが事実であった場合、上記のように労働基準法5条や労働契約法3条4項に抵触する可能性があると言えます。
またこのような契約自体、公序良俗に違反し無効であり不法行為と判断される可能性が高いものと思われます。

以上のように雇用している外国人労働者の旅券の保管は現時点では直接に禁止する法令はありません。
しかし訴訟となった場合には違法性が認められる可能性は高いものと考えられます。
また今後外国人労働者の増加が見込まれることから、こういった外国人労働者の待遇に関し法規制が強化されていくことも予想されます。
外国人労働者を雇用している場合、または今後雇用を検討している場合にはこのような点についても留意していくことが重要と言えるでしょう。

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[著者情報] mhayashi

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2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。
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