電子委任状と契約実務

1 はじめに 

 総務省は、6月27日、企業の担当者らがインターネット上で契約や行政手続を進める権限を証明する電子委任状の初の取扱事業者として、セコム系のセコムトラストシステムズ、NTT西日本系のNTTネオメイトの2社を認定しました( 電子委任状の普及の促進に関する法律(平成29年法律第64号)第5条第1項)。
 このような電子委任状の普及により、契約業務の円滑化や各種官公庁への申請が円滑になることが見込まれます。
 本稿では、電子委任状制度の概要を確認し、同制度が今後の契約実務にいかなる影響を与えうるかについて、見ていきたいと思います。

2 電子委任状とは 

 電子委任状とは、 法人の代表者等が使用人等に代理権を与えた旨を表示する電磁的記録をいいます( 電子委任状の普及の促進に関する法律(平成29年法律第64号)2条1項)。
 これは、企業経営者の権限を現場の担当者に与えたり、雇用関係などを証明したりするデジタルデータであり、ネットを通じた対面をすることなく契約を結ぶ電子手続の普及に不可欠といえます。
 これまで法人が電子契約を結ぼうとした場合、代表者が自ら電子署名をする前提がありましたが、実態として、代表者がすべての契約書に電子署名するのは現実的ではありません。
 そこで、部長・課長といった役職者に代理権を与えたことを称する電子委任状を証する電子委任状を「電子委任状取扱事業者」 (電子委任状の普及の促進に関する法律(平成29年法律第64号)2条3項) に預けさせ、取引先が代理権を確認できるようにし、代表者以外の名義であっても安心して電子契約が締結できる環境が整いつつあるといえます。

3 関連する制度 

 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の行為をする権限があります(会社法14条第1項)。部長や課長がこれにあたります。
 では、実際には部長でも課長でもない者が「○○部長」「○○課長」の肩書きを使って契約を締結したらどうなるでしょうか。
 民法第109条1項は「第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者がその他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない」と規定しています。これを表見代理といいます。ここで注目すべきは、第三者に善意のほか無過失も要求しているという点です。
 表見代理により、代表権・代理権がない場合でも、善意無過失の第三者との関係では権限があるとみなされることとなります。

4 今後の展望について 

 電子委任状制度の普及が進みますと、委任状の存在が公示されることとなり、取引先企業からすると委任状の確認が容易に行えることとなるといえます。
 このことは同時に、取引先企業にとって、契約実務において善意無過失の第三者として保護されるハードルとして委任状の確認が義務づけられることも考えられます。
 すなわち、従来では、会社法14条1項の解釈について、「商法四三条(注:現行法では会社法第14条)一項は、…営業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、その事項に関し一切の裁判外の行為をなす権限を有すると規定しているところ、…その趣旨は、反復的・集団的取引であることを特質とする商取引において、…取引の都度その代理権限の有無及び範囲を調査確認しなければならないとすると、取引の円滑確実と安全が害されるおそれがあることから、…これと取引する第三者が、代理権の有無及び当該行為が代理権の範囲内に属するかどうかを一々調査することなく、安んじて取引を行うことができるようにするにある…」(最判平成2年2月22日商事法務1209号49頁。強調は作成者による)
とされています。
 しかし、電子委任状の普及により、取引先企業が容易に委任状の確認を行うことができるとすれば、商取引の特質として、反復的集団的取引において迅速性が求められるから当然に委任状の確認を経る必要はない、ということにはならないかもしれません。 

関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] ytakahashi

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

法務ニュース 契約法務 民法・商法
《東京会場》ベンチャー企業・中小企業とのM&A・資本提携 ~ミニマムデューディリジェンスの勧め~
2019年05月30日(木)
09:30 ~ 11:30
16,000円(税別)
東京都港区
講師情報
淵邊 善彦
ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士

1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。

主催・協力
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
近年ベンチャー企業を対象にしたM&Aや、中小企業の事業承継の一手段としてのM&Aが増えています。
いずれも大企業同士のM&Aと違って、人的、予算的、時間的な制約が強かったり、大企業とは違った法的問題が見つかることがよくあります。

本セミナーでは、これらのM&Aを進めるうえでの具体的な注意点や紛争事例をご紹介します。
また、本格的なデューディリジェンスを行う予算がない場合に、必要最低限押さえておくべきポイントとその調査手法をご提案します。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 契約法務 民法・商法
《東京会場:土曜日開催》今さら聞けない英文契約書(講師著書付き)
2019年06月15日(土)
09:30 ~ 15:15
(午前)か(午後)のいずれか1つに参加の方:各回13,000円+税(書籍代を含む)※書籍ご持参の方:各回11,000円+税 (午前)と(午後)の両方に参加される方:22,000円+税(書籍代を含む)※書籍ご持参の方:20,000円+税
東京都中央区京橋
講師情報
吉川 達夫
ニューヨーク州弁護士/外資系企業 VP, General Counsel

外資系法務本部長、駒澤大学法科大学院、国士舘大学21世紀アジア学部非常勤講師
元Apple Japan法務本部長、元伊藤忠商事法務部、元Temple Law School日本校客員教授。上智大学法学部、Georgetown Univ. Law Center卒

編著:『ライセンス契約のすべて 実務応用編』(編著、第一法規、2018年)、『ライセンス契約のすべて 基礎編』(編著、第一法規、2018年)、『ダウンロードできる 英文契約書の作成実務』(編著、中央経済社、2018年)など、著作・論文多数

主催・協力
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
ニューヨーク州弁護士、外資系会社VP, General Counselの吉川達夫氏を講師にお招きし、過去数年間にわたり毎年多くの方からご参加を頂いております「今さら聞けない英文契約書セミナー」を、初心者向けの午前の部(基礎編)と、中級者向け午後の部(英文契約書交渉とドラフティング編)として開催いたします。

(基礎編)は、英文契約書を読んでみたい方、国際法務にこれから携わる方や弁護士の方、携わっているが改めて基礎を確認されたい方など、この機会に是非ご参加ください(英文契約書の読み方を中心に解説)。

(交渉編)は、国際法務の実務を担当されている方、多少の基礎知識はあるが自己流で勉強された方や弁護士の方、発展的な学習をされたい方は奮ってご参加ください。

※当日は国際ビジネス法務(第2版)(第一法規株式会社/2018年3月発売 /2,800円+税)を教科書として使用します。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 契約法務 民法・商法
《東京会場》施行間近の「限定提供データ」(平成30年改正不正競争防止法)の実務対応と営業秘密・限定提供データの漏えい防止の実務対応
2019年05月30日(木)
13:30 ~ 16:30
18,000円(税別)
東京都港区
講師情報
石川 智也、濱野 敏彦
■石川 智也(西村あさひ法律事務所 パートナー弁護士)
2005年東京大学法学部第一類卒業
2006年弁護士登録(第一東京弁護士会)
2015年バージニア大学ロースクール卒業(LL.M.)
2016年Max Planck Institute for Innovation and Competitionにあるミュンヘン知的財産法センター修了(LL.M.)
同年Noerr法律事務所ミュンヘンオフィス勤務
2017年米国ニューヨーク州弁護士登録

日本における知的財産法、営業秘密保護、個人情報保護法のほか、EUにおける知的財産制度・競争法、EUデータ保護規則をはじめとするグローバルベースでのデータ規制について詳しい。

■濱野 敏彦(西村あさひ法律事務所 弁護士)
2002年東京大学工学部卒業 同年弁理士試験合格
2004年東京大学大学院新領域創成科学研究科修了
2007年早稲田大学法科大学院法務研究科修了
2008年弁護士登録(第二東京弁護士会)
2009年弁理士登録
2011-2013年新日鐵住金株式会社知的財産部知的財産法務室出向

知的財産法、営業秘密保護、ITのほか、大学・大学院の3年間、AIの基礎技術であるニューラルネットワークの研究室に所属していたため、AIについても詳しい。

主催・協力
レクシスネクシス・ジャパン株式会社/ビジネスロー・ジャーナル
平成30年改正不正競争防止法により限定提供データが創設され、2019年7月1日から施行されます。
本セミナーでは、営業秘密・限定提供データの漏えい防止策について説明した上で、いくつかのよく問題となるシナリオ別の留意点・対応について解説いたします。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 契約法務 民法・商法
《名古屋会場》第113回MSサロン 企業法務研究会「契約書レビューの手法」
2019年05月23日(木)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
セミナー部分では法務担当者のための意見交換会を行いたく考えています。
今回のテーマは「契約書レビューの手法」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務ニュース 契約法務 民法・商法
《名古屋会場》国際取引・海外展開の即戦力になるセミナー第1回 国際企業法務の基礎(全7回)
2019年05月30日(木)
14:00 ~ 17:00
12,000円(税込)※7回連続受講でのお申込みの場合は計72,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
大久保 裕史
弁護士・NY州弁護士

グローバルに展開する大規模法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所において、国際的な企業法務を取り扱い、国内外の企業に法的助言を行う。その間に、国内大手商社法務部への出向やワシントンD.C.での勤務も経験。現在は、オリンピア法律事務所のパートナーとして、主に中部圏の企業の国際取引・海外進出をサポートしている。

略歴:
早稲田大学法学部・法科大学院卒業、
コロンビア大学ロースクール(LLM)卒業
2009年12月 弁護士登録
2010年1月~2018年4月
クリフォードチャンス法律事務所 外国法共同事業
2012年6月~2014年2月 三井物産株式会社 法務部(出向)
2015年9月~2016年7月
クリフォードチャンス・ワシントンD.C.オフィス(出向)
2016年5月 ニューヨーク州弁護士登録
2018年5月~ オリンピア法律事務所 パートナー
英文契約をこれから担当・現在担当している法務担当者の方などを対象としたセミナーです。第1回目のセミナー内容は国際企業法務の基礎(国際的な契約一般及び国際的な事業展開の形態に応じた注意点)です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 契約法務 民法・商法
《東京会場》第114回MSサロン
2019年06月14日(金)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
講師情報
熊木 明
弁護士・カリフォルニア州弁護士
スキャデン・アープス法律事務所 パートナー弁護士
2000年 東京大学経済学部卒業
2007年 コロンビア大学ロースクール修了

M&A、会社法、金融商品取引法を専門とし、
国内外の多くの顧客を代理しており、特に英文契約の実務に精通。
また、M&A及び英文契約に関する数多くのセミナーを行っている。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、「法務担当者の為のM&A最新トレンド~最近のM&A実務の現場でのホットトピックを実例を踏まえながら解説します~」です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 契約法務 民法・商法
《東京開催》少人数法務の為の企業法務研究会
2019年05月24日(金)
19:30 ~ 21:00
無料
東京都渋谷区
講師情報
舩山 達
株式会社フルスピード(東証二部上場)
法務・総務部 部長
慶応義塾大学法学部法律学科卒
大阪市立大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了
従業員5人のベンチャー企業に就職。2回の転職を経て現職。
少人数やノウハウの蓄積のないために業務の進め方に不安を持っている法務担当者のための意見交換会です。
今回のテーマは「法務部門の創り方」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

街の書店を守れ!仏議会で「反アマゾン法」可決... 事案の概要  書店に行かずともネット上でクリックするだけで、欲しい本が送料無料で家に届く。インターネット書店の利便性はもはや語るまでもない。しかし、送料が有料となったらどうなるか。人々の足は再び書店に戻るのか。  フランスでいわゆる「反アマゾン法」と呼ばれる法律案が元老院(上院)で可決した。すでに...
仮差押による取引中止で最高裁が損害賠償否定... はじめに  売掛金債権に仮差押えされたことにより百貨店との取引が中止されたとして債権者に損害賠償を求めていた訴訟で7日、最高裁は請求を棄却しました。仮差押えと損害との因果関係を否定したものとされます。今回は民事保全法の仮差押えについて見ていきます。 事案の概要  日経新聞電子版によりますと...
政府 研究開発減税の縮小を検討、研究開発投資の促しへ... 事案の概要 政府は、15年度から実施する法人実効税率引き下げにあたって、企業の研究開発を支援する政策減税の見直しを検討している。見直し案として、研究開発費を増やした場合に減税する増加型について15年度から研究開発費を増やした割合が5%以下でも減税できるようにしたり、法人税から差し引く割合を最大60...