リロケーション業者が和解、裁判例に見る瑕疵物件

はじめに

転勤中に貸していた自宅マンションで殺人事件が発生し、資産価値が下がったとして転貸を行っていた不動産会社に約1500万円の損害賠償を求めていた訴訟で和解が成立していたことがわかりました。不動産会社が所有者の男性に570万円支払うとのことです。今回は瑕疵物件とその告知義務について見ていきます。

事案の概要

報道などによりますと、原告の男性は2009年に大阪府内のタワーマンションの一室を購入し住んでいました。2011年1月に海外転勤となり、その間留守宅を転貸する、いわゆる「リロケーション」を行うために東京の不動産会社と契約しました。しかし同社から転借し住んでいた男が2014年7月に同室で交際相手を殺害し、殺人罪で懲役9年の実刑判決を受けたとされます。原告男性は同社に対し、この事件で資産価値が下がったとして約1500万円の損害賠償を求め大阪地裁に提訴しておりました。

瑕疵物件とは

民法570条によりますと「売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは」契約の解除または損害賠償を求めることができます。いわゆる瑕疵担保責任です。ここに言う「瑕疵」とは取引観念から見て、売買の目的物が通常有すべき性質を欠いている状態を言います。土地建物の場合であれば物理的に有していなければならない設備が備わっていないといった物理的瑕疵から、人が精神的に忌避するような歴史的事実が存在する、いわゆる心理的瑕疵も含まれます。心理的瑕疵となる典型例はその物件で住人が自殺した、孤独死があった、殺人があったといった場合です。なおこの規定は売買だけでなく有償契約に準用されますので、賃貸借などにも適用があります(559条)。

瑕疵物件と告知義務

上記民法570条の瑕疵担保責任は任意規定であることから当事者間の特約によって排除することができます。しかし売り主、貸主が瑕疵の存在を「知りながら告げなかった」場合には責任を免れることはできません(572条)。瑕疵があると知っていながら担保責任排除特約で逃れることは不公正で身勝手だということです。ではそもそも買い主、借り主に対して告知する義務はあるのでしょうか。この点について規定する法律は存在しません。しかし信義則上の告知義務があると考えられております。裁判例では1年数ヶ月前に自殺があった事実について信義則上告知する義務があったとしています(大阪高裁平成26年9月18日)。一方で自殺から2年程度経過していた事案では告知義務を否定しております(東京地裁平成13年11月29日)。自殺か他殺か、自然死か、また事件以降他の居住者が居たか、事件の凄惨さ、購入者の居住形態など様々な事情が考慮されますが、おおむね2年程度経過すれば告知義務が無くなると考えられております。

瑕疵と価値の下落

物件にこのような瑕疵があった場合どの程度価値が下落するのでしょうか。土地の売買で、その敷地内で自殺があった事案で約4000万円の土地につきその20%である約800万円の下落が認められた例があります(東京地裁平成25年3月29日)。事件の状況や経過年数などにもよりますが、一般的にはおおむね自殺で2~3割程度、他殺で5割程度の価値の下落があると言われます。

コメント

本件で発生した事件は、詳細は不明ではありますが殺人です。行為の態様や状況などにも左右されますが5割程度の価値の下落があるものと考えられます。本件はそういった瑕疵物件の取引というわけではなく、留守宅のリロケーション中に自己所有物件で起きた事件であることから不動産会社にすべての責任があるとは考えにくい特殊な事例と言えます。以上のように不動産に関する心理的瑕疵は、契約条項、告知義務、資産価値の評価など様々な点に関わってきます。不動産の売買や賃貸を行う際には過去にこのような瑕疵が発生していなかったか、発生していた場合にはどのような内容か、どの程度期間が経過したか、その間にどの程度人の手に渡ったかなどを詳細に調査する必要があります。また従業員の居住する社宅や、自社が賃借している物件でこのような瑕疵が発生しないよう対策を講じることも重要と言えるでしょう。

関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

法務ニュース コンプライアンス 民法・商法
【名古屋】AIに関する法律問題《ITビジネス法務勉強会:第3回》
2018年08月09日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介 杉谷 聡
■和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

■杉谷 聡
略歴:
愛知県一宮市出身
愛知県立一宮高等学校卒業
2016年 一橋大学法学部卒業
2017年 弁護士登録(70期 愛知県弁護士会)
オリンピア法律事務所入所
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第3回目のテーマはAIに関する法律問題です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務ニュース コンプライアンス 民法・商法
【名古屋】誹謗中傷記事・炎上対策《ITビジネス法務勉強会:第4回》
2018年09月06日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
田代 洋介
略歴:
愛知県名古屋市出身
2010年 静岡大学人文学部法学科卒業
2013年 南山大学法科大学院法務研究科修了
2014年 弁護士登録(67期 愛知県弁護士会)
川上・原法律事務所入所
2017年 オリンピア法律事務所 アソシエイト
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第4回目のテーマは誹謗中傷記事・炎上対策です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース コンプライアンス 民法・商法
【名古屋】情報セキュリティ対策《ITビジネス法務勉強会:第5回》
2018年10月18日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
田代 洋介
略歴:
愛知県名古屋市出身
2010年 静岡大学人文学部法学科卒業
2013年 南山大学法科大学院法務研究科修了
2014年 弁護士登録(67期 愛知県弁護士会)
川上・原法律事務所入所
2017年 オリンピア法律事務所 アソシエイト
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第5回目のテーマは情報セキュリティ対策です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース コンプライアンス 民法・商法
【名古屋】自動運転技術に関する法律問題《ITビジネス法務勉強会:第6回》
2018年11月22日(木)
15:00 ~ 17:00
3,000円(税込)
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田 圭介 杉谷 聡
■和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
愛知県立旭丘高校卒業
2004年 京都大学法学部卒業
2005年 弁護士登録(58期 第二東京弁護士会)
クリフォードチャンス法律事務所外国法共同事業入所
2008年 フランス系ラグジュアリーブランド日本支社(出向)
2010年 アメリカ、Duke University School of Law(法学部)LLM卒業
2010年 クリフォードチャンス香港オフィス(出向)
2011年 日系の大手財閥系総合商社のイギリス子会社の法務部(出向)
2013年 ニューヨーク州弁護士登録
2015年 IBS法律事務所開設(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

■杉谷 聡
略歴:
愛知県一宮市出身
愛知県立一宮高等学校卒業
2016年 一橋大学法学部卒業
2017年 弁護士登録(70期 愛知県弁護士会)
オリンピア法律事務所入所
ITに関する法律を学び、ビジネスに活かしていただくためのITビジネス法務セミナーです。第6回目のテーマは自動運転技術に関する法律問題です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース コンプライアンス 民法・商法
《渋谷開催》データの利用に関する最近の法令と契約実務
2018年9月10日(月) 15:00~17:20(14:40開場)
10,000円(1名様)
東京都渋谷区
講師情報
岡 伸夫
1992年 京都大学法学部卒業
1994年 大阪弁護士会 登録 梅ケ枝中央法律事務所 
2000年 ハーバードロースクール 修士課程(LL.M)卒業
Masuda Funai Eifert & Mitchell 法律事務所(シカゴ)
2002年 第一東京弁護士会 登録替 長島大野常松法律事務所
2004年 外立総合法律事務所
2012年 株式会社カービュー コーポレートリーガルアドバイザー    
2016年 法務室長
2018年 AYM法律事務所開設

弁護士会活動(2018年2月現在)
日本弁護士連合会 ひまわりキャリアサポート 委員
第一東京弁護士会 業務改革委員会 委員 

企業法務を中心とした法律事務所に長年勤務した後、2012年からインターネット系企業の法務責任者としてプラットフォームを利用したメディア・コマースビジネスについてのさまざまな法律問題をサポート。
2018年にAYM法律事務所開設 代表弁護士

主な著書
「アメリカのP&A取引と連邦預金保険公社の保護 債権管理 No.96」金融財政事情研究会
「米国インターネット法 最新の判例と法律に見る論点」ジェトロ 共著
「Q&A 災害をめぐる法律と税務」新日本法規 共著
IoT技術の進展にともない、公開・非公開のデータの収集・解析と派生データの活用が盛んに行われることが今後予想されます。
他方で多額の費用と労力をかけて有用なデータベースを構築し、営業秘密でない形でサイトやアプリでユーザーに提供している会社においては、
競業他社による目的外利用を予防し、侵害を受けた場合に権利主張していく方法を検討・確保することが重要になってきます。
このセミナーでは、データの利用に関する最近の法改正の紹介と共に、これらを背景にデータ提供に関する約定、提携先との契約において
留意しなければならないポイントを説明いたします。
申込・詳細はコチラ
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

「イソジン」と「カバくん」から見る不正競争防止法... 1 はじめに  以前、「イソジン」のブランド名と「カバくん」のイメージキャラクターとの分離について取り上げたが(「イソジン」と「カバくん」から見る商標権と著作権)、先日この話題について続報があったため、今回もこの話題を取り上げることとしたい。  明治は、今月9日、塩野義製薬とムンディファーマ社...
大和証券グループとSBIホールディングスとの資本業務提携... 1 事案の概要  大和証券グループ本社は23日、SBIホールディングスと確定拠出年金事業で資本業務提携すると発表しました。  具体的には、SBIホールディングス株式会社、株式会社 SBI 証券及び SBI ベネフィット・システムズ株式会社と株式会社大和証券グループ本社及び同社子会社の大和証券株...
民法改正が及ぼす不動産賃貸借契約への影響... 敷金がちゃんと返ってくる? 不動産の賃貸借契約締結の際、敷金は借主が貸主に対して交付し、立ち退きの際に貸主から返還される金銭であるが、借主が賃料を支払わなかったり、復旧義務を怠っていた場合には、その分が差し引かれる。 現行法においては、敷金の返還義務については明文がなく、敷金の返還に関して当事者間...