連続勤務の僧侶に労災認定
1 はじめに
和歌山県高野町の高野山の寺院に勤める40代の男性僧侶がうつ病になったのは、宿坊(仏教寺院などで僧侶や参拝者のために作られた宿泊施設)での連続勤務が原因であるとして、橋本労働基準監督署が労災認定しました。今回はこの事件を題材に、労働時間該当性について検討していきます。
2 事案の概要
《当該僧侶について》
・2008年勤務開始。2015年12月にうつ病を発症し、その後求職
・「2015年4月・5月・10月は休みが1日も無く、勤務が続いたことがうつ病の原因である」と主張し、2017年5月に労災申請。同年10月、労基署は「少なくとも1か月間の連続勤務が認められる」として労災認定
・在職中は午前5時から、宿泊者らのために読経の準備を開始。日中は宿泊者の世話、寺院での通常業務等を行う。繁忙期では業務終了が午後9時になることもあった
3 労働時間該当性
労基法上、「労働時間」とは休憩時間を除いた実労働時間をいいます。労働に関する取り決めには、就業規則・労働協約・個別労働契約等がありますが、労基法は強行法規であり(13条)、これらに優先します。
三菱重工長崎造船所事件は労働時間について、
「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいうとしています。
その判断方法については、
「労働時間にあたるか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」
としています。
おそらく、僧侶の労災認定の事例は過去にもなかったかと思います。また、代理人弁護士も、「僧侶の職務は『修行』であり、労働ではないとされてきた。僧侶の仕事が労働と認められたという点で、意味のある認定だ」と話しています。
今回の事件で、当該僧侶は宿泊準備や宿泊者の世話といった仕事をしていました。日中行っていた寺院での通常業務も、おそらく上位の僧侶からの指揮命令があって行っていたものと推察されます。これらは修行というよりも、一般的にイメージされる職務としての性格が強いと考えられ、今回のような認定に至ったものと考えられます。
4 今後の実務に向けて
法務部員としては、労務問題が発生し、従業員に訴えられることを避ける必要があります。最高裁は労働時間に関する判断基準を提示していますが、具体的にどのような行為が労働時間に該当するかを判断するのは簡単ではありません。
労働時間該当性を狭く判断してしまうと、今回のようなケースが起こり、労務問題として発展していく可能性があります。他方、労働時間該当性を広く認めれば労務問題が生じるリスクは回避できますが、その分会社としては払う賃金を増やさなければなりません。
・ビル警備業務における夜間仮眠時間について労働時間該当性を肯定した判例―大星ビル管理事件
・更衣時間について労働時間該当性を肯定した判例―前掲三菱重工業長崎造船所事件
労働時間該当性については、上記のように著名な判例もあります。判例から労働時間該当性に関するルールを見出すことも重要ですが、実際の現場においてどのような指揮監督関係があるかを確認し、労働時間該当性について客観的な判断ができるようにすることも重要であると考えます。
【参考サイト】
独立行政法人労働政策研究・研修機構―Q2.法律上、労働時間とはどのように定義されていますか。
厚生労働省―労働時間・休日
【企業法務ナビ内関連記事】
法務ニュース―イオン関連会社に仮処分の支払い命令、「労働時間」とは
このニュースに関連するセミナー
法務ニュース 労務法務 労働法平成14年 司法試験合格
平成15年 京都大学法学部卒業
平成16年 弁護士登録(大阪弁護士会)
天野法律事務所入所司法修習57期
平成21年 ボストン大学ロースクール留学(LLM)
平成22年 帰国・外資系製薬会社法務部にて勤務
(人事・知財・製造部門担当法務)
平成23年 ニューヨーク州弁護士登録
平成23年 法律事務所に復帰
○取扱い事件
企業:企業法務、特に人事労務事案を得意とする
コンサルティング:女性が活躍できる職場づくり、問題社員対応、メンタルヘルス対応、ハラスメント対策等
○執筆
「女性社員の労務相談ハンドブック」(共著)新日本法規
今回のセミナー内容は、 「【働き方改革】緊急性の高い実務対応ポイント(過重労働防止のための労働時間規制)」です。
略歴:
2003年 弁護士登録(56期 第二東京弁護士会)
森・濱田松本法律事務所入所
2006年 川上・原法律事務所移籍独立(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
使用者側の労務問題を中心に扱っており、労働組合との団体交渉、休職復職を巡る問題、解雇などに伴う労働裁判などを多数扱っている。
■和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
京都大学法学部・アメリカDuke大学LLM卒業。
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー
世界最大規模の国際法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所の東京オフィスでの10年の勤務を経て、現在は、オリンピア法律事務所のパートナーとして主に中部圏の企業の国際取引・海外進出をサポートしている。
契約実務・コンプライアンス対応等の企業法務を専門とし、国内企業による国際取引・海外進出、英文契約に精通している。
また、M&Aや上場支援の分野にも力をいれている。
大手総合商社・外資系企業の法務部への出向経験があるため、企業法務の現場の問題意識にも通じている。
今回のセミナー内容は、 「サプライチェーンの労務管理 ~ 近時のトピックを踏まえた留意点」です。
法務と財務の両面から、企業経営に関するコンサルティングを行っている。
■略歴
平成14年 海城高等学校卒業
平成16年 公認会計士試験(旧第2次試験)合格
平成18年 慶應義塾大学経済学部卒業
平成22年 あずさ監査法人退所
平成25年 中央大学法科大学院修了
平成26年 弁護士登録(東京弁護士会)
平成27年 中央大学法科大学院実務講師就任
平成30年 弁護士法人L&Aにパートナー弁護士として参画
■著書等
・「契約審査のベストプラクティス ビジネス・リスクに備える契約類型別の勘所」共著(レクシスネクシス・ジャパン)
・「応用自在!覚書・合意書作成のテクニック」共著(日本法令)
・「ストーリーでわかる営業損害算定の実務 新人弁護士、会計数値に挑む」共著(日本加除出版株式会社)
■
メディア出演
・あさイチ(NHK)
・WBS(ワールドビジネスサテライト)等
今回のセミナー内容は、 「改正民法に向けた契約書修正の対応プロセス(余裕をもって2020年4月を迎えるための3ステップ)」
1994年 大阪弁護士会 登録 梅ケ枝中央法律事務所
2000年 ハーバードロースクール 修士課程(LL.M)卒業
Masuda Funai Eifert & Mitchell 法律事務所(シカゴ)
2002年 第一東京弁護士会 登録替 長島大野常松法律事務所
2004年 外立総合法律事務所
2012年 株式会社カービュー コーポレートリーガルアドバイザー
2016年 法務室長
2018年 AYM法律事務所開設
弁護士会活動(2018年2月現在)
日本弁護士連合会 ひまわりキャリアサポート 委員
第一東京弁護士会 業務改革委員会 委員
企業法務を中心とした法律事務所に長年勤務した後、2012年からインターネット系企業の法務責任者としてプラットフォームを利用したメディア・コマースビジネスについてのさまざまな法律問題をサポート。
2018年にAYM法律事務所開設 代表弁護士
主な著書
「アメリカのP&A取引と連邦預金保険公社の保護 債権管理 No.96」金融財政事情研究会
「米国インターネット法 最新の判例と法律に見る論点」ジェトロ 共著
「Q&A 災害をめぐる法律と税務」新日本法規 共著
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