運送法制の改正案と実務上の影響について

1.はじめに

 平成28年1月27日「商法(運送・海商関係)等の改正に関する要綱案」が閣議決定され、同年10月18日に「商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律案」が提出されました。
 同法律案については現在も継続して審議がなされています。改正案では従来なかった航空運送について明記するほか、一部で運送中の荷物の滅失・破損時の賠償責任を無過失責任から過失責任へ変更するなど、今後の運送実務に大きな影響を及ぼす改正も見受けられます。
 そこで今回は、改正の経緯や、可決した場合の今後の実務への影響をみていきたいと思います。

2.改正の経緯

 明治32年に商法が制定されて以来、運送・会商関係についての規定(543~628,684~851条)は実質的に改正がなされたことがありません。特に航空運送事業については商法制定時に存在自体が無かったため、現状では、これに関する規定も存在しません。
 このような、時代遅れとも思える現行法に対し「社会経済情勢の変化に鑑み、航空運送及び複合運送に関する規定の新設、危険物についての荷送人の通知義務に関する規定の新設、船舶の衝突、海難救助、船舶先取特権等に関する規定の整備等を行うとともに、商法の表記を現代用語化する必要」から、上記法律案の提出に至りました(『商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律案 理由』)。
 以下、主要な改正点について個別に検討していきたいと思います。

3.主要な改正点と実務への影響

(1)航空運送、及び複合運送について
上記の通り、航空運送については商法制定時に存在しなかったため、従来は国土交通省の標準約款を基に各社が定める約款により規律されてきました。そこで、改正法案では航空運送の定義が明文化されました(改正法案569条4号)。
 また、現代では陸上・海上・航空といった複数の輸送手段を用いる運送を一つの契約で引き受ける複合運送が広く行われています。改正法案では陸・海・空の運送方法のうち、共通する部分について統一的な総則規定が設けられました。こうした総則規定は複合運送にも適用されうるため、実務上も影響が生じることが予想されます。
 例えば、複合運送の過程で荷物が損傷した場合、現行法では陸上・海上運送では運送人の責任は原則1年たつと消失する規定があります(現行商法 566条1項)。現在は航空運送には適用されず、通常の債権の時効である5年が適用されてきましたが、改正後は航空運送も1年で責任が消失するようになります。

(2)荷物が危険物である場合の運送会社への通知義務
 改正案は、運送人だけに負担を課すものばかりではありません。荷物が引火性,爆発性を有する危険物である場合、荷送人は運送人に対して、荷物が危険物であることや、その品名,性質,安全な運送に必要な情報を通知しなければならない、と規定されました(改正法案 572条)。
 また、荷送人が当該通知義務に違反して、運送人に損害が生じた場合、荷送人には賠償責任が生じます(同573条3項)。
 現代では、上記のとおり運送方法が多様化した一方で、運送人が取り扱う荷物の種類も多岐に渡ります。このようななか、危険物が爆発,漏出した場合の責任の所在を明確とするなど、運送の安全性を確保する趣旨から、このような条項が設けられました。

(3)運送人の不法行為責任の軽減
  現行法では、荷物が貨幣や有価証券、その他の高価品である場合、荷送人が運送委託時に、荷物の種類,価格を明示した場合に限って運送人に損害賠償義務が発生するものとされています(現行商法578条)。また、運送人の損害賠償額についても限度額が定められています(同580条1~3項)。
 改正法案は、これらの規定の適用範囲を運送人のみならず、その被用者の不法行為責任にも及ぼすものとしました(改正法案587,588条)。

(4)旅客運送人の責任に関する片面的強行規定
 片面的強行規定とは、当事者の一方に不利になる特約を禁止する強行規定をいいます。現行法では、陸上運送については運送人の責任についての片面的強行規定は存在しない一方で、海上運送については、運送人の被用者の悪意・重過失から生じた責任については片面的強行規定が定められており(現行商法 739条)、運送人の責任を免責する約款は禁じられています。
 改正法案では、旅客運送人の責任について、旅客の安全を確保する趣旨から、旅客の生命又は身体の侵害による運送人の損害賠償責任について、これを軽減する特約は一切無効としました(改正法案 591条1項)。
 これにより、過失の有無を問わず運送人の責任の一切を免責するような特約は、無効となります。

(5)堪航能力担保義務の過失責任化
 堪航能力担保義務とは、船舶が安全に航海できることのほか、船舶による運送委託を受けた貨物を通常の航海から生じる危険に耐えて安全に目的地にまで運ぶ義務をいいます。現行商法738条は船舶所有者が堪航能力を有しない船舶、輸送方法によって生じた損害につき、運送人の過失の有無に関わらず賠償責任を定めています。そのため、海上輸送中に事故に遭い荷物が損傷した場合、船主に過失が無くても船主が賠償責任を負うことになります。
 改正法案はこれを過失責任に改め、過失がなければ船主の責任が減免されるものとしました(改正法案 739条)。

4.まとめ

 本改正法案は本年6月16日の通常国会で継続審議が議決されています。そのため、将来的には可決される可能性が高いといえるでしょう。
 可決された場合、その施行時期は改正民法の施行時期と近いことが予想されます。運送会社の法務担当者としては、本改正法案を受けて約款を見直す必要が生じるでしょうが、この場合、改正民法に定める「定型約款」に該当するかについても注意が必要でしょう。
 一方で、荷送人の側にも注意が必要です。上記の通り、危険物の通知義務が新設されましたので(改正法案 572条)、荷物が危険物である場合には運送人に、品名,性質,安全な運送に必要な情報を通知しなければなりません。危険物に該当するかについては海上輸送については危険物船舶運送及び貯蔵規則2条が、航空輸送の場合には航空法施行規則194条が参考になるでしょう。

5.関連サイト

商法、120年ぶり見直し 航空運送に初適用 改正案を閣議決定
商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律案要綱
新旧条文対照表
危険物船舶運送及び貯蔵規則
航空法施行規則
定型約款作成の際の注意事項

関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] yuichi

詳細情報はありません。

※記事コンテンツを掲載したい方は、コチラ

このニュースに関連するセミナー

法務ニュース 契約法務 法改正
第96回MSサロン(大阪会場)
2018年04月12日(木)
19:00 ~ 21:00
2,000円
大阪府大阪市北区
講師情報
大浦 綾子
○略歴
平成14年 司法試験合格
平成15年 京都大学法学部卒業
平成16年 弁護士登録(大阪弁護士会)
天野法律事務所入所司法修習57期
平成21年 ボストン大学ロースクール留学(LLM)
平成22年 帰国・外資系製薬会社法務部にて勤務
(人事・知財・製造部門担当法務)
平成23年 ニューヨーク州弁護士登録
平成23年 法律事務所に復帰
○取扱い事件
企業:企業法務、特に人事労務事案を得意とする
コンサルティング:女性が活躍できる職場づくり、問題社員対応、メンタルヘルス対応、ハラスメント対策等
○執筆
「女性社員の労務相談ハンドブック」(共著)新日本法規
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「【働き方改革】緊急性の高い実務対応ポイント(過重労働防止のための労働時間規制)」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務ニュース 契約法務 法改正
第95回MSサロン(名古屋会場)
2018年04月10日(火)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
原 武之 和田 圭介
■原 武之
略歴:
2003年 弁護士登録(56期 第二東京弁護士会)
森・濱田松本法律事務所入所
2006年 川上・原法律事務所移籍独立(愛知県弁護士会に登録換え)
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

使用者側の労務問題を中心に扱っており、労働組合との団体交渉、休職復職を巡る問題、解雇などに伴う労働裁判などを多数扱っている。

■和田 圭介
略歴:
愛知県春日井市出身
京都大学法学部・アメリカDuke大学LLM卒業。
2017年 オリンピア法律事務所 パートナー

世界最大規模の国際法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所の東京オフィスでの10年の勤務を経て、現在は、オリンピア法律事務所のパートナーとして主に中部圏の企業の国際取引・海外進出をサポートしている。
契約実務・コンプライアンス対応等の企業法務を専門とし、国内企業による国際取引・海外進出、英文契約に精通している。
また、M&Aや上場支援の分野にも力をいれている。
大手総合商社・外資系企業の法務部への出向経験があるため、企業法務の現場の問題意識にも通じている。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「サプライチェーンの労務管理 ~ 近時のトピックを踏まえた留意点」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務ニュース 契約法務 法改正
第97回MSサロン(東京会場)
2018年04月19日(木)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
講師情報
伊勢田 篤史
弁護士・公認会計士 伊勢田 篤史
法務と財務の両面から、企業経営に関するコンサルティングを行っている。

■略歴
平成14年 海城高等学校卒業
平成16年 公認会計士試験(旧第2次試験)合格
平成18年 慶應義塾大学経済学部卒業
平成22年 あずさ監査法人退所
平成25年 中央大学法科大学院修了
平成26年 弁護士登録(東京弁護士会)
平成27年 中央大学法科大学院実務講師就任
平成30年 弁護士法人L&Aにパートナー弁護士として参画

■著書等
・「契約審査のベストプラクティス ビジネス・リスクに備える契約類型別の勘所」共著(レクシスネクシス・ジャパン)
・「応用自在!覚書・合意書作成のテクニック」共著(日本法令)
・「ストーリーでわかる営業損害算定の実務 新人弁護士、会計数値に挑む」共著(日本加除出版株式会社)


メディア出演
・あさイチ(NHK)
・WBS(ワールドビジネスサテライト)等
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「改正民法に向けた契約書修正の対応プロセス(余裕をもって2020年4月を迎えるための3ステップ)」
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務ニュース 契約法務 法改正
《渋谷開催》もうひとつのGDPR対策〈EU個人情報保護法〉
2018年4月13日(金) 17:00~18:30(16:30開場)
9,000円(1名様)
東京都渋谷区
講師情報
岡 伸夫
1992年 京都大学法学部卒業
1994年 大阪弁護士会 登録 梅ケ枝中央法律事務所 
2000年 ハーバードロースクール 修士課程(LL.M)卒業
Masuda Funai Eifert & Mitchell 法律事務所(シカゴ)
2002年 第一東京弁護士会 登録替 長島大野常松法律事務所
2004年 外立総合法律事務所
2012年 株式会社カービュー コーポレートリーガルアドバイザー    
2016年 法務室長
2018年 AYM法律事務所開設

弁護士会活動(2018年2月現在)
日本弁護士連合会 ひまわりキャリアサポート 委員
第一東京弁護士会 業務改革委員会 委員 

企業法務を中心とした法律事務所に長年勤務した後、2012年からインターネット系企業の法務責任者としてプラットフォームを利用したメディア・コマースビジネスについてのさまざまな法律問題をサポート。
2018年にAYM法律事務所開設 代表弁護士

主な著書
「アメリカのP&A取引と連邦預金保険公社の保護 債権管理 No.96」金融財政事情研究会
「米国インターネット法 最新の判例と法律に見る論点」ジェトロ 共著
「Q&A 災害をめぐる法律と税務」新日本法規 共著
2018年5月25日にEUの個人情報保護法であるGDPRがいよいよ施行されます。

一部の関係企業では急ピッチに対策が行われる一方で、
EU圏内の拠点をおかない、いわゆる域外適用の対象となる会社については、
具体的な実務対策があまり語られていないのが現状です。
このセミナーでは、EU圏内のデータ主体の情報を日本国内で直接取得し、
商品やサービスを提供するEコマースサイトを念頭に、
この時期完全遵守は困難としても、最低意識し、やっておいた方がよいと思われる対策を、
講師の経験を踏まえてお話しします。
(*このまま全く対策しないことに疑問のある方は是非一度聞いてみてください)
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
※セミナー広告を掲載したい方は、コチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

企業庁が下請けいじめ対策、中小企業向け専用窓口を設置... 事案の概要 経済産業省・中小企業庁は、取引にまつわる企業からのあらゆる相談に対応する窓口「中小企業取引ホットライン」(仮称)を設置する。 下請取引の公正化・下請事業者の利益保護について定めた下請法には不当な代金減額や返品を禁止する規制が存在するが、同法において規制される取引か否かを問わず、発注側の...
「週刊現代」の記事をめぐる島田紳助さんの請求退ける 東京地裁... 事案の概要 「週刊現代」の記事で名誉を傷つけられたとして、元タレントの島田紳助さんと吉本興業が、発行元の講談社に計1億65000万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決が30日に言い渡され、東京地裁は、吉本興業に110万円を支払うよう命じた。一方、島田さんの請求はすべて退けた。 週刊現代は昨年10月...
こういうときこそ、国の出番 法案の概要  民主党原発事故影響対策プロジェクトチームは3日、特別措置法案をまとめた。この法案は、東京電力福島第一原発事故で放射性物質に汚染された原発構外のがれき処理や、土壌除染を国が行うためのものである。  具体的には、環境省が指定する「汚染廃棄物対策地域」のがれきの処理の国に義務付け、その費...