法務の観点から考える、BCPの策定

1.はじめに

 2017年7月5日より九州北部地方にて続く豪雨で甚大な被害が発生し、土砂災害や浸水、河川の氾濫などが生じました。福岡県朝倉市、朝倉郡東峰村及び田川群添田町、並びに大分県日田市及び中津市に災害救助法が適用され、経済産業省は、被災中小企業・小規模事業者対策を行うことを決定しました。
 しかし、このような対策があっても、企業は、ひとたび被災すれば、事業の縮小や廃業を余儀なくされるでしょう。緊急時に倒産や事業縮小を迫られないためにも、平時からBCP(事業継続計画)の周到な用意が要求されます。
 以下では、BCPとは何か、BCPの策定は義務なのか、準備をしなかった場合のリスクは何かについて検討し、BCPの策定をすべきか否かについて検討します。

2..BCPとは

 BCPとは、企業が自然災害等の緊急事態に遭遇した場合に、事業資産の損害を最小限にしながら、中核事業の継続・早期復旧を可能とするために平常時に行うべき活動や事業継続のための方法等を取り決める計画をいいます。従業員の避難経路の確認や避難訓練の実施、非常時対応計画や復旧計画等の策定が挙げられます。
 BCPの策定方法については、中小企業BCP策定運用指針をご覧ください。
 

3..BCPは義務か?

 まず、BCPの策定自体は法律で定められた義務ではありません。ただし、東京都帰宅困難者対策実施計画のように、努力義務ではありますが、従業者の一斉帰宅を抑制することや、そのために従業員の三日分の飲料水、食糧その他災害時における必要な物資を備蓄すること等が定められています。

4.BCPを策定しなかった場合のリスク

(1)従業員に対する安全配慮義務違反のリスク
 企業は従業員に対して安全配慮義務(従業員が安全かつ健康に業務に従事できるよう企業が配慮する義務)を負っています。この安全配慮義務を怠ったことにより、従業員に損害が生じた場合には、企業は従業員に対し、損害賠償責任を負うこととなります( 「自然災害と企業の賠償責任」 )。
 例えば、東日本大震災の際、使用者が作成していた安全教育や避難訓練通りに支店屋上に避難したが津波に流されて死亡した従業員の遺族が安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求をした事案がありました。この事案では、使用者が津波を想定した災害対応計画を事前に策定しており、その周知を図っていたことの他、平時における防災訓練なども行っていたことを理由に安全配慮義務違反はないとして損害賠償請求を棄却した原審判断についての上告を受理しませんでした(最判平成28年2月17日)。
 このように、BCPを策定しておけば、安全配慮義務違反による損害賠償責任を免れることが可能となります。
 
(2)取引先に対する債務不履行のリスク
 また、企業が被災した場合、取引先への納品期限に製造が困難となります。その結果、取引先は被災企業が提供する部品を使用した商品の製造が困難になることもあるでしょう。そして、遅滞により取引先に生じた損害について履行遅滞を理由とする損害賠償請求(民法415条)がされる可能性があります。
 しかし、被災企業に帰責性がなければ、履行遅滞に基づく損害賠償請求権が生じません。そして、被災企業がBCPを策定し、従業員に周知徹底して、被災時に実行すれば、被災時であっても可能な限り納品ができるようにする義務をも履行していたと評価できそうです。このため、注意義務違反がなく過失がないとして、帰責性をなくすことができる可能性があります。したがって、債務不履行責任を免れることができる可能性が高いと考えます。
 また、BCPの策定・周知・実行でなくとも、取引先との契約の際に、「不可抗力免責条項」 を締結し、リスクを予防するということも考えられます。

5.BCPを策定すべきか

 BCPを策定しない場合には以上のようなリスクが考えられます。そして、災害が発生するリスク頻度自体は低いものの、企業自体が被災して企業体力が低下している状況で上記のような損害賠償義務を負えば、その影響力は過大なものになると考えられます。
 他方で、BCPを策定・周知・実行することには人件費などの相当の費用が掛かるでしょう。しかし、BCPには策定の程度があります。
 災害自体の頻度は低いものの発生すれば、企業の存続に影響を与える可能性のあるリスクであることを認識し、どの程度のBCPであれば策定できるのかを考慮し適切な対応を行いましょう。

関連業務タグ:,
関連法律タグ:
 
[著者情報] awahara

詳細情報はありません。

このニュースに関連するセミナー

企業 法務ニュース 事業再生・倒産 事業承継 民法・商法
第93回MSサロン(名古屋会場)
2018年02月15日(木)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田圭介
愛知県春日井市出身
京都大学法学部・Duke大学LLM卒業。
2005年弁護士登録。
2013年ニューヨーク州弁護士登録。
世界最大規模の国際法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所を経て、
2015年、IBS法律事務所を開設。
国内外の企業法務案件を主に扱っており、国際取引・英文契約を得意としている。
大手総合商社・外資系企業の法務部への出向経験があるため、企業法務の現場の問題意識にも通じている。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「法務部員のための国際仲裁入門」です。
申込・詳細はコチラ
企業 法務ニュース 事業再生・倒産 事業承継 民法・商法
第92回MSサロン(大阪会場)
2018年02月06日(火)
19:00 ~ 21:00
2,000円
大阪府大阪市北区
講師情報
山口昌之
2005(平成17)年10月
大阪弁護士会に弁護士登録
なにわ共同法律事務所入所
2015(平成27)年1月
山口法律会計事務所入所
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「社員の不祥事に対する会社としての対処法(第2回)」です。
申込・詳細はコチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

高見沢が株式併合を発表、株式併合の手続について... はじめに 建設用資材等の販売を手がける高見沢(長野市)が来年1月1日付で5株を1株に株式併合を行う旨発表しました。またそれに伴い単元株式数の変更も行うとしています。今回は株式併合とその手続について見ていきます。 事案の概要 株式会社高見沢の発表によりますと、28日開催の取締役会で発行済み株...
個室経営のネットカフェ・漫画喫茶はなくなる?... 個室経営のネットカフェ・漫画喫茶はなくなる? ネットカフェや漫画喫茶が定番の存在となったのがいつ頃か自分ではよくわからないが、便利なものとして利用されている方は多いのではないかと思われる。その利点の一つとしてプライバシーが保たれた個室が用意されているということが挙げられるのではないだろうか。た...
育休で昇給なしは違法と高裁が判断 事案の概要 育児休業取得を理由として昇給させないのは違法として、京都市の男性看護師が勤務先の病院に昇給賃金との差額等の支払を求めた事件の控訴審判決があり、大阪高裁は育児・介護休業法10条に違反するとして約24万円の賠償を命じる判決を言い渡した。 原告の看護師は2010年度に3か月の育児休業を取...