AIが変える業務のかたち

はじめに

法務業務におけるAIの活用が期待を集めています。先月の8日、リクルートホールディングスがLegalogic Ltd.に投資会社を通じて出資しました。Legalogic Ltd.はイスラエルに拠点を置いていて、「Law Geex」を運営しています。「Law Geex」は企業法務業務での契約書チェックや修正を、AI(人工知能)が自動で行ってくれるサービスです。AIによる法務業務への影響を見ていきます。

AIがなぜ必要なのか

現代では私たちを取り巻く情報量は膨大になりました。インターネットが普及して、個人レベルでの情報の発信と受領が容易になったためです。特に「モノのインターネット」(iot)化、「全てのインターネット」(ioe)化が叫ばれる近年です。情報は量的に増大するだけでなく、質的にも多様性、複雑性が増しています。そして、このような近年の情報の量的・質的な変化は、従来のデータ管理ツールでは収集、蓄積、分析することのできない「ビッグデータ」と化しました。ビッグデータは人間の処理能力の限界を超えます。情報量の変化がAIビジネス発展の背景にあるといえます。
Iot、Ioeとは何?
ビッグデータとは何か(総務省)
ビッグデータとは

「認知」するコンピュータ

人間や従来の情報管理ツールでは処理できなかったビックデータを処理できることこそAIの強みといえそうです。従来は人がコンピューターに命令を組み込んで、コンピューターがその命令にしたがって作業をこなすという時代でした。しかし、近年では人工知能技術の向上によりコンピューターが自ら学習し、判断する時代に移りつつあります。コンピューターが自ら情報を収集、分析、学習するといった「認知」(コグニティブ)をすることで人間の業務を補助することが期待されています。コンピューターが自ら学習、思考し、膨大な情報を分析することができるシステムである「コグニティブ・コンピューティング」は注目に値します。
次世代ITのキーワードコグニティブ・コンピューティングとは
IBM「コグニティブシステムとは」

機械学習からディープラーニングへ

AIは機械学習の時代からディープラーニングの時代に移行しつつあります。機械学習はデータから学習し、法則性やルールを見つけ出すことができますが、分析の視点を人間が与えなければなりません。迷惑メールフィルター等が例として挙げられます。それに対して、ディープラーニングによれば、AIが自らで分析・判断の視点を発見することができるようになります。機械学習では人間がAIの学習をコントロールできますが、ディープラーニングでは人間と意図とは異なる方向でAIが成長していく可能性があり、人間によるコントロールが難しいとされます。
「機械学習」と「ディープラーニング」何が違うのか?
ホーキング博士、人工知能のリスクを警告

各分野でのAIの活躍

AIは多彩な分野での活用が予想されます。AIは人間のようにものごとを「認知」できます。クイズ大会でチャンピオンに勝利し、将棋で名人を破ったのは印象的です。既に保険・銀行業務のコールセンター等で導入が進んでおり、近い未来では自動運転自動車でもAIの活躍が期待されます。医療分野でもAIに病名を診断してもらう時代が来るかもしれません。富士キメラ総研の調査によれば、2015年のAIビジネスの市場規模は約1500億円で、2020年には約1兆円、2030年には約2兆円にも達するとされます。もちろん、正確性や誤作動の可能性、セキュリティ面、法的整備等の不安要素はあります。しかし、不安を抱えつつも各分野でAIの導入が進んでいくことは間違いなさそうです。
AIビジネスの国内市場調査(富士キメラ総研、PDF)

AIは法務において何ができるのか?(コメント)

コンプライアンス意識の向上などから法務の業務は増加し、法務問題に対処できる人材のニーズが年々高まっています。AIビジネスの拡大と法務業務が拡大する傾向からは、AIに法務を担わせるというのは自然な発想かもしれません。それでは、AIは法務業務において具体的に何ができるのでしょうか。
●法律相談
法律相談の場面では、適法か違法かといった判断をAIに大まかに行わせることは可能かもしれません。法律相談では、法令・判例からルールを読み取り、そこに具体的事例を当てはめて答えを導き出す、という作業が行われます。法令・判例というデータとルールがある為、AIがなすべきことはこれを学習し、具体的事例をあてはめることです。法律は適用に際して誰でも同じ結論に至るようにある程度の客観性を持たされています。それゆえに、AIが学習し、規則性を客観的にに導き出すには適した分野と言えます。たとえ法的素養がない人が質問しても、AIが自動的に適切な法令・判例を導き、それに事実を適用して法律相談に答えてくれる時代が来るかもしれません。ただし、法令の改正や判例変更があった場合など、AIが判断の基礎としている情報に変化が生じた場合に不安が残ります。この場合には再度学習をやり直すなどの対策が求められます。
●契約書審査・修正
それでは、契約書の審査・修正といった場面でAIによる自動化は可能でしょうか。
まず、契約書の内容・法的効果を確認する段階について考えてみたいと思います。この点について、同種の契約書であっても、各企業によって契約書の規定文言はそれぞれです。そこで、それら様々なパターンの契約書や日本語のルールをAIに学習させます。そうすることで、新たな契約書をAIに与えても、各規定の内容・法的効果を自動的に識別してくれるということが可能になるかもしれません。
これに対して、契約書を修正するかしないか、するにしてもどのような修正をするのかという判断はどうでしょう。法律相談の場合は、法令・判例というデータとルールによってAIは相談を解決できます。これに対して、相手方の雛形と自社雛形に齟齬が生じた場合にどう対応するのかという判断では、ビジネス上の利益、法的なリスク、取引年数や相手方との力関係等様々な要素を考慮して判断が下されます。時には、相手との将来の良好な関係を期待して譲歩したり、社長同士が知り合いで譲歩したり、といった場合もあるかも知れません。法令への当てはめのような客観的な判断ではなく、ある意味主観的で臨機応変な判断が必要とされます。これらの判断要素をAIが学習すべきデータとして資料化できるのかは大きな疑問です。データ化が難しい以上、AIが契約書審査の規則性、ルールを導くのも困難でしょう。したがって、契約書を学習させれば自動的にAIが契約業務をこなしてくれる、というのは難しそうです。
では、人が契約書審査・修正のルールを作り、それをAIに学習させることで、契約業務を自動化するという方向性はどうでしょうか。前述のような相手会社との関係等の諸要素を考慮する必要の無い事柄について、簡単なルールを人間が作り出すことは可能でしょう。しかし、相手会社との関係等の諸要素を考慮して行う契約業務における判断をルール化することが難しいのは人間でも同様であると思われます。簡単な判断はAIに判断してもらいつつも最終的には人間がAIの判断をチェックし、さらに複雑な要素を考慮して行う判断については、やはり人間が行う必要があるでしょう。これからも、法務業務をAIに任せきりにするということは難しいように思われます。
弁護士はAIに取って代わられるのか

関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] ishizaki

詳細情報はありません。

このニュースに関連するセミナー

法務ニュース 契約法務 民法・商法
第91回MSサロン(東京会場)
2017年11月22日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
講師情報
近内京太
2006年の弁護士登録以来、丸の内総合法律事務所にて、企業の法律顧問業務のほか、M&A、株主総会、危機管理、海外取引、企業関係訴訟、その他の企業法務全般を取り扱う。
2003年京都大学法学部、2016年ワシントン大学ロースクール(LLM)卒。2017年ワシントン州司法試験合格。2011年1月~2012年6月預金保険機構、2016年8月~2017年7月米国シアトルのShatz Law Group勤務。
趣味は、ロングトレイルを中心にランニング全般。
[近時の著作]
「自動運転自動車による交通事故の法的責任~米国における議論を踏まえた日本法の枠組みとその評価[上]・[下]」(国際商事法務44巻10号1449頁・11号1609頁) (2016)
American Bar Association, Section of International Law, Regional and Comparative Law: Asia Pacific, 51 The Year In Review 579 (2017)
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「民法(債権法)改正の概要と約款取引について企業のとるべき対応」です。
申込・詳細はコチラ
契約法務 民法・商法
《緊急セミナー:名古開催》改正債権法に基づく契約書作成実務
2017年11月24日(金)
14:30 ~ 17:30
15,000円(資料代・消費税を含む)
名古屋市中区栄
講師情報
滝川 宜信
(行政書士滝川ビジネス契約コンサルティング代表〔特定行政書士〕・明治学院大学非常勤講師)
◆中央大学大学院法学研究科博士後期課程中退
◆㈱デンソー法務部課長~部長および名古屋大学大学院法学研究科客員教授、明治学院大学法科大学院教授(会社法・商法担当)、株式会社トーカン顧問を歴任。
・この間、中部経済連合会法規委員会専門委員長、経団連経済法規委員会企画部会委員・消費者部会委員、名古屋工業大学・名城大学法学部・中京大学法学部・南山大学法学部・法科大学院の非常勤講師を歴任。
◆日本私法学会会員、金融法学会会員
◆主な著書
『取引基本契約書の作成と審査の実務(第5版)』(単著・㈱民事法研究会)、『実践企業法務入門(第5版)』(単著・㈱民事法研究会)、『業務委託(アウトソーシング)契約書の作成と審査の実務』(単著・㈱民事法研究会)、『M&A・アライアンス契約書の作成と審査の実務』(単著・㈱民事法研究会)
『内部統制対応版企業コンプライアンス態勢のすべて〔新訂版〕』(共著・きんざい)、『リーディング会社法〔第2版〕』(単著・㈱民事法研究会)、『企業法務戦略』(共著・㈱中央経済社)、『社外取締役のすべて』(共著・東洋経済新聞社)など
改正民法施行は、2020年1月または4月と見込まれていますが、今から契約書の準備をすることが必要です。
本セミナーでは、『取引基本契約書の作成と審査の実務』など契約書の審査と実務シリーズ(民事法研究会・刊)の著者が、企業法務の担当者を対象に、直接、わかり易く丁寧に解説します。
滝川宜信・著『業務委託(アウトソーシング)契約書の作成と審査の実務』(民事法研究会・刊)に掲載の請負契約書ひな型・委任契約書ひな型に基づき具体的に条文の変更例を示し解説します。
東京開催(10月)の満員の盛況を受け、このたび名古屋開催を決定しました。
※変更例および主旨は、他の契約にも応用が可能です。
※本セミナーは、本年7月19日に、名古屋・愛知県弁護士会ホールで行った内容をバージョンアップし、3時間で解説するものです。
申込・詳細はコチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

デュポン、知財紛争、韓国大手に勝訴!... 概要 米化学大手のデュポンが代表的な高機能素材のアラミド繊維を巡り、韓国繊維大手のコーロンと激しい知的財産権訴訟を繰り広げている。8月30日には米連邦地裁がデュポンの訴えを全面的に認める命令を出し、コーロンは韓国工場の操業停止に追い込まれた。争点は元従業員を通じた技術流出。 デュポンの主張や米裁判...
amazonの空飛ぶ配送サービス構想が法的規制の対象に?... <法改正案の概要> 首相官邸の屋上への落下事故などを契機に安全面が問題視されている小型無線機「ドローン」などの無人機の飛行ルールを定めた、「航空法の一部を改正する法律案」(以下、改正案)の概要が今月2日に分かった。改正案では、〈1〉無人航空機の飛行にあたり許可を必要とする空域であること〈2〉日中に...
JASRACに「無罪」審決 事案の概要 14日、公正取引委員会は、JASRAC(日本音楽著作権協会)に対する排除措置命令(2009年2月)を取り消す審決(12日付)を出したと発表した。公取委の命令が審判で全て覆るのは1994年以来。  JASRACは、放送局などから、音楽著作権の使用料を、曲が利用された実数ではなく放送事...