”くるみん認定”の基準、見直しへ

はじめに

 昨年秋、大手広告代理店が社員に違法な長時間労働をさせていたことが発覚しました。発覚後、同社は従来より企業イメージの向上に用いられていた、厚生労働省による「子育て支援など一定の基準を満たした企業や法人の認定(”くるみん認定”)」の辞退を申し出ました。また、この問題を受けた同省は、来年度からの”くるみん認定”の認定基準の見直しを発表しました。
 そこで、今回は1.そもそも”くるみん認定”とは何か、2.今回の件で認定基準はどのように見直されるのか、という点について見ていきたいと思います。

1.”くるみん認定”とは何か

 次世代育成支援対策推進法によると、301人以上の労働者を雇用する企業や法人などの雇用主は、日本の社会や経済に深刻な問題である少子化に対処する「一般事業主行動計画」を策定した上で届出をしなければならなくなりました(雇用者が300人以下の企業などは努力義務)。そして、計画の届出をした後で申請をし、厚労省令で定められた基準を満たした企業には”くるみん認定”がなされることとなっています。
 この”くるみん認定”は商品・役務・一般事業主の公告・役務の取引に用いる書類又は通信などに付することができ、社員の子育て環境を整えている企業として企業イメージの向上に役立てることができます。また、事業所内保育施設や授乳コーナーなどの「次世代育成支援に資する一定の資産」について割増償却を行うことができ、税制優遇措置(くるみん税制)を受けることができます。
 さらに、通常認定である”くるみん認定”の他に、特例認定である”プラチナくるみん認定”があります。これは”くるみん認定”を受けた企業のうち、より高い水準の取組を行った企業が一定の要件を満たした場合に送られる称号です。この認定を得ることにより、さらに世間に対して良い企業イメージを周知させることができます。

2.今回の件で認定基準はどのように見直されるのか

 現在、”くるみん認定”を受けるためには、以下の9つの基準を満たす必要があります。
① 雇用環境の整備について、行動計画策定指針に照らし適切な一般事業主行動計画を策定したこと。
② 行動計画の計画期間が、2年以上5年以下であること。
③ 策定した一般事業主行動計画を実施し、それに定めた目標を達成したこと。
④ 平成21年4月1日以降に新たに策定・変更した一般事業主行動計画について、公表及び従業員への周知を適切に行っていること。
⑤ 計画期間内に、男性の育児休業等取得者が1人以上いること。
⑥ 計画期間内の女性従業員の育児休業取得率が70%以上であること。
⑦ 3歳から小学校に入学するまでの子を持つ従業員を対象とする「育児休業の制度または勤務時間の短縮等の措置に準ずる措置」を講じていること。
⑧ 次の(1)から(3)までのいずれかを実施していること。
(1)所定外労働の削減のための措置
(2)年次有給休暇の取得の促進のための措置
(3)その他働き方の見直しに資する多様な労働条件の整備のための措置
⑨ 法及び法に基づく命令その他関係法令に違反する重大な事実がないこと。

 厚生労働省は平成29年度より、上記に加えて、
⑩ 全ての従業員が1年間の月平均で残業時間が60時間未満であること。
⑪ 男性の育休取得率が10%程度であること。
という2つの基準を追加することを発表しました。冒頭の事件との関係では⑩が重要です。すなわち、従来より”くるみん認定”を受けていた企業であっても、残業時間を削減しなければ認定を見直されるという可能性が出てきました。また「残業時間が80時間未満」という基準があった”プラチナくるみん認定”においても「60時間未満」に見直されることになりました(他の基準については大部分が”くるみん認定”と重複)。そのため、これから認定を受ける予定の企業はもちろんのこと、たとえ認定を受けていた企業であっても社内の就業規則や残業状況を見直す必要が出てくる可能性があります。

おわりに-企業イメージと残業時間-

 次世代育成支援対策推進法は現代の少子化社会を解決すべく、子育てのしやすい環境を整備することをその目的としています(同法1条参照)。したがって、認定基準の見直しによる残業時間の削減については、優良企業の条件ではなく飽くまでも「子育てのための時間を確保する」という観点から行われるものということになります。ところが、上記の通り、今回の基準の見直しが違法な長時間労働の発覚を契機とするものであることや、従来より”くるみん認定”が企業イメージ向上のためのアピールという側面も持つ以上、残業時間が少ない=優良企業という図式は今後さらに世間に広まるものと考えられます。労働関連の法律も含め、仕事と時間の関係については国全体で再考すべき時期に来ているのかもしれません。

関連サイト

次世代育成支援対策推進法関係パンフレット(厚生労働省HP)

関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] yamauchi

詳細情報はありません。

このニュースに関連するセミナー

企業 法務ニュース コンプライアンス 労働法
【国際法務入門】組織再編 会社分割
2017年06月21日(水)
19:00 ~ 22:00
25,000円(税込) ※平成29年2月15日開催のLBS体験講座に参加された方は10,000円減算した金額とさせていただきます。 なお、単回申込みを複数回される場合は、上記減算は初回分のみ適用となりますのでご了承ください。
東京都新宿区
講師情報
登島 和弘
インヴェンティヴ・ヘルス・ジャパン合同会社 アジア太平洋地域法務責任者
1961年神戸市生まれ
中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
スタンレー電気㈱総務部庶務課法務担当を皮切りに、
日本AT&T㈱(米系)契約課長、松下冷機株式会社法務室主事、
セジデム株式会社(仏系)コーポレートサービス部統括部長・法務部長兼任等、
を歴任し、現職。
*企業名は当時のまま。
※日本企業・外資系企業両方での国際法務経験が有り、両者の観点から国際法務
について指導を行います。
国際法務入門者向けの契約法務習得セミナーになります。
当日は、下記の流れで、こちらで用意したビジネスシチュエーションを題材に、
国際法務経験豊富な講師との双方向でのコミュニケーションを行い、
ときに、少人数のグループでのディスカッションを織り交ぜながら、
参加者が思考しアウトプットするプログラムとなっております。

売買契約・共同開発契約の審査や作成に必要な「知識」を習得するのはもちろんのこと、
一方的に話を聞くセミナーとは異なり、各契約を検討する上での「思考法・仕事術」などの
実践的な能力を習得出来るのが特徴です。

【講師からケースの説明】→【グループディスカッション】→【各グループの発表】→【講師レビュー】

★「体験講座」(2月15日開催)の参加者の声★
・書籍等では実務に近い情報が無い為、講座で具体的なケースを想定し仕事の進め方を理解出来てる内容がとてもよかったです。
・少人数で法務業務を担当している為、自分自身の経験、知識、感覚で仕事をしてしまう事が多く、
法務業務をする上で大事な思考のフレームワークを学べて良かったです。
・講義内容はもちろんですが、他社の法務担当の意見を聞く事が出来て、とても参考になりました。

★今回のテーマ★
「組織再編 会社分割」
・債務超過の状態にある、米国の職業紹介会社の日本法人が、事業許可の更新のために充足すべき資産要件について、いかなる方法でこれを充たすかを、組織再編の手法を用いて検討します。
・上記事案をベースに、組織再編を進めるための、法務部門の関連ファンクション(社長室・経理財務部・人事部・広報部等)との協力体制の築き方・動き方について検討します。
※ こちらで事前課題を用意し、受講前にケース理解を深めていただきます。
※ 本講座は「リーガルビジネススクール 国際法務担当者育成コース(全六回)」の第四回講座を兼ねております。そのため、そちらの申込者と一緒に本講座を受講いただく形となります。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
企業 法務ニュース コンプライアンス 労働法
第84回MSサロン(名古屋会場)
2017年07月06日(木)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
夏目久樹
愛知県豊橋市出身
名古屋大学法学部卒業・グロービス経営大学院修了(MBA)
平成18年の弁護士登録以来、上場企業から個人事業主まで事業規模にかかわらず、労使間の団体交渉及び個別労働問題(残業代、懲戒処分、労働災害、セクハラ・パワハラ等)に携わり、その解決に尽力している。
また、企業間取引や事業承継・内部紛争(支配権争い等)に絡む案件にも注力している。
MBAを取得し、法律のみならず経営の視点も加味した解決方法をアドバイスすることを日々意識している。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「残業代請求に対する実務対応」です。
申込・詳細はコチラ
企業 法務ニュース コンプライアンス 労働法
第85回MSサロン(東京会場)
2017年07月26日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
講師情報
大東泰雄
のぞみ総合法律事務所 弁護士

平成13年慶應義塾大学法学部卒業,平成24年一橋大学大学院国際企業戦略研究科修士課程修了。
平成14年弁護士登録。
平成21年4月から平成24年3月まで,公取委審査局審査専門官(主査)として,独占禁止法違反被疑事件の審査・審判実務に従事。

公取委勤務経験を活かし,独禁法違反事件対応(リニエンシー申請,社内調査,公取委対応,審判等),企業結合審査対応,独禁法関係民事訴訟,下請法,景品表示法等に関する業務を主軸とし,その他企業法務全般を扱っている。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「下請法運用強化と対応のポイント」です。
申込・詳細はコチラ
企業 法務ニュース コンプライアンス 労働法
第83回MSサロン(大阪会場)
2017年06月15日(木)
19:00 ~ 21:00
2,000円
大阪府大阪市北区
講師情報
浜田雄久弁護士 河端直弁護士
弁護士 浜田雄久
1995(平成7)年4月 大阪弁護士会に弁護士登録、なにわ共同法律事務所入所
2004(平成16)年8月 アメリカ合衆国Duke University School of Lawに留学(翌年法学修士号取得)
2005(平成17)年8月 シンガポール共和国 Rajah & Tann 法律事務所において研修開始
2006(平成18)年3月 ニューヨーク州弁護士登録
2006(平成18)年8月 なにわ共同法律事務所復帰

弁護士 河端直
2014(平成26)年12月
大阪弁護士会に弁護士登録 
なにわ共同法律事務所入所
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「契約書チェックポイント(業務委託系契約)」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)

あわせて抑えておきたい関連記事

特許庁、親子会社で商標共有化への動き... はじめに 経産省の産業構造審議会では親会社が登録している商標を子会社も取得できるようにするため商標の審査基準を改定する方向で検討していることがわかりました。今年4月から施行が予定されております。今回は商標審査基準の改定案について見ていきます。 商標権とは 商標とは「文字、図形、記号、立体的...
フリーサイト掲載の写真使用で著作権侵害?... 1 はじめに  少々古い話題となってしまうが、昨年4月15日に東京地裁で下された判決をご存知だろうか。写真やイラスト、映像素材などを販売している業者が、自社の写真を無断で使用した者に対して、著作権侵害に基づく損害賠償請求を行った事例であり、原告の請求が認められたものであるが、なんと被告は写真を...
軽貨物運送の代理店契約でトラブルが発生しています... 軽貨物運送の代理店契約でトラブルが発生しています 1 はじめに  国民生活センターには現在、軽貨物運送の代理店契約に関する相談が多く寄せられているとのこと。高収入を確実に得ることができる、代理店になれば確実に仕事を紹介する、といった広告文言で軽貨物運送の代理店契約者を募り、仕事に必要との理由で軽自...