最高裁が大和証券に賠償命令、追い出し部屋訴訟について

はじめに

大和証券から関連子会社に出向し「追い出し部屋」で働かされていたとして会社側に200万円の損害賠償や未払い給与の支払を求めていた訴訟の上告審で最高裁は15日、上告棄却し一審二審の150万円の支払命令が確定しました。社員を自主退職に追い込むことを目的にいわゆる「追い出し部屋」を設置する企業が増えています。今回は追い出し部屋の適否について見ていきます。

事件の概要

原告の男性は平成10年に大和証券に入社し、平成24年10月に営業本部付課長代理として子会社の日の出証券に出向となりました。その後研修を受け大阪本店営業部に配属されました。そこでは営業部に席は用意されず、すでに廃止され空室となっていた第2営業部の部屋に案内され、ノルマ1日100件の営業外回りのみを命じられました。第2営業部の部屋は長机とパイプ椅子、パソコンが1台と電話が置いてあるだけであり営業部のファイルサーバーにもアクセスすることができず、電話営業やメール営業も禁止されておりました。男性は歓送迎会や月1度のコンプライアンス会議への出席も認められず、外回りで新規に獲得した顧客との取引も妨害により達成できなかったとのことです。男性は限度を超えた退職勧奨であり不法行為に当たるとして大和証券と日の出証券を相手取り200万円の慰謝料等の支払を求め提訴しました。

追い出し部屋とは

企業が不要となった従業員を自主退職に追い込むことを目的として設置する部屋をいわゆる「追い出し部屋」といいます。そこでは一般的に通常の業務とはかけ離れた業務をさせられることになります。極めて過酷で達成不可能なノルマを課され、達成できないと評価が下げられ、より過酷なノルマが課されるというもの。それとは逆に極めて簡易で単純な軽作業を延々させられるというものの2種類に大別できます。そして部署名も「人材強化チーム」「キャリア開発センター」「プロジェクト支援センター」といった一見もっともらしいものが付けられることが多いと言われております。そこでは他の従業員とは隔離され、会話や連絡をとることも禁じられることが一般的で精神的に追い込まれ、やがて自主退職へと追い込まれていきます。

追い出し部屋の適否

いわゆる追い出し部屋は企業が従業員を自己都合退職に追い込むことを目的としています。企業側から従業員を解雇することは労働基準法等で厳格に制限されており、相当の要件を満たさなければできません。そこで従業員の意思あるいは従業員との合意によって自主的に退職してもらうことを目指すことになります。こういった場合行われるのが退職勧奨や配置転換です。退職勧奨は会社側から自主退職を勧めるだけであり、あくまで自由意思で退職するのであるからそれ自体に違法性はありません。そして配置転換も会社側には一般的に配転命令権があることから原則適法と言えます。そして追い出し部屋もこれらの1形態ということができます。退職勧奨も強要やパワハラ等が伴うと違法性を帯びてきます。また配置転換も同様です。追い出し部屋も同じように濫用と認められる場合には違法と判断されます。

違法とされる要件

これまでも追い出し部屋に関する訴訟は数多くなされてきました。一般的に追い出し部屋で問題となるのが会社側の配転命令権の濫用にあたらないかという点です。会社は従業員との労務契約や就業規則によって幅広い配転命令権が定められていることが多いといえます。しかし本来の配転の運用とはかけ離れたものである場合には濫用にあたり違法であると判断されます。判例上配転命令権の濫用となるのは①業務上の必要性が存在しない場合②業務上の必要性が存在する場合でも、他の不当な動機・目的をもってなされた場合③労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合のいずれかに該当する場合に違法となると言われております。そして判断の際には業務上の必要性や人選の過程、配転後の業務内容や待遇、キャリアや年齢に見合ったものかといった点が総合的に考慮されているようです。そして自主退職に追い込むことや、上司に反抗したことへの報復といった目的でなされた場合も②の不当な動機・目的に該当することになります。

コメント

本件で日の出証券側は空室に隔離したことについて、顧客開拓に専念してもらうための有効利用としています。また既存の顧客を担当させなかった点についても営業経験の乏しいことから基本的な営業スキルを身に着けさせるためとしています。しかし一審大阪地裁は隔離したことにつき「極めて不自然でなぜ有効活用といえるのか」と疑問視しました。また外回りのみを命じたことについても「多くは門前払いされることから能力向上には限界がある」とし疑問視しました。そして1日100件のノルマに関しても勤務時間から1件4分弱で訪問しなくてはならず合理性は認められないとし、組織的かつ長期にわたる嫌がらせの態様は悪質であるとして大和証券と日の出証券に共同不法行為を認めました。配転から業務内容にいたるまで、その必要性と合理性が認められず、種々の待遇が嫌がらせないし自主退職に追い込むことを目的としていると判断されたものと言えます。その後の高裁、最高裁も同様に違法性を認め確定しました。不況や経営不振から人員削減の必要はあるものの、 解雇要件はなかなか満たすことが出来ないという状況から多くの企業ではこのような部署が設けられるという背景があります。しかしながら判例実務上、上記のように不当な目的・動機がある場合には違法とされ賠償が命じられることになり、また社会的なイメージも損なうことになります。人員整理が必要となった場合には個々の従業員と真摯に話し合うことが重要と言えるでしょう。

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01年東京大学法学部卒業
04年弁護士登録
12年米国Vanderbilt University卒業(LL.M.)
13年ニューヨーク州弁護士登録、英国University College London卒業(LL.M.)
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著作に『仕事でよく使う・すぐに応用できるビジネス契約書作成ガイド』(共著)(清文社、2017)、『実務Q&Aシリーズ 懲戒処分・解雇』(共著)(労務行政、2017)等がある。

■荻野聡之
アンダーソン・毛利・友常法律事務所/アソシエイト弁護士

03年東京大学法学部卒業
06年東京大学法科大学院卒業(法務博士(専門職))
08年弁護士登録
労働法、危機管理、事業再生等の法分野に関する業務を中心に取り扱っている。
著作に『企業のための労働実務ガイド1 Q&Aと書式 解雇・退職』(共著)(商事法務、2013)、『労使双方の視点で考える 27のケースから学ぶ労働事件解決の実務』(共著)(日本法令、2015)、『M&Aにおける労働法務DDのポイント』(共著)(商事法務、2017年)等がある。

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淵邊 善彦
ベンチャーラボ法律事務所 代表弁護士

1987年 東京大学法学部卒業
1989年 弁護士登録
1995年 ロンドン大学UCL(LL.M.)卒業
2000年よりTMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年より中央大学ビジネススクール客員講師(13年より同客員教授)
2016年より2018年まで東京大学大学院法学政治学研究科教授
2019年ベンチャーラボ法律事務所開設

主にベンチャー・スタートアップ支援、M&A、国際取引、一般企業法務を取り扱う。

主著として、『業務委託契約書作成のポイント』(共著)、『契約書の見方・つくり方(第2版)』、『ビジネス法律力トレーニング』、『ビジネス常識としての法律(第2版)』(共著)、『シチュエーション別 提携契約の実務(第3版)』(共著)、『会社役員のための法務ハンドブック(第2版)』(共著)などがある。

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