近隣住民によるマンション建築確認の取消訴訟について

はじめに

世界遺産下鴨神社の隣接地で建設予定の分譲マンションを巡り、近隣住民など8人が京都確認検査機構を相手取り建築確認の取り消しを求める訴えを京都地裁に起こしていることがわかりました。建造物の建築に際して、処分の当事者以外の住民等から起こされる行政訴訟について見ていきます。

事件の概要

下鴨神社は1994年に世界遺産に登録されました。2015年3月、その境内南端のいわゆる緩衝地帯とされる部分にJR西日本不動産開発(兵庫県尼崎市)合計8棟からなる低層高級マンションを建設する計画が発表されました。50年間の定期借地権を付けて分譲する計画で、下鴨神社は年間8000万円の地代によって式年遷宮の費用を賄うとしています。近隣住民は神社としての神聖・荘厳さや風致・景観を損ね、またユネスコが求める世界遺産としての価値を失うとして指定確認検査機関である京都確認検査機構による建築確認に対し審査請求の申立てを行っておりました。また敷地内の樹木45本の伐採を認めた京都市風致地区条例による風致許可も違法であり、それに基づく本件建築確認も違法であるとして京都地裁に取り消しを求める訴えを提起しました。

建築基準法上の規制

建築基準法によりますと、一定の規模以上の建造物を新築、増改築、大規模修繕等を行う場合には建築確認を受けなければならないとしています(6条1項)。建築確認とは工事の着手前に、その計画が建築基準関連規定に適合するかについて確認を行い、適合すると判断された場合には確認済証が交付されるというものです。確認を行うのは通常自治体の建築主事ですが、平成11年改正から指定確認検査機関という民間事業者によってもなされるようになりました。事業者は建築確認を受けなければ工事に着手することができません。

取消訴訟

行政事件訴訟法3条2項によりますと、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に対しては取消訴訟を提起することができます。行政処分とは許可や認可、といった受益的なものから、不許可処分、営業停止処分といった不利益なものもあります。建築確認も行政処分の一つです。取消訴訟では、問題となっている処分が法に反して違法であると認められた場合には裁判所により取り消されることになります。通常取消訴訟は処分を受けた者や処分の申請をしたのに不許可となった者といった当事者が提起します。しかし一定の要件の元に近隣住民や一般消費者、消費者団体といった第三者にも取消訴訟の提起が認められることがあります。これを原告適格の問題といいます。

第三者の原告適格

行政事件訴訟法9条1項によりますと、「処分の取り消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」に限り取消訴訟を提起することが認められております。通常は処分の相手方当事者です。しかし一定の場合には第三者も該当します。判例によりますと処分の根拠となる法令上、不特定多数の人の個別的利益として保護している利益が侵害されることになる場合には、その人も「法律上の利益を有する者」に該当するとされております。つまり根拠法令によると近隣住民等の利益にも配慮して、不利益を被らせないように規定されていると解釈できる場合には近隣住民にも原告適格が認められることになります。認められた例としましては、騒音被害を受ける飛行場の周辺住民、原子炉の周辺住民、崖崩れにより被害を受ける可能性のあるマンション周辺住民、日照被害を受ける建築物の周辺住民等が挙げられます。利益の内容が住民の生命や身体と言った重要なものほど認められやすいと言えます。

コメント

本件で下鴨神社の近隣住民には世界遺産にも登録され、歴史的価値の高い神社の静謐で荘厳な環境の下で生活するという利益が損なわれようとしています。この利益が建築確認という処分の根拠となる関係法令群によって保護されていると解釈された場合には原告適格が認められることになります。しかし建築確認は基本的に建築しようとしている建造物が法の基準を満たしているかを機械的に判断するもので、満たしている場合には確認済証を出さなくてはなりません。そこには裁量の余地は無いとされており、また住民の利益の内容も生命・身体といったものではないことから本件では原告適格が認められる可能性は低いのではないかと思われます。仮に認められても、あくまで取消訴訟の入り口に入っただけであり、そこから本来の処分の適法性が判断されます。このように周辺住民による訴訟で建築確認や事業認可が取り消されることは少ないと言えます。しかし事業計画を策定した段階で周辺住民による反対運動等が起こった場合、行政は住民の理解を得るよう行政指導を行うことがあります。建築確認には裁量はありませんが、合理的な範囲内で行政指導中は確認済証の交付を留保することも判例上は認められております(最判昭和60年7月16日)。大規模なマンションや商業施設の建築を計画している場合には周辺住民の意向にも注意を払い、理解を得る努力が必要と言えるのではないでしょうか。

関連業務タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

このニュースに関連するセミナー

法務ニュース 訴訟・行政 行政対応
【国際法務入門】M&A 合弁会社設立
2017年07月19日(水)
19:00 ~ 22:00
25,000円(税込) ※平成29年2月15日開催のLBS体験講座に参加された方は10,000円減算した金額とさせていただきます。 なお、単回申込みを複数回される場合は、上記減算は初回分のみ適用となりますのでご了承ください。
東京都新宿区
講師情報
登島 和弘
インヴェンティヴ・ヘルス・ジャパン合同会社 アジア太平洋地域法務責任者
1961年神戸市生まれ
中央大学法学部法律学科卒
立命館大学法務研究科修了
スタンレー電気㈱総務部庶務課法務担当を皮切りに、
日本AT&T㈱(米系)契約課長、松下冷機株式会社法務室主事、
セジデム株式会社(仏系)コーポレートサービス部統括部長・法務部長兼任等、
を歴任し、現職。
*企業名は当時のまま。
※日本企業・外資系企業両方での国際法務経験が有り、両者の観点から国際法務
について指導を行います。
国際法務入門者向けの契約法務習得セミナーになります。
当日は、下記の流れで、こちらで用意したビジネスシチュエーションを題材に、
国際法務経験豊富な講師との双方向でのコミュニケーションを行い、
ときに、少人数のグループでのディスカッションを織り交ぜながら、
参加者が思考しアウトプットするプログラムとなっております。

売買契約・共同開発契約の審査や作成に必要な「知識」を習得するのはもちろんのこと、
一方的に話を聞くセミナーとは異なり、各契約を検討する上での「思考法・仕事術」などの
実践的な能力を習得出来るのが特徴です。

【講師からケースの説明】→【グループディスカッション】→【各グループの発表】→【講師レビュー】

★「体験講座」(2月15日開催)の参加者の声★
・書籍等では実務に近い情報が無い為、講座で具体的なケースを想定し仕事の進め方を理解出来てる内容がとてもよかったです。
・少人数で法務業務を担当している為、自分自身の経験、知識、感覚で仕事をしてしまう事が多く、
法務業務をする上で大事な思考のフレームワークを学べて良かったです。
・講義内容はもちろんですが、他社の法務担当の意見を聞く事が出来て、とても参考になりました。

★今回のテーマ★
「M&A 合弁会社設立」
日本の製薬企業が豊富なノウハウと経験を有する自社のIT部門を独立させ、自社を含む他の製薬企業向けに幅広くITサービスを提供できる企業を設立しようとするとき、同社にメインフレームを提供している米国のコンピュータ会社の協力を仰ごうとするケースを題材に、企業間における事業協力の形態を検討します。
※ こちらで事前課題を用意し、受講前にケース理解を深めていただきます。
※ 本講座は「リーガルビジネススクール 国際法務担当者育成コース(全六回)」の第五回講座を兼ねております。そのため、そちらの申込者と一緒に本講座を受講いただく形となります。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)
法務ニュース 訴訟・行政 行政対応
第85回MSサロン(東京会場)
2017年07月26日(水)
19:00 ~ 21:00
2,000円
東京都新宿区
講師情報
大東泰雄
のぞみ総合法律事務所 弁護士

平成13年慶應義塾大学法学部卒業,平成24年一橋大学大学院国際企業戦略研究科修士課程修了。
平成14年弁護士登録。
平成21年4月から平成24年3月まで,公取委審査局審査専門官(主査)として,独占禁止法違反被疑事件の審査・審判実務に従事。

公取委勤務経験を活かし,独禁法違反事件対応(リニエンシー申請,社内調査,公取委対応,審判等),企業結合審査対応,独禁法関係民事訴訟,下請法,景品表示法等に関する業務を主軸とし,その他企業法務全般を扱っている。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「下請法運用強化と対応のポイント」です。
詳細はコチラ (申込は、終了しています。)

あわせて抑えておきたい関連記事

従業員のメンタルヘルス対策 7月27日に発表されたOECD(経済協力開発機構)の報告によると、日本では精神病を原因とする自殺率が他のOECD諸国に比べて依然として高いことが明らかとなった。OECD諸国の自殺率は10万人当たり12.4人であるのに対して、日本は20.9人となっているのである。2000年から2011年の間に6.3...
ウーバー(Uber)は法的規制を乗り越えられるのか... ◆ウーバー(Uber)は法的規制を乗り越えられるのか  米国発の配車アプリ「Uber」を提供するウーバー・テクノロジーズの幹部2名が、フランスで違法なタクシーサービスを提供した罪など(欺瞞的商慣行や違法な個人情報保管を含む6つの罪)で、刑事裁判に処されている。そんな中、9月30日、パリの裁判所は、...
フェイスブックの顔認識機能は、プライバシー侵害?... 投稿写真に自動的に友人名 フェイスブックの顔認識機能とは、投稿された写真に写っている人物を自動で認識し、ユーザーにタグ付けを提案するというもの。過去にタグ付けされた写真と比較して、合致する人物を割り出す仕組み。フェイスブックによれば、これにより、いちいち写真にタグ付けする面倒を感じるユーザーでも、...