震災復旧談合で罰金刑、独禁法上の刑事責任について

はじめに

東日本大震災で被災した高速道路の復旧談合を巡り独禁法違反の罪に問われていた道路舗装会社の一つである株式会社佐藤渡辺に対し11日、東京地裁は罰金1億2千万円の判決を言い渡しました。談合を行った場合、独禁法により行政処分である排除措置命令や課徴金が課されることになりますが、別途刑事罰がかされることがあります。独禁法上の刑事責任について見ていきます。

事件の概要

東日本大震災で被災した高速道路に関し東日本高速道路東北支社が2011年8月から9月にかけて発注した舗装工事12件の競争入札で参加した道路舗装会社20社が入札談合を行っていたとされています。20社には不当な取引制限を行ったとして公正取引委員会により排除措置命令が出され、そのうちNIPPO、日本道路、前田道路、大成ロテック、東亜道路工業、大林道路、常磐工業等の11社に対しては合計約14億円の課徴金納付命令が出されました。本件入札談合では前田道路、NIPPO、日本道路、世紀東急工業の大手4社が調整役を担い、各社の要望を聞いた上で受注予定者を決定していました。それにより復興財源から約176億円が投じられました。

独禁法上の刑事罰

独禁法では私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法、企業結合についての規定を置き、それぞれに排除措置命令や課徴金納付命令等を課すことができる場合を規定しております。そしてそのうち私的独占、不当な取引制限についてはこれら行政処分の他に5年以下の懲役又は500万円以下の罰金という刑事罰が設けられております(89条)。そして両罰規定として法人としての会社自体にも5億円以下の罰金が課されることになっております(95条1号)。不当な取引制限については罰則規定は置かれておりません。独禁法上の刑事罰に関しては公取委が検事総長に告発することになっており(74条)、第一審裁判所は東京地裁の専属管轄となっております(85条)。これらの疑いが生じた場合、公取委には犯則調査権限が与えられており、裁判所の許可を得て臨検、捜索、差押えといった強制捜査ができることになっております(102条2項)。

公取委の告発方針

平成17年改正で課徴金減免制度が設けられたことに際して公取委はどのような場合に刑事告発を行うかの指針を発表しております。入札談合等を行っても、いち早く公取委にその旨申告した場合には課徴金が減免される、いわゆるリニエンシー制度が規定されております(7条の2、10項)。この制度の活用を促し独禁法の適正な運用を図る目的で刑事告発を行う場合の指針を明らかにしております。具体的には以下のとおりです。
(1)告発する場合
①カルテル、入札談合、共同ボイコット、私的独占等の一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為のうち、国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案であること。
②違反を反復して行っている事業者、排除措置命令に従わない事業者等、公取委の行政処分によっては独禁法の目的が達成できないと考えられる事案であること。

(2)例外
①調査開始前に単独で最初に課徴金免除にかかる報告及び資料の提出を行った事業者。
②調査開始前に他の事業者と共同して最初に課徴金免除にかかる報告及び資料の提出を行った事業者。
③上記①②の事業者の役員、従業員等で独禁法違反行為をした者のうち、公取委への報告、調査協力等①②と同様と認められる者。

(3)告発問題協議会
上記(1)に該当する事業者等が告発されることになり、例外的に(2)に該当する事業者等は告発がなされないことになります。そして告発に当っては、円滑・適正を期するために最高検財政経済係検事等を含めた告発問題協議会を開催し、当該個別事件に係る具体的問題等について意見や情報の交換を行うこととなっております。

コメント

本件で入札談合に参加し課徴金納付命令が出された11社のうち、常磐工業を除く10社が刑事告発され起訴されました。常盤工業は工事を落札しましたが、当初の落札予定者ではなかったため起訴されませんでした。また世紀東急工業は落札しましたが事前に公取委に申告したため課徴金が免除となっております。東北大震災の復興事業で道路舗装会社20社に及ぶ大規模な入札談合がなされ巨額の復興費が投じられたことを鑑みて、国民生活に広範な影響を及ぼす悪質かつ重大な案件であり、課徴金納付命令だけでは独禁法の目的が達成できないと判断されたと言えます。独禁法違反事件は経済的犯罪であることから刑法等と比較して罰金の額は相当高額となっております。過去の事例を見ましても懲役刑のほとんどには執行猶予が付いておりますが、罰金に関しては個人、法人含めて多くの場合で高額な刑が言い渡されております。リニエンシー制度である、課徴金減免制度は高額な課徴金を免れるだけでなく、刑事告発も回避することができる重要なものと言えます。事業活動や取引において同業者との相談等、独禁法に違反する可能性が疑われる場合には公取委への迅速な相談等が非常に有効であると言えるでしょう。

企業法務ナビよりお知らせ
本記事は、約1年3ヶ月前に投稿された記事です。法律を内容とする記事の特性上、その改正や他の特別法の施行、経過措置期間の経過、関連判例の出現などによって内容が古くなり、現在は誤りとなる可能性がありますので、ご注意下さい。
関連業務タグ:
関連法律タグ:
 
[著者情報] mhayashi

詳細情報はありません。

このニュースに関連するセミナー

法務ニュース 訴訟・行政 コンプライアンス 独占禁止法
第93回MSサロン(名古屋会場)
2018年02月15日(木)
19:00 ~ 21:00
2,000円
名古屋市中区丸の内
講師情報
和田圭介
愛知県春日井市出身
京都大学法学部・Duke大学LLM卒業。
2005年弁護士登録。
2013年ニューヨーク州弁護士登録。
世界最大規模の国際法律事務所であるクリフォードチャンス法律事務所を経て、
2015年、IBS法律事務所を開設。
国内外の企業法務案件を主に扱っており、国際取引・英文契約を得意としている。
大手総合商社・外資系企業の法務部への出向経験があるため、企業法務の現場の問題意識にも通じている。
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「法務部員のための国際仲裁入門」です。
申込・詳細はコチラ
法務ニュース 訴訟・行政 コンプライアンス 独占禁止法
第92回MSサロン(大阪会場)
2018年02月06日(火)
19:00 ~ 21:00
2,000円
大阪府大阪市北区
講師情報
山口昌之
2005(平成17)年10月
大阪弁護士会に弁護士登録
なにわ共同法律事務所入所
2015(平成27)年1月
山口法律会計事務所入所
セミナー(60分)の後、交流会(60分)を行います。
今回のセミナー内容は、 「社員の不祥事に対する会社としての対処法(第2回)」です。
申込・詳細はコチラ

あわせて抑えておきたい関連記事

内部統制システムとは 近年、企業において内部統制システムの構築が重要だと言われることがあります。そこで今回は内部統制システムについてご説明したいと思います。 内部統制システムとは  会社法によりますと内部統制システムとは「取締役の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制」とされております(362...
社内でできる情報セキュリティ対策とは?...  今年は大手企業から大量の個人情報が流出し、大きな注目を集めました。政府は、情報の不正取得に対する未遂行為を処罰対象とすることや罰金引き上げなどを盛り込んだ不正競争防止法改正案を来年の通常国会に提出し、2016年度にも実施する方針です。  企業においても社内のセキュリティ対策は重要なものですので...
改正著作権法成立、出版権の拡充は海賊版退治の有効打となるか?... 事案の概要 これまで紙媒体での書籍のみを対象としていた出版権を電子書籍にも拡大し、著作者と契約を結んだ出版社等の事業者が、デジタル海賊版の差し止めを行えるようにする改正著作権法が4月25日、参議院本会議で可決・成立した。来年の1月から施行される。 出版権とは、著作者など複製権を有する者との契約に...